2021年1月から放送される『電波少年』(wowowホームページより)
今年1月より、松村邦洋と松本明子が司会を務める『電波少年W〜あなたのテレビの記憶を集めた〜い!〜』(WOWOWプライム)の放送が突如としてスタートした。
「テレビの記憶を掘り起こす」がコンセプトの同番組には、元猿岩石の森脇和成やカラテカの矢部太郎など『電波少年』(日本テレビ系)出身者がゲスト出演することもあり、番組内で語られる当時のハチャメチャな秘話には今も驚かされる。
ガチすぎトラブル、番組存続の危機に
「実は私の前に1人、別の芸人さんが同じ企画にチャレンジしていたんですけど、ギブアップして脱落したんです。そんなこととはつゆ知らず、『へ~、東大を目指す企画が始まったんだ』と思って『電波少年』を見ていたら、翌日に私が番組の用意した部屋へ連れて行かれ、大学受験に向けた勉強が始まったんです。毎日ある小テストで合格点を出さないとごはんが食べられないルールなんですけど、正直、カメラの回ってないところで食べさせてくれるのかな? と思っていました。だけど、まったくくれない。『電波少年ってここまでガチなんだ!』とは衝撃でしたね」(坂本ちゃん)
「今、『世界の果てまでイッテQ! 』(日本テレビ系)でイモトアヤコちゃんがコモドドラゴンと競走しているけど、『電波少年』のほうは観光用ではなくガチの野生のコモドドラゴンと戦いに行きました。コモド島に行って2000メートルあるって言うので『2キロくらい歩くのは大丈夫ですよ』って言ったら、距離じゃなくて標高が2000メートルだからびっくりしました。『近所の散歩の2000メートルと全然違うなあ』と思ってバテ始めると、スタッフさんから『早く行けよ!』と棒で突っつかれて犬以下でしたね(笑)。
ラクダも倒れるほどの暑さ
『電波少年』恒例のヒッチハイク旅では、多くの若者が世界の危険な地域に足を踏み入れた。
「あの瞬間は気絶していたので記憶がないんですけど、僕が死んでたら番組は絶対終わってましたよね(笑)。あのとき、実は僕が倒れる前にラクダも倒れているんです。
そしたら、人が寄っていくから助けるのかなと思ったら、死んでいたからバッサリ切って干し肉にして、それを僕たちも食べました。ラクダが死ぬような環境なのによく死ななかったと自分でも思います(笑)」(伊藤)
ピストルで撃たれ命の危機に……
「町はずれでヒッチハイクしていたら、2人組の男が『アジアへ帰れ!』みたいなことを言いながら近づいてきて、よく見たら右手にピストルを持ってるんです。すぐに崖沿いに飛び込むと、『パン、パン!』って銃声だけが聞こえてきて。
「あのときはヒッチハイクより、ロシナンテが周りの人をケガさせないように防ぐことのほうが大変でした。旅も後半あたりになるとロシナンテ人気が高まり、東京に着いたら同行ディレクターが〆谷(浩斗)さんという有名な人に代わりました。
無名の若者たちが番組を通じて成長
『電波少年』には危険な衝撃もあれば、ポジティブないい意味での衝撃もある。坂本ちゃんは番組を通じ、憧れのアーティストとの邂逅を果たした。
「小テストで100点を取るといろいろなものをもらうことができるルールで、あるときは昔から大好きな槇原敬之さんのCDアルバムをゲットできたんです。そこで、槇原さんの『遠く遠く』という曲を初めて聴いたんですね。
スターとの遭遇で混乱も……
「ドラマの衣装合わせで日テレに行き、ひと通り終えて外に出たら中森明菜さんがニコニコしながら僕に『おはようございます』って挨拶をしてきたんです。でも、あまりに突然のことに僕は『あっ、どうも……』と言っただけで立ち去ってしまったんです。
うまくいくのは見たくない
「旅の資金を稼ぐため、路上でコントや大道芸をやるようになったんですが、1回で1万5千円くらいが集まるんです。ホテルは2千円くらいで泊まれるので、結構な稼ぎになる。でも、稼ぎすぎて同行ディレクターからは『やめてくれ』とストップが入りました(笑)。
『ゴールまでずっと、お前らがコントばかりやって稼いでいるのを見て誰が楽しいの? 』と言われて、こっちは生きるために必死だから『そんなの知らないですよ』と言い返したんだけど、そこで初めて『テレビってそうなんだな』と理解し、それからはその国だから経験できる仕事をするようになりました」(石本)
個性的なスタッフの元で成長
「ほかのディレクターでは〆谷さんがやっていたような仕事なんて絶対にできません。ほかの番組にあんな人はいないです。僕はスタッフにずっと怒られていましたけど、それ以上にスタッフがいろんなところで怒られていたと思うんです。番組がすごいことになったのは、スタッフに個性的な人が集まっていたから」
「そつのないスタッフは4月の時点で、すでにほかの番組に関わっている。7月にやってくれそうなスタッフは『あの人は優秀かもしれないけど問題もあるよ』と陰で言われる人たちばかりなんです(笑)。
初期『電波少年』のキーパーソンを直撃
〆谷ディレクターとの別れはあのかも……
