京アニに何度か小説を応募。「内容を盗まれた」と一方的に恨みを募らせたとされる青葉被告
日本テレビ系の映画放送枠『金曜ロードショー』で10月29日、11月5日の2週にわたり、放送される。
『金曜ロードショー』は特に視聴者が多いとされる時間帯「ゴールデン・プライムタイム」に放送される番組とあって、'85年の放送開始よりラインナップとしては主にファミリー層向けの映画作品が選ばれてきた。
「京アニ」作品放送のウラで事件に進展
「『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は女性作家・暁佳奈(あかつき かな)のデビュー小説を原作としたアニメーション作品。この原作小説は、京都アニメーションが主催する『京都アニメーション大賞』の小説部門において大賞を授賞し、華々しくアニメ化への一途を辿りました。
“人が人に想いを伝える”という様々な愛の場面に立ち会うたびに、彼女は心に感情を灯してゆく、というストーリーだ。
「切なくも美しい物語と、繊細な感情表現と作画が評判となり、'18年に放送されたTVシリーズに続き、'19年には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形―』が劇場公開されました。今回は、地上波放送の特別編集版と、この外伝が2週連続で放送されます」(同・前)
'19年7月18日、京都府伏見区のアニメ制作会社・京都アニメーションの第1スタジオに当時41歳の男が侵入し、ガソリンを撒いて放火したことで社員36名が死亡、男を含む35名が重軽傷を負った。これは国内において史上最悪の殺人事件であり、2年が経過した今でも犠牲者を悼む声が多く聞こえてくる。
初公判の見通し立たず
「実は、今回の金曜ロードショーで放送される『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』は、この事件が発生した前日に完成した作品なんです。
「10月に入ってから新たな進展として、京都地方裁判所により青葉被告への2度目の精神鑑定が行われることが明らかになりました。すでに鑑定は始まっているそうです。精神鑑定とは、精神科医による精神状態の診断をもとに、裁判所が訴訟当事者の責任能力の有無を判断すること。
「今回は国民の関心の高い事件として、一般市民が裁判に参加し有罪無罪の判断や量刑を行う『裁判員裁判』が行われます。一方で、裁判に向けて争点を絞り込んだり、被害者参加制度に基づき裁判に参加する遺族らとの調整を行う『公判前整理手続き』がまだ進んでおらず、初公判の時期の見通しは立っていません」(同・前)
作中のセリフとの“リンク”
「青葉被告は’78年、現・さいたま市に3人きょうだいの次男として生まれ、幼い頃に両親が離婚し、父と兄と妹の4人暮らしとなりました。定時制高校卒業後には非正規の仕事を転々とするも’99年に父親が自殺し、一家は離散。仲がよかった父親の他界で歯車が狂い出したのか、それからはトラブル続きに。
‘06年には下着泥棒で逮捕されるも執行猶予がつきましたが、’12年にはコンビニ強盗により逮捕されて実刑判決を受けています。出所後もたびたび騒音や器物損壊の問題を起こしており、‘17年には精神障害と診断されました。まだ何とも言えませんが、精神鑑定の結果によっては、刑の量定に影響する可能性があります」(同・前)
「どうせ死刑になることは分かっている」
「他人の自分を全力で治そうとする人がいるとは思わなかった」
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主人公・ヴァイオレットの美しい心の成長と同一視するわけではないが、過酷な境遇で心を閉ざし、人の道を外れてしまった被告もまた、人の愛に触れることで“心”を知ったのだろう。
「境遇がどうであれ、経緯や理由が何であれ、してきたことは消せない。忘れることもできないだろう。燃えているのはあの子だけじゃない。俺や君だって、表面上は消えたように見えるやけどの痕もずっと残ってる」
取材・文 久遠 凛