ジャケット姿に柔和な笑みがなんともすてきな遠藤憲一 撮影/伊藤和幸
「ウィッス」のひと言だけで十数テイク
「結婚はやっぱり、ひとつの転機ですよね。それだけじゃなくて、事務所を独立させて女房に俺のマネージャーをやってもらうことになったのも、大きな転機だと思ってる。ずっと“私はやりたくない”って言われちゃってたんだけど、自分のことをいちばん知っている相手に引き受けてもらうのが、俺の願いだった。大変だろうなとは思いつつ、なんとか頼み込んで。3年間、ずーっと口説き続けました」
「日常生活の中で、人よりできないことがいっぱいあるんです。だから、相手への説明もそのぶん必要で。やりとりが二度手間や三度手間になるくらいなら、最初から俺をわかってくれている女房に、と。大きな組織に行ったら、問題児扱いされるだけだとも思っていたから」
「大事なことだから2回言いました(笑)。私は正直、自分の時間も大切にしたいと思っていたから、仕事に行ってくれている間に自由なひとときを過ごすのが好きだったんです。それに、それまで遠藤が選んでいた出演作の中で私が“見たい”と思うものは少なくて、あまり作品を見てこなかった。
「大根さんは“テンポよく撮る人だ”という印象で撮影に臨んだら、この作品ではまるで大違い。源さんは何か言われると“ウィッス”と返事をするキャラクターなんだけれど、そのひと言だけでも“いや違います”、“もう一回”って、何十回もやり直して。表情も“もう少し柔らかくして”とかリクエストされたりね。あとで聞いたら、大根さんが7年間も温めていた作品だったんだって。だからこその、こだわりだったんだな。
夫への敬意、妻への感謝
「俺は物事もよく知らないし、さっきも言ったけれど、自分には本当にできないことが多すぎる。そういう素が出てしまうのが嫌いだった。今でも得意ではないし、あんまり出たくないんだけど(笑)。今は時代がうるさくなって大変なところもあるけど、逆に、多少変わった人間だとしても受け入れてもらえる時代でもある。俺みたいなダメ人間も、そのままでいいのかなって。自分のままでいいんだって思えるようになったから、バラエティーにも少しずつ挑戦できている感じですよ」
「精神年齢はすごく低くて、幼稚なんです。でも、こだわりがあることに関しての集中力はピカイチ。過酷な時間帯や環境での撮影が続いても、ずーっと集中し続けている姿を見ていると、偉いなって感じるんです。“普段はしょうもないのに、ちゃんとできるじゃん!”って(笑)。自分の性質に合った仕事ができてよかったね、と思っています。うーん、そうだなぁ……親戚の子どもを見ているっていう感覚に近いのかもしれないですね」
「今まで女房には、相当ストレスをかけていただろうなって。だから、恩返しをしていきたい。やり方がわからなかったり、下手くそだったりするかもしれないけれど、これから少しずつでも恩を返していかなきゃなって思いますよね」
(取材・文/高橋もも子)
【PROFILE】
えんどう・けんいち ◎1961年6月28日生まれ、東京都品川区出身。「エンケンさん」の愛称で親しまれ、コワモテな風貌を生かした悪役から、コミカルで愛らしい役どころまで幅広く演じ人気を博す。'01年公開の映画『DISTANCE』で第16回高崎映画祭助演男優賞を受賞。現在、テレビ東京系『バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間』(毎週金曜深夜0時12分〜)に出演中。ほんわかとした日常をのぞき見できる自身の公式インスタグラム(@enken.enstower)も話題に。
【INFORMATION】
東日本大震災の実際の救助映像などを随所に挟み、実話に基づいた家族の絆と人間の底力を描くNHKスペシャルドラマ『星影のワルツ』が2021年3月7日21時より、NHK総合にて放送。出演は遠藤憲一、菊池桃子、川栄李奈ほか。