※写真はイメージです
成人女性の2人に1人が不安を持つとも言われる、女性の大敵“便秘”。しかし、排便トラブルの専門家の神山剛一医師は「実際は、そのほとんどの人は便秘ではなく、便がたまっていないだけ」と話す。今回は、神山先生に、理想とされる「バナナ便」をスッキリ出せる「3つのセルフケア」を教えてもらった。便秘への誤解と知識を正して、さあ、レッツ「うんトレ」!
「便を作りためること」が大前提
「“便が3日間、出ません”“1週間、出ていません”と“便秘”に悩む方が連日、相談にいらっしゃいます。
みなさん、とにかく“どうしたら出るのか”を知りたがり、また“便秘はよくない”“便秘になると吹き出物が出る”“続くと大腸がんになる”などと、一様に便秘に対して恐怖心や焦燥感を抱いているのです。でも、それらはすべて誤解で、間違った知識なのです」
そう話すのは、東京都足立区にある寺田病院の神山剛一先生。大腸・肛門の疾患を専門とし、長年にわたり排便障害を治療、研究する、全国でも数少ない排便トラブルのスペシャリストだ。
その神山先生に便秘を中心とした排便トラブルについて聞いたところ、“常識”を覆す思わぬ答えが続々と返ってきたのだった。
「自分が“便秘”だと思っている方の多くが、単に腸内に便がたまっていないだけなのです。便がないのだから出るはずありません。ですが、世の中は“出るか出ないか” “出すにはどうすればいいか” “出ないとどうなるか”などの情報ばかりが目に入ってきます。
しかし、出す前に、まずは大前提として“便を作りためる”ことが重要なのです。そのために自分でできる、排便のための3つのセルフケア方法をお話しします」
アナタは便秘じゃなかった!? 目からうろこの「うんこの話」に乞うご期待!
食物繊維の摂取量がカギ
「これは大きな誤解ですが、食べたものが全部便になると思っていませんか? 例えば同僚とランチを食べたとします。メニューは違えども、ほぼ同じ量を食べたとして、“彼女は出ているのに私は出ない”としたら“便秘かも”と考えてしまうでしょう。
ですが、基本的に食べ物に含まれる食物繊維から便が作られるのであって、普段の食事でどれだけ食物繊維を摂取しているかで便のたまり方が決まってくるのです」
便秘を自称する人の多くが「単に便がたまっていないだけ」と、神山先生が先に述べたが、その便を作るための第1のセルフケアが「食物繊維の摂取」だ。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、1日の食物繊維の摂取目標量は、成人男性は20g以上、成人女性は18g以上と定められている。
「しかし、一般的に大方が12g~13gと足りていないのが現実です。毎日、自分が食物繊維を何g摂取したのか、少なくとも15g以上とれているかどうかをしっかり把握すること。
カロリーや塩分は事細かに計算すれども、食物繊維を計算する人はほとんどいませんからね」
ダイエットを気にするあまりにカロリー優先で食事を決め、それにより食物繊維が不足して便が出なければ本末転倒。お通じにいいはず! と食していたサラダでさえ、実は食物繊維を多くは望めない。
「ごぼうや豆類などの食物繊維を豊富に含む食品を、うまく調理に取り込むことをすすめます。
食物繊維だけに限って極端に言えば、『ケロッグ』の『オールブラン』は1食で11・9gを摂取できますが、過剰にとらわれるのではなく、何でもバランスよく食べること。便秘以前に、まず健康でいることがいちばんだと私は思います」
例えばトライアスロンの選手は、プロテインなどのタンパク質を大量摂取するため、便がたまらずに1週間、出ないこともあるのだそう。
「彼らが不健康かといえばそうではありません。“便秘が治れば健康になる”というのは幻想であり誤解なんです」
では、神山先生がオススメする、食物繊維もとれる健康にいい料理とは?
