木村拓哉・山口智子 撮影/本誌写真班
山口智子と木村拓哉、 かつての月9はどれだけスゴかった?
「フジテレビとしては、’90年代にテレビドラマを見ていた当時のF1層(25〜35歳の女性)だった、現在40~50代の女性視聴者を取り込みたいのではないかと思います。男性では織田裕二、唐沢寿明、女性では鈴木保奈美、中山美穂、常盤貴子といった、かつての人気俳優が再ブレイクしているので、山口さんの起用も同じ流れなのではないでしょうか」(以下カッコ内は成馬さん)
「代表作といってもおかしくない『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)で、山口さんは“恋と仕事に頑張るアラサーヒロイン像”を打ち出しました。1996年放送の『ロングバケーション』はその集大成で、完成形です。男女雇用機会均等法の適用以降に社会に出た女性でありながら、“強さ”を全面に打ち出さずに、ひょうきんでサバサバした明るさと、ちょっと自虐的なところが、男から見てもカッコいいと人気になりました」
「華やかな恋愛ドラマというイメージが強い『ロンバケ』ですが、放送されたのは1996年という平成不況の始まりだったためか、物語のベースにあるのは冴(さ)えない男女の話。タイトルの『ロングバケーション』(長いお休み)は、バブル崩壊以降、経済が停滞していた日本そのもので、当時は“一時期のお休み”だと作り手が考えていたのがよくわかります。実際はその後も景気は回復せず、長い停滞が続いてしまうのですが、そういった時代の空気を体現していたからこそメガヒットドラマとなったのでしょう。
また、当時まだアイドルというイメージが強かったSMAPの木村拓哉が相手役を演じたことも画期的でした。『ロンバケ』の成功以降、ジャニーズのアイドルが主演俳優に起用されることは当たり前となっていきます」
月9枠は今後どうなっていくのか
「結婚してブランクがあるかのように思われがちですが、是枝裕和監督の『ゴーイング マイ ホーム』(2012年)、大根仁監督の『ハロー張りネズミ』(2017年)の演技も素晴らしかったですし、宮崎駿監督のアニメ映画『崖の上のポニョ』(2008年)の声優も素晴らしかったです。最近では、朝ドラの『なつぞら』にも出演しているので、“カムバック”という感じではないと思っています」
「近年の月9は、医者や弁護士を主人公にした職業ドラマに舵(かじ)を切ったことで、視聴率が10%を超えるようになってきました。ただ、それと引き換えに、かつてあった“月9らしさ”はなくなってしまったように思います。テレビ朝日の刑事モノや医療モノのドラマを見ている感覚に近く、破綻がなくて安心して楽しめるのですが、野島伸司や北川悦吏子がオリジナリティーの高い作品を書いていた時代に比べると、近作は脚本の“作家性”が薄く感じますね」
<今回のセキララアナリスト>
成馬零一さん
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。テレビドラマの評論を中心に、マンガやアニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。
<文/雛菊あんじ>