早乙女太一 撮影/森田晃博
流し目王子、原点回帰へ
「劇団を離れていろいろな舞台を経験させてもらったうえで、改めて向き合ってみたとき“大衆演劇がもっている独特の世界観というのはほかのどこにもないものだ、なくしちゃいけないな”と思ったんです。
大事にしたいのはその場の空気感
「僕の勝手な考えですが、芸事をやる人とそれを見る人の根源が、すごくそこにはあるという気がしているんです。それは楽しみたい、楽しませたいという思いなんですね。
健康ランドの大広間でおでんを食べながら、お酒を飲みながら見て“ヘタクソー!”ってヤジを飛ばしたり(笑)。そういうお客さんたちの自由な楽しみ方もそうだし、演じている役者も、そこでできることは全部やって、いかにそこにいる人たちを惹きつけるかにかける。
飲んだりしゃべったりして全然見ていない人とか、寝ちゃっている人の目をどう引き寄せるか。そのために芸を学んで身につけて、踊りでもお芝居でもチャンバラでもなんでもやって、少しでも楽しんでもらいたい。それが、舞台をやる人間にとって根本的なことだと思うんです。
「何でもアリ。何をしてくださってもいいんですよ。初めて見る人はきっと、どのタイミングでやればいいものかわからないと思います。でも、正しいタイミングなんて特にないんです」
「いやぁ、僕は照れくさいので、あんまり気持ちよさは感じていないんですけど(笑)。ヤジを飛ばしてもらうほうが面白いかも(笑)。僕がいちばん大事にしたいのは、その日のお客さんとその日の役者がその場で創りあげていく、その瞬間の空気感。
だからお客さんにもどんどん空気を動かしてほしい。いまは演劇というと、お芝居をやる人と見る人はなかなか交わらないけど、大衆演劇はお客さんも含めた芝居小屋の空間が全部でひとつの作品みたいなところがあるんですね。どんな空気になるかは毎回違う。だから、なるべく作り込みすぎないでその場に臨みたいと思っています」
役者がいかに輝けるかが重要
「今回は三部構成で新しいお芝居と舞踊ショーをやりますが、大衆演劇って役者頼りの部分がすごく大きいんです。だから、作品がどうとかってことより、板の上でその役者がいかに輝けるかのほうが重要。演出家としてみんなができたと確信してから自分のことを考えようと思っているので、まだ自分のところのお稽古があまりできていないんですよ。
だからこの5年間で劇団☆新感線やいろいろな舞台をやらせてもらった成果がどう出るのかも、わかりません。もしかしたら自分がいちばんダメダメになっちゃったりして(笑)」
「遊園地のヒーローショーみたいな感じかな(笑)。それよりは内容が盛りだくさんですけど。かしこまって見るものではないので、気楽に来ていただけたらいいですね。いまは新しいお客さんが増えているので、劇場では昔から応援してくださっている人と新しい人が交ざると思うんです。だから、どういった反応になるのか読めないんですけど。
きっとおばさま方というか、先輩の方々が率先してハンチョウをかけたりすると思うから(笑)、見よう見まねで新しいお客さんも楽しんでほしい。また前とも違う空気感になりそうで、僕自身も楽しみにしています」
『劇団朱雀 復活公演』
早乙女太一(さおとめ・たいち)1991年9月24日、福岡県生まれ。大衆演劇『劇団朱雀』二代目として4歳で初舞台を踏み、全国で舞台公演を行う。2003年に北野武監督の映画『座頭市』出演をきっかけに、「100年にひとりの天才女形」として脚光を浴びた。2008年に新歌舞伎座史上最年少記録となる16歳で座長を務めたことを皮切りに全国で座長公演を続けるほか、ドラマや映画など活躍の場を広げる。主な舞台作品に『薄桜鬼 新選組演舞録』『トゥーランドット』『世界』など。劇団☆新感線には2009年の『蛮幽鬼』から2019年の『けむりの軍団』まで6作品に出演している。
取材・文/若林ゆり ヘアメイク/奥山信次(Barrel)