為末大氏
「アマチュアスポーツ界には昔からあって、今年になってそれらがやっと表に出てきたんだと思います」
「選手がオープンにすると変わるんだ」
「私が知っているだけでも、これまで現役選手が“こういう問題がありますよ”と告発したケースはいくつかありました。それが協会などの上部団体内で共有されて介入したなど、それなりの着地点はあったんです。ですが、今年になって日大の危険タックル問題が起きた。これが大きい気がするんです」
「選手がオープンにすると変わるんだ、という期待感が生まれた。今までは、細部はいろいろ変わっても結局、全体的には変わりませんでした。ですが、世論の力で物事を変えられると学んだことが、一連の流れを生んだきっかけになったんじゃないかと思っています」
「5年前、『スポーツ界における暴力行為根絶宣言』が掲げられました。このとき“これが体罰の定義です”というものが発表されているんです。いま話題になっている日本体操協会やJOCはもちろん、いわゆるスポーツ界の協会のほとんどが、この宣言を承認しています。承認してしまっている以上、手を出した指導者は罰せざるをえないというのはあります」
「完全になくなるかっていうと、それはなかなか納得していない人も多いから、時間はかかるんじゃないかなと改めて思いました」
「暴言やパワハラみたいなものであれば、ほかにも出てくるんじゃないかと。でも、私個人としては“あの人は昔、こういうことをしてたでしょ”と、過去のことをほじくりだすのはよくないと思っています。現在進行形の暴力・パワハラに関しては、どんどんオープンにしていけばいい。
このタイミングで問題と向き合うのはいいこと
「影響が出てしまう可能性はあるかと思います。私たちはコーチに“1年を切ったら技術は変えるな”と、よく言われていました。よりよい技術であったとしても慣れるまではパフォーマンスが落ちてしまうと。仮にいい方向の指導だったとしても1年では選手になじまない可能性もあるんです。だから“今の体制を変えないほうがいい”という考え方もあります。
一方で、このタイミングだからこそ世の中が取り上げてくれるという考え方もあります。これを機に、スポーツ界の課題をすべて解決すべきと思っている人も多い。何をもってよい結果になったのかというのが微妙ですけど私もこのタイミングでいろいろ出てくるのはいいことなのでは、と思っています」
「そうでもありません。ちょっと前までアメリカにも体罰をするコーチはいたので、日本は遅れているというわけではないんです。かといって、何から何までがクリーンで、コーチが選手に敬語で話すような世界を目指すのは、僕はおかしいと思います。
“気合入れて走れ!”というかけ声は、トップを目指す選手には重要だと思うので、適したバランスを見つけていくことが大事ですね」