現役でありながら会社を立ち上げ、その収益で少年少女へスキー用具を寄付している船木和喜
2月9日、平昌オリンピックが開催される。98年の長野オリンピックのスキージャンプでラージヒル個人金、団体金、ノーマルヒル個人銀を獲得した船木和喜が、これから戦う若者たちへエールを送る。
長野オリンピックに22歳で初出場。いきなり金メダル2つと銀メダル1つを獲得した船木は、意外にも国を背負うプレッシャーは感じていなかったという。
「普段から海外では大きなブーイングの中で戦っていますからね。ジャンプはあくまでも個人対個人の戦いです。団体戦も全員が同時にスタートするわけではないので。オリンピックだからといってやっていることは普段と変わりません。その重さがわかったのは、金を取ってからですね」
長野の次のソルトレークでは、金メダル以外は認めてもらえない空気になった。でも、メダルはゼロに終わる。日本人に不利となるルール変更があったともいわれた。
「西洋中心のスポーツですから、ある程度はしかたがないんですよ。それまではうまくこなしてきていたので、そのときの日本チームの対応能力が低かったということです」
アウェーの地では、気持ちを強く持たないと勝てない。
「金を取った後、ブーイングはさらに大きくなりましたね。自国の選手を応援しますから。“もう、飛ぶなー!”とか言っているんだと思いますが、3万人が声をあげていると何を言っているかわからない(笑)。慣れればむしろ心地よくなってきます」
気持ちの面だけでなく、飛距離の面でもブーイングが味方になったのだという。
ヒゲの生えた女性選手
「3万人が暖かい息を吐いてくれるので、気温が上がるんです。試合が終わると雪がなくなるくらいで、上昇気流が発生します。それで0・5〜1メートルくらいの風がジャンプ台に向かってくるんですよ。向かい風のほうが飛距離がのびますから、ブーイングが大きいと有利になる。
だから、あえて中指を立てたりする選手がいっぱいいますよ。原田さんはどこでも好かれていましたが、僕は頭にきたお客さんに雪玉を投げつけられるぐらい。おかげで、僕のときは向かい風が強く吹いて、味方してくれました(笑)」
寒い中での競技なので、中にはアルコールで身体を温める選手もいたというから驚く。
「北欧の選手は色素が薄いから冷えるのが早くてかわいそうなんですよ。酒より問題なのはドーピングですね。きれいな女性選手を近くで見ると、ヒゲがふさふさ生えていてビックリしたこともあります(笑)。薬物はバレるので、みんなホルモンドーピングをやっていました」
検査が厳しくなるのはクリーンな日本人選手に有利に働く。ただ、体格のハンデはどうにもならなかったようだ。
平昌でも厳しい状況の中で戦うことになる若い選手に、
「萎縮するようでは話になりません。雰囲気に慣れるのはもちろん、コノヤローという気持ちを持たなきゃ。せっかくメダルを取ってもインタビューで“楽しい、よかった”しか言わないようではダメ。もっと自分をアピールすることが、チームや後輩のためにもなっていくんです」
40代で現役を続ける船木の言葉は、修羅場を経験した者だけが持つ重みがあった。