『ラステル新横浜』の面会室。壁の奥に20体の遺体を安置可能(同所提供)
広がる安置ビジネス
「ちょうど2年前、火葬場の遺体安置施設がどこもいっぱいで、お断りせざるをえない状況になったことが2度、ありました。もともと葬儀会社ですから、純粋に遺体を安置する施設を何とかせねばと思い、立ち上げました」
「火葬場の霊安室というのはステンレス製の冷たい感じの部屋なので、ご遺体を安置するのには抵抗があると思う」
「以前は仏具のショールームだった1階を改装し、冷蔵設備つきの2部屋を設けました。ひと部屋は遺体を安置するだけの霊安スペース。もうひと部屋は安置ルームで、リビング調の少し広めの部屋です」
「今後はさらに増えていくだろうと思っています」
「最近では自宅で亡くなる人は少なく、病院などの施設死が8割強です。日本の病院も、夜中でもすぐに遺体を出してくれと言う。火葬場にも安置する施設はありますが、夜中の受け入れや面会はできない。1度どこかに預ける場所が必要になってくるため、安置ビジネスが広がってきた」
「遺体を見る機会が少ない現代人は、遺体に対する忌避感や嫌悪感も強くなり、自宅に安置するのに抵抗があることも一因でしょう。生前に病院や施設に預け別居状態で距離があったのなら、なおさらだと思います。逆に在宅介護などをしていた人は、遺体になった後も生前と変わらず触れる方が多い」(山田准教授)
自宅か葬儀場「どちらに帰られますか?」
「ご連絡いただいたら、病院にお迎えにあがるのですが、最近は“(自宅か葬儀場の)どちらに帰られますか?”と確認するようにしています。
「都市部では家族葬が増えています。火葬場は混み合う時間帯があり、ご遺体の安置場所にみなさん困り始めていた。安置でき、ご家族も面会でき、ワンストップで家族葬まで行えるサービスが望まれていたのが開業のキッカケです。9階建ての建物の中には小さな式場もあります」
「故人様と1泊2日、一緒に過ごされる『リビング家族葬』が好評ですね。ご自宅のマンションのようなお部屋をつくりました。バスルームやキッチンなどもあり、宿泊をしてお別れができます」
「面会は24時間可能で、ご家族、ご友人などもお会いいただけます。安置に期限はございません」(同前)
「病院から火葬場の安置施設に行って、あくる日に火葬をするのが直葬。ただ、火葬場に預かっていただくと、冷蔵設備から出して火葬前に5分~10分ほどしか時間をもらえないんです。当社からの出棺では、30分ほどお別れの時間を取っていただいています」
葬儀は死者だけのものではない
「こちらでは火葬を予約された方の棺を8体分、預かることができます」
「空いている時間帯はないですね。葬儀会社さんから諸事情でキャンセルを受ける場合以外、ほぼ100%埋まっています」(高木所長)
「2~3年前から、棺を開けて最後に顔を合わせてお別れしたいと希望されるご葬家が増えていますね。棺保管をすると、そのまま火葬になりますので、最後にお別れをしたいということなのだと思います。ただ、次々にご葬家が来るので、5分~10分程度の時間ですが」
「いきなり火葬場に行って一瞬で終わってしまうので、けじめをつけにくい方が出るかもしれません。葬儀を行うことで、けじめをつけられることがある。直葬にしてしまったために後々、“お通夜や告別式をしてちゃんと送りたかった”と後悔される方もいらっしゃいます。よしあしがあるのだと思います」
「死にゆく人は子どもに迷惑をかけたくないと思っているため、直葬を希望する。だが、遺族は遺言どおりに行っても、気持ちを込められずモヤモヤする。周囲からはお別れをしたかったと言われる。だからこそ、追悼の区切りをつける必要があると思うのです。
葬儀は死者だけのものでなく、生者のものでもある。それゆえに事前に納得できる形を話し合う必要がある。従来の葬儀という形がなくなりつつあるのですから」
「お骨またはお位牌を持って、“お布施もこれしか用意できないのですが、亡くなった方のその後が心配なので供養をお願いします”と言えば、良心あるお坊さんなら供養してくれるはず。お布施を開けたら500円しか入ってなかったことも実際にあります」
「単身者が亡くなったとき親族がいたとしても、希薄な関係性から遺体を引き取らず結局、行政が引き取り火葬をすることがある。縁遠いからといって行政に丸投げするのはどうか。社会がサポートできる新たな葬送のシステムを形成していく必要があります」
故人をゆかりの地へ……新サービスが人気
「小さいときは狩野川で遊んだんだとか、沼津のアジのひらきは最高だって、折に触れて地元・静岡の話をよくしていました。私にうるさく言うこともなく、自由にやらせてくれるいい主人でした」
「夫が亡くなる少し前から葬儀のことを家族と相談していたのですが、遠方の親族は高齢で体調が悪く呼べない。ごく少数の身内による直葬ですませようと思っていました」
「近年では故人の親族も高齢化し、本当に近親者のみで葬儀を行うケースが増えています。故人が地方出身者の場合、遠方の親族を呼ぶことが難しい。でも、最後にひと目会いたい。火葬場は混雑し待機時間も長期化している。だったら、その時間を利用してゆかりの地などに連れて行ってはどうかと思ったんです」
「車を運転していても沼津ナンバーを見ると“おっ、沼津だな”とうれしそうに言うぐらい地元が大好きでした。だから主人が生まれ育った沼津にどうしても連れて行ってあげたかったんです」(内田さん)
「主人がよく話していた千本浜公園や小さいころに遊んだ神社へ行きました。棺は降ろせませんが、窓を開けて“着いたよ”と声をかけました」
「“具合が悪くて行けずに申し訳なかった。にいちゃん、お帰り。まさか会えるとは思わなかった……”と涙ぐみながら話しました。主人が好きだったアジのひらきを供えてくれました」
「主人が本当に望んでいたかわかりませんが、よかったでしょ? と聞いたら“よかったよ”と言ってくれると思います。夏場でしたがドライアイスもしっかり入れてくれて問題ありませんでした。料金も7万円と良心的な価格ですし、いい供養ができました」
「正直、あまり利益はありません。スタッフも2人同行しますし宿泊費も会社負担。ただ、お客様から“親孝行ができました”と言ってもらえることがうれしい。ケースによっては応じられない場合もありますが、可能な限りお客様に寄り添っていきたい」