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明智光秀を演じる長谷川博己 (c)NHK
「明智光秀を通して、時代の過渡期を描くというテーマがあります。現代にもつながる大河ドラマになると思います」
一本気な話は今の時代に合わないのでは
「原点回帰ではないですが、戦国時代の群像劇をやりましょうという思いが出発点としてありました。室町幕府が崩壊していく中で、旧時代的なシステムが機能しなくなったとき、新たな若者たちが支えていく。それは今の時代にも言えることなのではないかと。そういったテーマがある中で、誰の視点で描けば群像劇として魅力的になるかと考えたときに、メインの脚本を担う池端(俊策)さんとともに、“明智光秀がいいのではないか”となりました」
「豊臣秀吉のように何もないところから自分の力だけで成り上がっていく話や“日本を変える”といった一本気な話は今の時代に合わないのではないかと池端さんとお話ししました。現代はそういった物語に対して、視聴者が嘘くささを感じてしまうというか。ドラマとしては、ひとりの人間が世の中を変えていくほうが作りやすい。ですが、われわれはそういった物語を作りたくなかったんですね」
『麒麟がくる』の序盤では、光秀が主君・斎藤利政(道三)の密命を受け、尾張に潜入したり、鉄砲の作り方を調べたり東奔西走する。その姿は、さながら上司に命じられて仕事を覚え、存在感を増していく新入社員のようだ。
「意志は重要ですが、世の中はそれほど甘くはありません(笑)。人間は、成り行きで生きているところのほうが大きいと思うんですね。例えば、“これをやりたい”と強い意志を持っていたとしても、会社や組織によって左右されるところが多分にある。ドラマの中でも、光秀はやや受け身で動いていきます。美濃の国の中で自分ができることをやる。とても現代的なリアリティーに満ちた主人公だと思っています」
「『シン・ゴジラ』もそうでしたが、長谷川さんには正義感や透明感を一直線的に出せる魅力があります。池端さんが気にしていたことのひとつに、若い時代の光秀の“病んでいなさ”があります。というのも、斎藤道三や織田信長など光秀の周りは病んでいる人たちばかりです(笑)。みな、戦のない世の中を実現したい。だけど、そのためには戦わなければいけない。そういった病んでいる時代感の中で、長谷川君だったら“病まない光秀”を演じることができると期待しています」
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黒澤明を意識したOP 鮮烈な衣装にも意図が
「中島丈博さん、市川森一さん、ジェームス三木さんといった名だたる脚本家が大河ドラマを手がけていた時代の“群像”大河ドラマを、2020年に作りたいという思いもあって、池端さんに脚本をお願いしたという経緯があります」
「王道の大河を表現するために、“ズンズン”と重低音で迫ってくるオープニング音楽にしたかった。また、スケールの大きいハリウッド映画のようなテイストも含ませたかったのです。作曲を担当するジョンは、歴史好きで日本史にもくわしいので適任でした」
『アバター』などの予告編音楽も手がけたジョン・グラムは、ハリウッドの第一線で活躍する現役バリバリの作曲家。彼が手がけた音楽に、たった12カット(!!)しかない映像、そして重厚感が漂う字体が重なることで、世界のクロサワのようなワクワクとゾクゾクが詰まったオープニングができあがった。
「まだ4Kで作り始めたばかりですから何が正しくて、何が正しくないのか、われわれも手探りなところがある」としながらも、鮮やかな衣装には次のような意味合いもあるとか。
「最初こそ合戦シーンなどロケが多いですが、6話目以降から屋内のセットシーンが増えていきます。建物自体は地味な色調ですから、主要登場人物が地味な衣装を着ていると誰が誰だかわからなくなるのではないかと(苦笑)。光秀は緑、信長は黄色という具合に、衣装で人物を識別しやすくするといった意図もあります」
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「ひとつだけ言えるのは、信長家臣団がチームワークを駆使して何かを切り開いていく……というような方向性ではなく、室町幕府の崩壊という点に大きなテーマが当たります」
「いつの時代もそうだと思うのですが、頭の固い前時代的な人がいて、そういった人間が旧態依然とした中で物事を決めていく。そこに気鋭の若者が現れて、古いシステムと戦い変えていく──。その急先鋒に光秀がいます。荒んだ世の中を終わりにしたいという思いは、足利将軍家も松永久秀も信長もみんな思っている。その群像の中で、光秀がどんな行動を取るのか、その姿をお楽しみいただけたら」
(取材・文/我妻アヅ子)