「世界的にみて、身体にいい食事のイメージは地中海料理ですね。オリーブオイルやナッツ類が中心で便秘にもよく、魚介類もふんだんに使われますから、血液がサラサラになるなど健康にもいい料理です。
代表されるギリシャ料理、そこから発展したイタリア料理など、メニューとしてはブイヤベースやミネストローネなどは食物繊維も含めてバランスがいいですね」
無形文化遺産に登録されたヘルシーな響きの「和食」だが、実は、お寿司やすき焼き、てんぷらなどは食物繊維があまり期待できない。日本古来の一汁三菜からなる“粗食”ならば、便にも健康にもいいようだ。
適量の下剤なら問題なし
食物繊維をしっかり摂取して、腸に便をためた状態であることを前提として、次のステップが第2のセルフケア「適度な下剤の使用」だ。
「もちろん、腸が自力で動いて自然と出るのがいちばんですが、2、3日待っても出ないようなら、お薬を試してもかまわないと思います。ただ、下剤を使うのであれば“バナナ便”を目指すようにしましょう。
このバナナ便は、バランスのいい食生活や腸の“トランジット(次ページ参照)”など、すべての条件がそろえば出てくるので、自分の腸内を知る目安になります。たとえ2、3日に1回の排便でも、バナナ便、もしくは近い便が出ていれば何ら問題はありません」
下剤を使用して、最終的に出てきた便の形状を確認して、1日3錠飲んでいたのを2錠、1錠に減らしたり、毎日飲んでいたのを3日に1度、1週間に1回、2回に減らすなど、コントロールしながら自然に出るよう調整していこう。
「ただ、“お通じが3日間なくて下剤を服用したら泥状便が出てきた”場合は“トランジット”が速くなっていると考えられます。つまりは、その3日間で出なかったのは“便がたまっていなかった”と判断できるのです。
自分で直腸や便がたまっているかを見ることはできませんが、便の形状を見ることで腸を客観的に知ることができるのです」
自分の便の形状を見れば腸内の状態を把握できる
先ほどから、神山先生が話す「トランジット」は、第3のセルフケア「便の形状を見る」と大きくかかわっている。
そもそも便とは、胃で消化された食べ物が小腸で栄養素を吸収されて、最終的に消化されなかった食物残渣(食物繊維)が含まれた液体(腸液)が大腸に流れてくる。そして大腸を通過する中で水分やミネラルが吸収されていき、固まって便となり肛門付近へと送られるのだ。
つまりは水分が吸収されずに肛門まで流れれば、それは液体状の水様便として出てくる。また、ゆっくりと腸内を流れて固まっていけばウサギ糞のようなコロコロ便になり、ほどよい速さで腸内を流れていけばバナナのように適度なやわらかさの便ができる。
「この大腸の動きの速さを“トランジット”といい、便の形状が水っぽければトランジットが速く、乾燥していればトランジットが遅いと知ることができます。
この速度を7段階に分類したのが『ブリストルスケール』(写真ページの表参照)で、目指したいのが4番のバナナ便。トランジットが標準であることを示しているのです」
つまりはバナナ便が排出されれば、大腸がほどよく動いているということ。とはいえ、出るのがコロコロ便ばかり、イコール、悪いわけではない。
「大腸の中には便がたまっているのが当然で、たまっている時間が長ければコロコロ便になりますし、それを空っぽにする必要はありません。踏まえたうえでどれだけの便を出すか、どれだけ快適に過ごすか、を調整するのが本来の排便コントロール。
目指すのがバナナというだけで形状はどうであれ、ほどほどに出ていれば問題はありません。ただ、みなさんは出す頻度や、スッキリ感、量を気にしすぎてしまうのです」
通常、私たちは「お腹が張る」「ガスがたまっている」のを「便が詰まっているせい」と判断する傾向にあるが、ほとんどの場合は便がたまっているからではなく、「腸のどこかが痙攣を起こしている(痙攣性便秘)」のが原因だと神山先生は話す。
「そして口をそろえて“出て楽になった”と言うのですが、キューッとさせる痙攣から解放されて楽になったのであって、“出せば楽になる”という理論は成り立たないのです。
もちろん腸内で異常は起きていますが、それは便が物理的にたまっていることが原因ではないのです。これも植えつけられた誤った常識ですね」
“便秘”といえば、やれ「悪いこと」「出すには〇〇がいい」「〇〇が言っていた」「テレビや本で紹介された」などなど、作られた便秘のイメージが蔓延している。不安になるから、次々と“解消法”を試してはうまくいかずに、がっかりしての繰り返しばかりの人もいることだろう。
「まずは“便秘を正しく知って、正しく理解してください”ということをいちばんに言いたい。ある意味、『うんトレ』というのは、メンタル、思考パターン、認識の仕方といってもいい。繰り返しますが、便を作ってためることが大前提です。
そして3つのセルフケアを実践してください。これを機に便秘をどう把握したらいいか、便秘とどう向かい合えばいいか、ご自身で考えてほしいですね」
バナナ便をするりと出す「3つのセルフケア」のまとめ
●1日15g以上の食物繊維をとる
各食品の食物繊維含有量を計算して、調理にバランスよく取り入れるのがコツ。外食は和食よりもイタリアンが〇
●下剤も適量なら使用する
便をしっかりためた状態で、それでも2~3日出なければ服用もOK。量を調整しながら適度なやわらかさのバナナ便を目指そう
●排出した便の形状を見る
コロコロか水っぽいのか、自分の排便を見れば大腸の動きの速さや、腸に便がたまっているかどうかを把握することができる
神山先生に聞いた便秘の常識・非常識
便秘が続くと大腸がんになる?
