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“簡単な仕事”の誘い文句に注意を!
「SNS上で“高収入”や“高額バイト”という誘い文句で募集しているのは、いわゆる『闇バイト』と呼ばれるものが多いのが実情。その正体は、高い報酬と引き替えに犯罪行為を行う人の募集です」
「まずオレオレ詐欺や振り込め詐欺などの特殊詐欺で、電話をかける“かけ子”や高齢者宅に現金やキャッシュカードを取りに行く、いわゆる“受け子”の仕事。また、違法薬物の運び屋や、家に押し入って金銭を強奪する強盗の仕事まで募集しています」(佐々木さん、以下同)
「犯罪グループとのやりとりは証拠が残らないようにメッセージが一定時間で自動的に消えるSNSを使うよう指示されます。そして面接が行われ、学生証や免許証など写真のついた身分証明書や自分の顔写真を送るように求められるのです」
「決められた日時に、指定された高齢者宅に銀行のキャッシュカードを受け取りに行くよう指示されます。“あなたはアルバイトの銀行員として、偽名を伝えてカードを受け取ってください”と言われます」
「“訪問する人の許可は取っているので大丈夫です”“警察に捕まることは100%ありません”という言葉を信じ込んでしまうのです。深く考えることなく犯罪に手を染めてしまいます」
闇バイトは一度関わると抜けだせない
「入間市の17歳の高校生の少年が静岡県内でオレオレ詐欺の受け子をしてお金を受け取りました。ですが説得され母親に連れられて自首しました。彼は詐欺の疑いで逮捕されています」(全国紙社会部記者)
「大人、子どもにかかわらず人は誰かに認められたいという承認欲求を持っています。それをお金で満たそうとするんです」(佐々木さん、以下同)
「犯罪者いわく、“いちばん誘惑に負けてしまう年代”なんです」
「1回だけやって10万円ゲットして、その後すぐにやめれば警察に捕まることはないだろう」と闇バイトで犯罪を犯した若者たちはそうした甘い考えを持っていたという。
「面接時に送った学生証や身分証などの個人情報を握られている状態です。“やめたい”と言っても、“学校にチクられたくなかったら手伝え”と脅されてしまい、抜けるに抜けられなくなってしまうのです。一度でも関わってしまえば、そこで終わりです」
「過去に摘発された犯罪者グループは、犯罪行為をする前の受け子のバイトの子たちにこう言っていました。“高齢者がタンス貯金して使っていないお金を僕たちが使うことで、日本の経済を回している。つまり、日本を助けている。だからこれは犯罪じゃないんだ”“みんなやってるから大丈夫”。そんな根拠のないうたい文句に騙されてはいけません」
コロナ禍で増加傾向、一度の犯行で実刑も
「闇バイトをしてしまった学生の中には、警察に捕まって初めて、自分がやったことが特殊詐欺の“受け子”だったと知ったというケースもありました。受け子は詐欺罪という重大な犯罪です。偽名を使って銀行員になりすましていますし、“自分がやったことは犯罪とは知りませんでした”では通用しません」
「初犯でも実刑、つまり刑務所に入ることになる可能性が大きいものもあります。詐欺罪、強盗致傷など、その犯罪行為によります」
「闇バイトというのはあくまでも実行役を募るための手段。結果としてどのような犯罪に加担したかで刑罰が決まりますので、アルバイト感覚でやったとしても、その当事者に重い実刑が科されてしまいます」(高橋弁護士、以下同)
社会復帰が非常に難しくなるリスクも
「この運び屋こそ軽く考えられがちですが非常に重い処罰を受けます。覚せい剤の営利目的での密輸は、運び込んだ薬物の種類や量にもよりますが、一発で実刑になるのが原則」
「私が検察官をしていた際に扱った事件です。成人して間もない若者でした。悪い友人に誘われて受け子として1回仕事をしただけ、初犯でしたが懲役1年6か月の実刑判決を受けました。特殊詐欺は社会問題化し、裁判でもかなり厳しく処罰される傾向があります。
そもそも、確実に執行猶予がつくような軽微な犯罪であれば、犯罪の首謀者たちの仲間内でやるはずですよね。そうではなく、それなりの対価を払い、SNSで人を集めるという手間とリスクを背負ってまで共犯者を募っているのは、警察に逮捕されるリスクや逮捕されたあとの代償が大きいからでしょう」
「少年法の適用で、成人とは手続きが異なります」
「つまり、未成年であっても、犯した犯罪の内容によっては重い懲役刑や身柄拘束を受ける可能性があるということです」
「ネット上に事件内容を投稿する人もいるため、半永久的に氏名や顔写真などの情報が残ってしまうおそれがあり、社会復帰が非常に難しくなる。それほどのリスクまで背負っているということです」
子どもたちをどう守ったらいいのか
「親世代が実際に闇バイトはどういう言葉で募集されているのか実態をその目で確認することが重要です。当然“強盗の仲間を集めています”というような直接的なアナウンスはしていません。さまざまな隠語やキーワードを駆使しているんです。まずそこを知ることです」
「一見まともそうに見える闇バイト募集の投稿を自分で確認したあとに、お子さんに見せて“これ、何だと思う?”という会話から始めてみてください。そこから、実は自分も危ない世界と隣り合わせのところにいるんだ、という危機感を伝えるきっかけにしてほしい。親子で危機感を共有することが子どもが闇バイトに陥ることを未然に防ぐ第一歩だと思います」
「警察に行くという踏ん切りがつかない、そもそも犯罪かどうかもわからない場合もあると思います。まずは弁護士に相談してください。状況に応じて自首のサポートもできます。弁護士が独断で、勝手に警察に通報することもありません。安心して、速やかに行動してほしいです」
『闇バイト』危険な仕事内容一覧
■詐欺関連
『オレオレ詐欺』『還付金詐欺』などで電話をかける『かけ子』、被害者から金銭やキャッシュカードを受け取る『受け子』、被害者が振り込んだ金銭を引き出す『出し子』を担う。中でも『かけ子』は騙すことがわかっていながら電話をかけるため知らなかったではすまされない。最近では新型コロナに乗じた特定給付金に関する詐欺への関与をさせられる事例も増えている。
■運び屋
■口座売買や名義貸し
■各種勧誘
■強盗
元埼玉県警捜査一課 佐々木成三さん
警察を退職後は犯罪を防ぐため精力的に活動。サイバー犯罪捜査の経験から『スマホで子どもが騙される』(青春出版社)などネット犯罪に関わる著書も多い。
弁護士 高橋麻理さん
法律事務所オーセンス、第二東京弁護士会所属。検察官として殺人、詐欺、性犯罪事件に携わった。退官後、弁護士に。刑事事件のほか離婚等家事事件を担当している。
(取材・文/堤美佳子)