吉沢悠(ひさし) 撮影/廣瀬靖士
「進むべき道が見えなかったので、当時の僕には1度立ち止まる選択肢しかなかったんです」
このまま仕事を続けたら潰れてしまうと…
「人前で何かをやるのが苦手な性格を克服するためにカラオケを始めたんです。通っていた店にオーディションのポスターが貼られていて、優勝特典のハワイ旅行目的でオーディションに応募しました(笑)。
「ありがたいことにデビューしてから続けて仕事をいただけたのですが、僕は準備に時間がかかるタイプ。社会経験もないまま、自分とは違う役を演じ続けた結果、僕自身のストックがなくなってしまったんです。そんな中、主演をやらせてもらったことで、少しパニックになってしまって……。このまま自分をコントロールできないまま仕事を続けたら潰れてしまうと思い、1回、立ち止まる決断をしました」
「先輩たちからは“もう1回やろうと思っても、うまくいくほど甘い世界ではないよ”といったアドバイスもたくさんいただきましたし、すごく理解できました。でも自分が置かれた状況を理解できるのは自分だけ。なので休業後は環境を変えるために半年ニューヨークへ行くことにしました」
「会社の後ろ盾もなく、日本での俳優のキャリアも通用しない場所に身を置いたことで、ひとりの人間として何ができるか? ということを考えられたし、日本でガチガチになっていた頭を柔らかくしてくれました。ブロードウェイミュージカルを見たときに、自分もまた舞台に立ちたいなと思い、復帰することを決めました」
休業前と同じことをしてもダメだな
「大きくて形がいい波なら、長く乗ることができます。でもその波に乗る腕がなければ、逆に波に飲み込まれてしまい、死の危険もある。僕の場合、大きな波が来たときに、僕が乗れるタイミングではなかったんですよね。
でもその波を逃したことで大きな波の存在も知れたし、今度来たときに乗りたいと思えるようになれました。だから当時の選択は、振り返ってみても間違ってなかったと自信を持って言えます」
「吉沢悠(ゆう)の時代があってこそ今の僕がありますが、休業前と同じことをしてもダメだなという思いもあって。30代になってから、舞台に多く出演させていただいた年もあったんです。そしたらスタッフに“役者人生の中で、そういう時期があってもいい。役者として採用しているんだから”と言ってもらえて、うれしかったです」
40代になって肩の荷が下りた
「舞台の稽古中に40歳の誕生日を迎えたのですが、共演の吹越満さん、堀部圭亮さんたちに“40代はどう?”と聞かれ、“肩の荷が下りた気がします”と言ったら、吹越さんにニヤッとしながら“50代はもっと楽になるよ”と言われました(笑)。だから年齢を重ねていくのが楽しみです」
「人との出会いや運などが重なって波は起こるので、ひとりでは大きな波を起こせないということに気づきました。海や自然と向き合うことで気づかされることは多いので、この映画を通じてみなさまに何か感じてもらえたらうれしいですね」
『ライフ・オン・ザ・ロングボード 2nd Wave』
出演/吉沢悠、馬場ふみかほか
5月31日より新宿バルト9ほか全国ロードショー