卒ランならぬ卒業セーラー。派手な刺繍や友人や親、先生への感謝の言葉が特徴だ(青木さん提供)
かつて特攻服は神聖なもの
かつて暴走族のシンボルだった特攻服。だが、現在では特攻服を着て単車を暴走させる少年たちを見かけることはほとんどない。というのも、警察は特攻服の少年たちが集結すれば「暴走行為を助長する」などと警戒し、補導の対象とする方針を打ち出し、規制を強めているからだ。
「かつて特攻服は神聖なものでした。チームの名前を背負い、仲間たちとの絆、先輩から後輩へと受け継ぐバトン。そして鎧でした」
「特攻服は'70年代にその原型となるものが誕生しました。チーム全員が同じ格好をしている姿は圧巻。ほかのチームがやればうちもやろう、このデザインにしようなどと、全国に広まっていきました」
「チームによっては所属メンバーを糸の色で分けたり、シンボルマークを大きく刺繍し、ひと目で所属や役職がわかるようにしていました」
「当時の不良は実は地域の治安を守る、という強い地元愛と正義感を持っていました。だから悪いことは地元ではしない(苦笑)。チームに恥じる行為をすれば追放になり、間違った道に進もうとしている仲間がいれば全力で止めました」
「一緒に悪いことをするので、何があっても裏切らない連帯感がありました。仲間への信頼はとても厚い」
「『打倒・警察』などを刺繍しないようにと指導されたこともありましたが今はそうした依頼自体もない。現在ではテレビ番組の企画や『氣志團』などのバンドの衣装、アイドルのファンやイベントなどでのコスプレ目的の注文がほとんど。みんな暴走族や不良ではありません」
「'90年代には“爆発夜詩危”やファンたちを表す“運命共同体”などの文字を背中に入れた特攻服やメンバーをイメージしたものをライブ前にファンが注文していました」
不良からアイドルに変わる特攻服文化
「アイドルなど、推しへの思いを特攻服に刺繍して表現するファンもいます」
「定番は『友情不滅』という言葉。今は親や教師への感謝を刺繍することが多い。中には親がオーダーし、盛り上がる様子を冷めた目で見る子どももいますね」(青木さん)
「先輩から譲りうけた長ランに先輩や友人の名前や親への感謝の思いなどを刺繍しました。僕1人でしたね(笑)。でも誰よりも目立っていました。以前、先輩たちが着ていたのを見て、カッコいいと思っていたので、思い切って着てよかった」
と満足そうに語った。青木さんも、「これだけの刺繍だとやっぱり圧巻ですね」と笑みを浮かべる。
「一体、何の目的で着ているのか気になっています」
「今や特攻服や刺繍は文化のひとつになりました」