華やかな芸能界をはじめ、一般社会にも潜むたくさんの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」。持ち前の鋭い観察眼と深読み力に定評があるライターの仁科友里さんが、「ヤバジョ」の魅力をひもといていきます。
観月あこ (c)産経ビジュアル
第3回 観月あこ
7月に開かれたウィンブルドン選手権で、プロテニスプレイヤーの錦織圭が自身初の準々決勝に進出しました。惜しくも敗れてしまいましたが、日本人選手がベスト8に進出するのは、1995年の松岡修造以来の快挙です。
ということはアレが来るはず。
私はワクワクしながら、楽しみに待っていたのです。しかし、待てど暮らせどアレはやってこない。
あのお、どうして錦織の恋人である、観月あこをたたえる記事はないのでしょうか。
日本は、成功のカギを女性が握ると信じている国です。
たとえば、子どもが有名大学に入ったり、オリンピックでメダルをとれば、「母親の育て方がすばらしいからだ」とほめそやされます。勝負の世界では、もっとこの傾向が顕著で、男性アスリートがスランプに陥ったり、勝てなくなると、交際相手や妻は“さげマン”と呼ばれます。女性アスリートが結婚して、成績が落ちても、夫は“さげチン”と呼ばれることはないのが、なんとも不思議でなりません。
2017年、錦織がケガにみまわれて、世界ランキングを下げた時、慣例どおり、交際相手である観月あこを“さげマン”と書く週刊誌は多数ありました。アスリートにケガはつきものですし、一度もスランプのない選手などいないでしょうから、この言い草はどうかなぁと思うのですが、百歩ゆずって「勝てば“あげマン”、負けたら“さげマン”」ルールを受け入れるとしましょう。それならば、今季、錦織は歴史的な活躍をしたわけですから、“あげマン”と言われてもいいはず。それなのに、誰も観月をほめない。
それは、観月の評判がよろしくないことと関係していると思うのです。
観月は芸能人ではありましたが、これといった代表作はなく、ジャニーズ事務所所属タレントとの交際や、俳優・杉良太郎のセクハラを『週刊ポスト』(小学館)に売名めいた告白をするなど、ちょっとヤバいオンナで、だからこそ、認めてなんかやるもんかと考えている人が多いということではないでしょうか。
『女性自身』(光文社)によると、観月と付き合うの前の彼女は元アスリートで、錦織が「足が痛い」と言えば、自分の睡眠時間を削ってマッサージしたり、栄養学も学んで特性ドリンクを作るなど、献身的ないい子タイプ。周囲からの信頼も厚かっただけに、観月のヤバさが際立ってしまうのでしょう。
選ばれた観月が悪く言われるのは、気の毒
2017年12月14日号の『週刊新潮』(新潮社)のインタビューに応じた錦織の父は、「マイケル・チャンだけが心配しているんじゃなくて、(スタッフ)皆心配している」「(観月は)悪い娘だと思うよ」とコメント、観月を嫌っていることを隠しません。『女性自身』では、観月が錦織のブラックカードを使ってブランド品を買ったり、友達にごちそうしていると報じるなど、さんざんな言われようです。
観月が錦織のスタッフの一員として、一緒に行動するのなら日本で経済(芸能)活動はできません。その分の費用を錦織が負担するのは当然のことだと思うのですが、仮に観月が「悪い娘」だとしても、そういう女性を選んだのは、錦織です。選んだ錦織はそうでもないのに、選ばれた観月が悪く言われるのは、気の毒だと思います。
テニス漬けで成長し、女性に免疫がない錦織がワルいオンナに捕まったという論調の記事は交際発覚時からたくさんありましたが、はたして錦織は観月に首根っこを押さえられて、むりやり交際しているのでしょうか。
『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)で、石橋貴明が「山崎夕貴アナが錦織の連絡先を聞いたけれど、教えてもらえなかった」と暴露したことがあります。この例でもわかるように、錦織は断れない人ではありません。きちんとした基準が彼の中にあって、それを満たしたのが観月なのではないでしょうか。交際が噂されてから3年が過ぎようとしていますが、それだけ相性がいいと考えることができると思います。
ヤバさは成功の母
仮に世間がどんなにヤバいオンナだと言ったとしても、錦織に「彼女はかけがえのない人だ」と思わせることができたら、勝ち。自分のヤバい過去がバレたらどうしようとひるんだり、ヤバいオンナと言われることを恐れて、人の顔色ばかりうかがっていては、大事な人は永久に手に入らないのです。ヤバいオンナと言われる人は、空気が読めないので周囲を怒らせることもありますが、だからこそ、周囲を気にせず、イチかバチかの大勝負ができるという利点もあるのです。ヤバさは成功の母なのです。
しかし、結婚となると、親や周囲の意見は非常に大事になってきます。ヤバい娘と思われている観月は、この点では分が悪いでしょう。しかし、スポーツ選手の場合、勝つことが正義です。錦織がどんどん勝って、世界ランキングを上げさえすれば、もう周囲は文句を言えないのです。
実際、周囲の観月に対する認識は少しずつ変わっていっているようです。
2018年6月29日号の『FLASH』(光文社)によると、ウィンブルドン選手権前に開かれた全仏オープンで、観月と“天敵”マイケル・チャンコーチが談笑する姿が見られたそうです。これも錦織の復活が順調だからでしょう。
世間ほど無責任で当てにならないものは、ありません。錦織が今後ますます活躍し、観月と結婚したら、もう誰も観月をヤバいオンナとは言わず、すばらしい女性だとほめたたえるでしょう。
今季のウィンブルドンを制したのは、ノバク・ジョコビッチでしたが、閉会式でのスピーチで、ジョコビッチはまず妻への感謝を表しています。いつの日か錦織が同じように観月へ感謝するスピーチをするのを、テニスファンとして、ヤバ女好きとして心待ちにしています。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。