※写真はイメージです
ヨーグルト内の菌は腸内に定着しない
「ヨーグルトに含まれる善玉菌が、生きて腸に届けば、健康にいい働きをしてくれるのは間違いありません」
「ヨーグルトをいくら食べても、そこに含まれる菌は、自分の腸内には定着してくれません。だからといって、ヨーグルトを食べなくなってしまったら、腸内にはいなくなってしまうのです」(青江先生、以下同)
食物繊維は、善玉菌を増やすためのエサ
「腸内細菌は、生まれたときにお母さんの産道からもらいます。腸に定着する常在菌は、そのときに決まってしまうため、もともと善玉菌、悪玉菌それぞれの種類が多い人、少ない人がいます」
「善玉菌を増やすには、善玉菌のエサとなる食物繊維を、しっかりととることです。エサがあれば、常在する善玉菌は増えていきます」
「米国スタンフォード大学の研究によると、食物繊維が少ない食事をしている女性は、自分だけでなく、その子どもも腸内環境が悪くなり、孫の代になると腸活をしても取り返しがつかないほど悪玉菌だらけの腸になると報告しています。自分の先の代まで悪い腸内細菌が受け継がれてしまうので早いうちに、腸活を始めたほうがいいと思います」
「食物繊維というと、便の量を増して便秘に効果があると思っている方が多いようです。もちろん、そのような効果もありますが、最も大切なのは腸内発酵です。
「2000年ごろから発酵性食物繊維の研究が盛んになり、具体的にどのような食物に入っているかが、わかってきました。食物繊維というと、こんにゃくや野菜に多く入っているというイメージがありますが、それらは発酵力がないか、低発酵のものがほとんど。腸活のための食物繊維を選ぶ基準は、高発酵かどうかです」
「なぜ発酵性食物繊維がいいかというと、発酵による産生物が健康に役立つことがわかってきたからです」
腸内発酵とは身体にいい物質
「発酵というと“腐る”というイメージを待つ人がいますが、発酵と腐敗は全く違います。両方とも細菌が有機物を分解することですが、発酵は人間の身体にいい物質をつくること、腐敗は身体に害のある物質をつくりだすことです」(青江先生、以下同)
「善玉菌は食物繊維をエサにして発酵し、身体にいい物質、乳酸や酪酸、酢酸、プロピオン酸などをつくります」
「一方、悪玉菌は腐敗を起こして、身体に害のある物質、硫化水素やアンモニア、クレゾールなど発がん性がある身体へ悪影響を及ぼす物質をつくります」
「動物性食品です。食物繊維が少なく、動物性食品が多い人は大腸がんのリスクが高いことがわかっています」
特に話題となっているのが“酪酸(らくさん)”。酪酸を産生する善玉菌を酪酸菌といい、最近の腸活は、酪酸菌を増やすことが大切だといわれている。
「酪酸は大腸の粘膜の上皮細胞のエネルギーとなり、腸を活発に動かしてくれます。実は、大腸の上皮細胞のエネルギーのほとんどは酪酸だといわれています。さらに、上皮細胞が活発に動くことで酸素を消費し、酸素が嫌いな酪酸菌が増え、悪玉菌の繁殖を防ぎます」
「酪酸菌は腸内を弱酸性にして、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌がすみやすい環境をつくります。善玉菌どうしが助け合っているのです」
「酪酸菌を含む短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)が腸内に多い母親から生まれた子どもは、メタボにならない、という研究結果があります」
《酪酸の働き》
●善玉菌がすみやすい環境をつくる
●水分吸収の促進
●腸の動きをよくする
●がん化細胞の増殖抑制
●便秘の改善
●アレルギーの抑制
●潰瘍性大腸炎の抑制
●肥満の予防
最新研究でわかった酪酸菌で健康長寿
「京都市と京丹後市に住む、65歳以上のそれぞれ51人の腸内細菌を調べました。すると、京丹後市のほうが酪酸菌の分類であるファーミキューテス門が10%も多いことがわかりました。さらに、京丹後市の腸内細菌のトップ4は、すべて酪酸菌でした」
「京丹後市は長寿の地域で、人口10万当たりの100歳以上の人数が全国平均の約2・8倍です。大腸がんの罹患(りかん)率も京都市に比べて低いことがわかっています」
「大腸の奥まで届き、ゆっくり発酵する食物繊維をとることが、酪酸を増やすことにつながります。酪酸菌は酸素が嫌いなので、主に大腸の奥のほうで活動しています。
「野菜に含まれるセルロースという食物繊維は、植物の細胞壁に包まれているため、ほとんど発酵しません。
(取材・文/山崎ますみ)
青江誠一郎先生 ◎大妻女子大学家政学部食物学科教授。日本食物繊維学会理事長。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞。
内藤裕二先生 ◎京都府立医科大学消化器内科学教室准教授。同附属病院内視鏡・超音波診療部部長。消化器病学の専門家として最先端の研究を行う傍ら、臨床の場で30年以上にわたり5万人以上を診察した経験がある。長寿腸内菌として知られるようになった「酪酸菌」研究の第一人者。