斉藤由貴
「下積みなしで芸能界の階段を一気に駆け上がりましたよね。当時、事務所からの寵愛がすごいな、って思っていました」
『スケバン刑事』のときから女優としての斉藤を見てきた吉田さん。彼女の出演したドラマで印象に残っているものを聞いてみると、
「'93年の『同窓会』(日本テレビ系)ですね。このドラマ、当時としてはかなり冒険した作品で、ゲイを題材にしたドラマなんです。今に比べてカミングアウトが難しい時代に、ゲイをテーマとして扱い、西村和彦や山口達也といった男性出演陣の全裸シーンが、ほぼ毎回ありました」
「毛じらみに感染して、“痒い”と股間をボリボリかくんですよ(笑)。それまでは清純派というか、そこそこキレイな役ばかりやってきた彼女がこんな役をやるなんて……。驚きましたね」
「私、実は初めて女性のアイドルで好きになったのが、斉藤由貴なんです。取り繕ったり、ぶりっ子したりというアイドルとはちょっと違う、今までにない“純粋さ”を嗅ぎ取ったはずだったんですけど、ふたを開けたら“魔性の女”だったんだと(笑)」(吉田さん、以下同)
《あのときはいろいろやんちゃしていまして(苦笑)。たぶんマネージャーさんも「由貴ちゃんはそろそろ結婚してもいいんじゃないか」と思っていたんじゃないでしょうか》
「斉藤由貴」という独自の立ち位置
「彼女の所属事務所・東宝芸能は、沢口靖子や長澤まさみ、最近だと上白石萌音という、人気女優を途切れることなく輩出しています。その中でもスキャンダルが多く、いちばんの問題児が斉藤由貴だけど、女優として育てていくのがうまいんですよね」
「初めのうちは主演作もありますけど、結婚してからはバイプレーヤーとしての魅力が出ていると思いませんか? ちょっと色気があったり、ワケありだったり。悪女まではいかないけれど、めんどくさそうなやっかいな女という役では、すごくしっくりくるんですよね。これは彼女独特の立ち位置だと思います」
「三谷幸喜監督の映画『記憶にございません!』では、ちょっと癖のある料理人、宮藤官九郎のドラマ『吾輩は主婦である』(TBS系)では、妄想癖のある主婦──。派手に目立ったりはしないけれど、彼女ならではの役を演じていますね」
「インタビューの受け答えや、雰囲気を見ていると“不思議ちゃん”。これは私の主観ですが、男性をたぶらかすというより、彼女は自分自身がいちばん好きなんじゃないかな、って。自分自身がこんなに好きな“斉藤由貴”を男性が求めるのは当たり前でしょ、と(笑)」
「尾崎豊を知らないという人も増えてますから。彼女自身も20世紀の“やんちゃ時代”は、なかったことにするくらいの潔さでいるんじゃないかな」
“黒い部分”が魅力に……
「降板は痛手ですよね。言葉が悪いかもしれないけれど、“たかが”不倫で仕事を奪われる時代になっちゃったから。彼女もちょっと考えたと思いますよ。
《歌手を自称するのもおこがましいほど、私には歌の技量がない》
「ドラマには絶対に必要な人だと思っています。かわいらしさを残しながら、図々しさもある、主役という王道ではない部分を、ちゃんと担える人です。
「今後は色ボケしたおばあさんとか(笑)。3回の不祥事を乗り越えてきたんだから、ご本人が芸能界をやめると言わない限り女優を続けてくれると思います。作品を先頭に立ってリードしていく女優ではなく、気がつくとはびこっている、みたいな存在で楽しませてほしいですね」
PROFILE●吉田 潮(よしだ・うしお)●コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として『週刊新潮』で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数