『電波少年』のロケで「自分は犬以下だった」と語る松村。番組の方向性として「松村を甘やかすな」という基本線があったそうだ。
「途中からロケにADを連れて行かなくなったんですね。〆谷さんがADを怒るとそっちにエネルギーが行き、僕には普通に接するようになるから『これはいかん』と」
「妙に〆谷さんが優しいから『これは本当に危ないんだな』と実感しました。家がどこにあるかわからないような砂漠を歩きながら口から出まかせに『助かる、助かる。向こうにある家の瓦が1枚1枚見えるよ』なんて言うから、オスマン・サンコンさんみたいに遠くが見える人なのかなと。
さすがに僕も助からないと確信し、『もう偉そうに呼び捨てにされるのも嫌だな』と思って反発したのを覚えています。『どうせ助かんねえんだよ』とか悪態をついていたら、救助が来て奇跡的に助かったという(笑)。
実は、それが〆谷さんとの最後のロケで、次から別のディレクターに変わったんです。もしかしたら、あのときに反抗的な態度をとったのが理由かもしれませんね。いや、わかんないですけど、ひょっとしたら」
松村邦洋(まつむら・くにひろ)●1967年、山口県出身。大学在学中に片岡鶴太郎に見いだされて芸人の道へ。高田文夫のものまね「バウバウ」やビートたけしのものまね、『進め! 電波少年』出演で大ブレイク。幅広いレパートリーのものまねで活躍中。
伝説の番組『電波少年』シリーズおもな出来事
▼1992年
・『進め! 電波少年』放送開始。
・松村邦洋のアポなし、突撃取材が話題になる。「村山富市の長い眉毛を切りたい」「羽生善治と将棋をしたい」「渋谷のチーマーを更生させたい」「牛のゲップを吸い切りたい」など。
▼1993年
・番組のマスコットとして、アイドル「電波子」がデビュー。その後妹分としてオーディションにより電波子2〜28号も登場。
▼1996年
・「猿岩石」(有吉弘行、森脇和成)による「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」がスタート。
・ドロンズ(ドロンズ石本、大島直也)による「南北アメリカ大陸縦断ヒッチハイク」がスタート。
▼1998年
・『進め! 電波少年』をリニューアルする形で『進ぬ! 電波少年』がスタート。松村がレギュラーからはずれ、松本明子の単独司会に。
・「朋友(伊藤高史、チューヤン)」による「アフリカ・ヨーロッパ大陸縦断ヒッチハイク」がスタート。
・「電波少年的懸賞生活」がスタート。「人は懸賞だけで生きていけるか? 」をテーマに芸人のなすびが目標金額を目指した。
・4月、兄弟番組『雷波少年』が日曜朝の枠でスタート。
・「ドロンズのドンキホーテ! 日本を行く!」が『雷波少年』でスタート。ドロンズがロバの「ロシナンテ」とともに日本列島をヒッチハイクしながら進む企画。
・「電波少年的無人島脱出」が『電波少年』でスタート。Rまにあ(しゅく、中島ゆたか)が自力で筏を作って無人島を脱出するという内容。これは後に「スワンの旅」(スワンボートに乗って旅をする企画)へつながっていく。
・「雷波少年系ラストチャンス」スタート。「オリコン初登場20位以内に入らなければ即解散および音楽業界から足を洗う」というルールの企画にSomething Elseが挑戦。
▼1999年
・1月、『電波少年』の司会をチューヤンに託して松本が一時司会を降板するも4月に復帰し、松本とチューヤンの2人で進行するように。
・当初は司会者のいなかった『雷波少年』の司会を4月よりチューヤンが『電波少年』と兼任することに。
・チューヤンが『電波少年』の企画「80日間世界一周」に参加するため、ロシナンテが10月より代理として進行役を担当。
・「雷波少年系ラストツアー」スタート。半年でロシアを横断する間に運命の1曲を作って日本武道館で公演を行い、1万人の観客動員がなければ解散して音楽業界から足を洗うという企画にBluem of Youthが挑戦。
▼2000年
・華原朋美が全米でCDデビューすることをゼロから目指すという「電波少年的全米デビューへの道」がスタート。この企画で作られた曲『Never Say Never』は15万枚のヒットに。
・「電波少年的東大一直線」がスタート。坂本ちゃんが東大出身の家庭教師ケイコ先生とともに東京大学合格を目指す企画。
・矢部太郎が挑戦した企画「電波少年的○○人を笑わしに行こう」がスタート。さまざまな国の言葉を習得してその国の人を笑わせるというもの。応援歌はTM NETWORKが制作。
▼2001年
・15人の女性がいきなり無人島に連れて行かれる「電波少年的15少女漂流記」がスタート。当時まだ無名の森三中・黒沢かずこや、いとうあさこが参加。
▼2002年
・『電波少年に毛が生えた 最後の聖戦』が土曜夜の1時間枠でスタート。「1クール平均視聴率が13%に達しなければ終了する」という公約をクリアできず、終了。
▼2021年
・『電波少年W 〜あなたのテレビの記憶を集めた〜い!〜』(WOWOWプライム)がスタート。
ドロンズ石本
伊藤高史
坂本ちゃん
(取材・文/寺西ジャジューカ)