赤坂御所のお談話室で陛下と地理について語り合う愛子さま(2019年11月25日)
18歳のバースデーを迎え、来年には大学に進学される予定の愛子さま。ご両親が中心となって即位関連の儀式が行われる一方で、ついに政府は安定的な皇位継承を行うための議論を始める模様だ。
現行の制度では皇位継承が可能な男性皇族は秋篠宮さまと悠仁さま、常陸宮さまのみ。将来的に皇室は、悠仁さまのご家族だけになり、皇統が途絶えかねない状況。
「そこで政府は、来年4月19日に秋篠宮さまが皇位継承順位1位の『皇嗣』となられたことを国内外に示す『立皇嗣の礼』以降に、安定的な皇位継承の議論に入る方針を決めました。安倍晋三首相は、皇位継承問題を“慎重かつ丁寧に検討を行う”としながら、現在の皇位継承順位や“男系男子”による皇位継承を前提として議論するつもりです。
一方で世論調査では、女性天皇や女系天皇を容認する賛成率が高いことを踏まえると、議論は難航するかもしれません」(皇室担当記者)
今年10月に共同通信社が行った世論調査では、女性天皇容認への賛成が81・9%、女系天皇容認が70・0%にのぼっている。そんな「女性・女系天皇」議論の渦中にいらっしゃるのは、12月1日に18歳の誕生日をお迎えになったばかりの愛子さま。来年には大学生になられ、将来についてお考えになるころである。
そもそも現行制度のほかに皇位継承を安定的に行う手段として『女性天皇』『女系天皇』を容認するという考え方が取りざたされているが、その意味をしっかり理解していない人もいるだろう。
「『女性天皇』とは、その名のとおり女性が天皇になること。現在で言えば愛子さまや眞子さま、佳子さまが即位されると女性天皇になります。
女系とは、母方が天皇の血筋を引いた子どものことで、その方が天皇に即位された場合、『女系天皇』となるのです。
愛子さまは父方が天皇の血筋なので男系女子ですが、もし愛子さまが即位されてお子さんが生まれた場合は、男子でも女子でも女系で、そのお子さんが皇位を継承した場合『女系天皇』となります。それは、眞子さまや佳子さまのお子さんも同様です」(皇室ジャーナリスト)
一方で、女性・女系天皇に反対する派閥が提唱するのは、戦後間もない'47年に皇籍離脱した東久邇家や竹田家などの11宮家を指す『旧宮家』の復帰。現在は民間人として生活する旧宮家の人々は父方をさかのぼれば、天皇陛下にたどりつく家柄。これらの宮家が皇室に戻り、男系の血筋を増やして皇統を維持させることが目的だ。
2000年近く続く伝統は、やはり重い
皇室にいらっしゃる方々の人数は減少傾向であるにもかかわらず、なぜ政府や一部団体は、男系男子に固執しているのだろうか。
「安倍首相は、小泉内閣が皇室典範を改正して女性・女系天皇を容認しようとしていた'05年から一貫して男系を維持すべきというスタンスです。国民民主党は公約で男系の女性天皇は容認すべきとしていますが、女系天皇については“慎重に議論を進める”にとどめています。
皇室の長い歴史の中で、男系の女性天皇は8方いますが、女系の天皇はひとりもいないので、男系の伝統は非常に重いことです」
そう解説するのは、宮内庁OBで皇室ジャーナリストの山下晋司さん。世界で唯一、2000年近くも男系で受け継がれてきた天皇の伝統を「簡単に覆してはいけない」というのが政府の考えのよう。
「愛子内親王殿下は男系の女性ですから、皇位に就かれても伝統に反することにはなりませんが、いちばんの問題はお子さまの身分です。皇族になるのかどうか、また、皇位継承権を持つのかどうか、ということです。
そのお子さまが天皇になれば、男性か女性かにかかわらず、女系天皇の誕生となります。将来の女系天皇につながる可能性があるため、男系維持派は男系の女性天皇も容認できないのでしょう」(山下さん)
社会の変容に合わせ、女性・女系天皇容認を
公務の担い手を確保するため、女性皇族が結婚後も皇室を離れない『女性宮家』という制度も、その配偶者や子どもが皇位継承権を持つのかどうかの議論になる可能性が高い。その子どもが天皇になれば、男女関係なく女系天皇になってしまうことから、男系男子維持派は『女性宮家』創設にも反対の姿勢だ。
一方で、女性・女系天皇を容認すべきと話すのは、象徴天皇制に詳しい名古屋大学大学院の准教授・河西秀哉さん。
「女性天皇と女系天皇を容認する理由は2つあります。現代では、女性が社会進出する時代へと変容している中、象徴天皇の公務も変化しており、皇位継承権を男性に限る必要はないと考えるからです。
もうひとつの理由として、現代の少子化時代に“男子を産まなければならない”というプレッシャーを、女性皇族に強いるべきではないと思うからです。例えば雅子さまも、皇太子妃時代にお世継ぎ問題のプレッシャーで体調を崩されてしまいました。
現行制度のままであれば将来の皇室は悠仁さまのご家族だけになり、悠仁さまと結婚する女性も雅子さまと同じか、それ以上の重圧がかかるおそれがあるため、男女関係なく皇位を継承できるように対応すべきだと思っています」
