松居一代
とにかく強烈だった。
松居一代の、女優としての活動はあまり記憶がない。2001年に俳優・船越英一郎と結婚したことで、顔と名前を知ったのだが、その後の八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍には舌を巻いた。掃除グッズや鍋を売りさばき、億万長者なのに質素倹約な昭和の心を持ち、庶民の心をがっちりつかんだ手だれの女性という印象。
巷では「今日のカズヨ、見た~?」
そんな彼女が2017年、別の意味で脚光を浴びることに。船越が離婚調停を申し立てたことに反論。YouTubeを駆使して、なりふりかまわず夫の不倫を糾弾する姿は、まさに“ひとりワイドショー”。サスペンス仕立てで、夫のプライベートを暴露しまくる姿に危機感を覚えたテレビ局は、あまり大々的には取り上げなかった記憶がある。唯一、フジの『グッディ!』のスタッフが熱心に彼女を追い、地方にまで出向き、つぶさにレポートしていたっけ。
あまりに過激な物言いの動画は、一瞬、視聴者をテレビ離れさせたといっても過言ではない。「今日のカズヨ、見た~?」が合言葉になるほど、みんなカズヨに夢中になった。
暴露されて名誉毀損(きそん)されまくった船越には申し訳ないが、カズヨが繰り広げるサスペンス劇場は面白かった。今のテレビがやらないことがてんこ盛り。もちろん話半分に見る人、ネタとして見る人も多かったが、「夫の不倫を許すまじ」と思っているご婦人方からは、それなりの支持を得た。
ただ、調停離婚が成立したときの記者会見は、なんというか「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」感が満載。質問しても自分流の回答に徹しており、記者たちの疑問がイマイチ解消されず。会見中に、86歳の母親に電話をかけて、涙ながらに報告したのは演出がにおった。当時、松居の母の家にもカメラが入っていたのだが、母は戸惑っていた。というか、娘の離婚にそこまでの関心がないようにも見えた。
翌年、船越サイドから名誉毀損で刑事告発されるも、不起訴処分に。船越サイドは「今回に限り、宥恕(ゆうじょ)します」とコメントした。宥恕って。初めて聞いた言葉だったよ。いろいろと勉強になりましたわ、この騒動で。
夫の俳優業を支え、家事もビジネスも完璧にこなし、財を成した妻を“悪妻”呼ばわりするのもどうかと思うが、やはりエキセントリックな言動には、いろいろと思うところがある。女優・川島なお美が亡くなった後、自身の著書出版会見で、船越との交際を暴露する姿は鳥肌モノだった。過去を許さない嫉妬と不寛容、人の興味を煽るためには手段を選ばず。「完璧」はある種、脅威であり、恐怖でもある。
現在のブログを見る限り、穏やかに暮らしているようだし、英語を勉強して虎視眈々(こしたんたん)と新しいビジネスを考えているようでもある。タダでは転ばない不屈の精神。カズヨスピリッツフォーエバーである。
(文/吉田潮)
吉田潮 ◎コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として週刊新潮で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)、『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数
外部リンク