国士舘大学特任教授と日本大学名誉教授を兼任する百地章さんは、男系男子で維持してきた皇室の伝統を重視し、『旧宮家』の復帰で皇室を存続すべきだと語る。
「旧宮家には600年を誇る歴史があり、皇族の血を継いでいる若い方々が教育を受ければ、立派な皇族になると思います。美智子さまや雅子さま、紀子さまなども民間から嫁がれていますが、ご立派にお務めをまっとうされているので、旧宮家の方々も同じように、だんだんと国民から受け入れられる存在になるでしょう。
どんな方かわからない成人の男性が突然、皇室に入るよりも、皇族の血を継ぐ名家である旧宮家を復帰させるほうが、国民の理解も得られると思います」
旧宮家は天皇ご一家とも緊密な交流
旧宮家は、現在の皇室ともかなり近い関係なのだという。
「過去には男系男子の伝統を絶やさないため、8親等や10親等も離れた方が皇位を継承した前例があります。
東久邇家の現当主は今上天皇のいとこ、久邇家の現当主は上皇陛下のいとこで、かなり近い関係なのです。復帰していただくと想定しているのは、そのお孫さんたちです。さらに、今回の即位礼や皇族の結婚式、葬儀などでも旧宮家のための席が設けられていますし、現皇室の方々と緊密な交流のある方々なのです」(百地教授)
しかし、前出の河西准教授は、現在の象徴天皇のあり方から旧宮家に対して懐疑的だ。
「個人的には旧宮家を復帰させる案には賛成しかねます。現在の象徴天皇というのは血筋の素晴らしさというよりも、例えば被災地訪問を繰り返されるなどの“振る舞いや人柄、道徳性”などがあるからこそ国民から尊敬の念を集めていらっしゃいます。そういった点は民間から皇室に入って、すぐに身につけられるものではないと思うからです」
これまで民間で過ごしてきた旧宮家の方々には、次のような危険性が伴うという。
「旧宮家の方が皇族になった場合、その方のあらゆる過去が知人などから漏れる危険性があります。例えば、眞子さまは結婚されると皇室から離れるお立場であるにもかかわらず、嫁ぎ先である小室家が抱えている金銭トラブルが問題視されてしまいました。
天皇になる可能性がある旧宮家の方々がトラブルを抱えていたり、過去の好ましくない行いなどが発覚すると、国民から尊敬の念が得られなくなることもありえます」(河西准教授)
いろいろな意見が飛び交う皇位継承問題。前出の山下さんは、政府の考える“落としどころ”をこう推測する。
「安倍政権は現在の皇位継承順位を変えずに、女性も女系も容認するという法改正を落としどころにしようとしているように思えます。そのとおりになると、皇位継承は秋篠宮殿下、悠仁親王殿下、常陸宮殿下という順位は変わらずその次に愛子内親王殿下や眞子内親王殿下などの女性皇族が加わることになります。
この考え方であれば、悠仁親王殿下の御代までは男系男子が維持され、皇室の公務を担う皇族の人数も増えます。
悠仁親王殿下が結婚され、運よく男のお子さまに恵まれれば、男系男子はさらに続きます。もし、男のお子さまが生まれなかった場合には、女性天皇、もしくは女系天皇の誕生となります」
さらに山下さんは「女性・女系天皇が容認されても“愛子天皇誕生”というわけではない」と続ける。
「女性・女系天皇が容認されれば、愛子内親王殿下が次の天皇になるという報道も見受けられますが、“長子優先”の規定がなければ愛子内親王殿下は皇位継承順位第1位にはなりません」
つまり、皇位継承順位を男系男子や年齢順、長子など、どの項目を優先するかによって、愛子さまの順位が変わるということだ。百地教授も、愛子さまが即位される実現性の低さを指摘する。
「過去には女性天皇が存在しているので、理論的には愛子さまが即位されるのは可能だと思います。しかし、現実的には厳しいでしょう。
ひとつには、女性天皇は一代限りであり在位中の結婚はできず、子どもを産むこともできませんでした。そんな残酷なルールを、愛子さまに強いるのは人権侵害でしょう。
また、女性天皇の議論は、男性皇族が1人もいらっしゃらない状況でなければ、すべきではないことが前提だと思うからです。3点目は、退位特例法を制定した際、政府は皇位継承順位を秋篠宮さま、悠仁さまの順番で決定しており、それを簡単に覆すというのはありえないと考えます」
こういった意見を踏まえると、今後、仮に女性・女系天皇が容認されたとしても『愛子天皇』の実現には“高いハードル”があるようだ。
前出の山下さんは、これらの問題について、最終的には天皇陛下のお考えを知ることが重要だと話す。
「皇位継承に関して、さまざまな意見がありますが、この問題は国家として重要であるとともに、天皇家としても重要です。この問題を国民が判断するために当事者である天皇陛下のお考えを伺いたいと思うことは当然だと思います。
今年5月のお代替わりが国民の祝福の中、行われたのは上皇陛下のお気持ちを国民が理解していたからです。皇位継承に関しても多くの国民が納得するためには天皇陛下のお考えを知ることが重要だと思います」
皇室の将来に重大な意味を持つ皇位継承議論は、どんな結論に行き着くのだろうか。