大腸のがん化のメカニズムはまだわからないことが多く、大腸ポリープががんになることはありますが、便秘によって大腸がんになることはありません。
例えば、排便と大腸がんの関係について、1万5000人を「1日2回以上」「1日1回」「3日に1回」の3グループに分けて10年間フォローアップした結果、大腸がんの発生率に差がなかったという研究データもあります。
ただ、「3日間出ないから便秘」などと、便秘をどう定義するかによってまた結果は変わりますし、そもそも便秘をきちんと定義する、証明するのが難しいのが現状なのです。
便秘ではないけど下痢が続く
下痢の原因は多様で、最近では隠れた食物アレルギーの影響もあるとされています。少なくとも炎症のない下痢であれば慌てることはありませんが、潰瘍性大腸炎やクローン病など、大腸の問題からくる下痢の場合、炎症性腸疾患という国の難病指定されている病気の可能性も見過ごせません。
下痢が1週間でおさまるようなら様子見でいいと思いますが、1か月続くようでしたら専門の病院に見てもらいましょう。もしくは下痢に少しでも血が混ざっている場合も、早めに受診してください。
便秘は老化を促進させる?
それは逆で、「老化によって促進するのが便秘」と考えてもらったほうがいいでしょう。例えば最近わかってきているのが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症では腸の細胞の減少が確認されていますが、それによって「便秘と感じてしまう」「便を出そうとしすぎてしまう」傾向にあると研究でわかってきています。
たしかに老化と便秘は関係するとは思いますが、本当に便がたまっている便秘とは異なり、老化の症状と便秘のイメージと合致するパターンに陥っていくのだと思います。
更年期と便秘の関係
女性の加齢と便秘の関係は論文レベルでは証明されていませんが、30代、40代、50代では基本的に「便秘になりやすくなる」といった変化はないと思います。たしかに加齢によるホルモンの変化で身体の反応が変わってきますが、それは便秘に限ったことではないのでひとくくりには言えません。
また糖尿病や血圧のお薬を飲んだり、脊柱管狭窄症という背骨の病気になったりと、いろいろなことが付随して、結果的に便秘になりやすくなる可能性はあります。
ですが、年齢を重ねても便秘なく過ごしている人もいるわけですから、そこは個人差なのでしょう。年をとったからと恐怖感を抱かずに、正しく便秘と付き合いましょう。
ストレス過多は便秘になる?
これも便秘に対する誤ったイメージで、ストレスを多く感じている人のすべてが便秘かといえばそうではありません。私もそうです。これは一般論ですが、ストレスとどう付き合っていくかが大事だと思います。
より豊かな生活を送るためには、多少なりのストレスを抱えながらも発散して達成感を得るのがいちばんいい。
これは便秘とは全く関係のないことなんですが、やはりストレスを感じたときに体調に不安が生じると不健康になってしまうなどと便秘と誤解しやすいイメージに結びつけてしまうのかもしれませんね。
お腹がゴロゴロするのに出ない
排便には、適切なタイミング、適切な便意があります。お腹がゴロゴロするのを便意と感じがちですが、正しくは直腸に便がしっかりたまった感覚が便意で、それが自然と下りてくるのが適切なタイミングです。
さらに言えば、肛門の近くに軟球くらいの便がたまっているのが理想ですね。お腹がゴロゴロするのは腸だけが動いている場合が多く、そのまま正しい便意を待つか、便がたまっていないと自覚できるのなら出なくても当たり前としましょう。
食べているのに便が出ない
よほど便にならないものばかり食べているということです。例えば、「一生懸命、サラダ食べてます」と話す人はたくさんいますが、そもそも生野菜を食べても便になりにくいのです。
成人女性の食物繊維の推奨摂取量は1日18gですが、これはお茶碗1杯のご飯(食物繊維量0.5g)を1日30杯以上食べなくてはならない計算で、現実的ではありませんね。
それよりもごぼうや豆類をうまく調理して摂取したほうが便になります。「食べているのに」という、その常識が前提として間違っている人が多いのです。
よく耳にする“宿便”って?
宿便とは、少なくとも科学的には全く証明されていない概念だけのもの。あるとすればコロコロ便(前ページ「ブリストルスケール」写真を参照)のことですが、では、このカチカチに固まった便が身体に何か悪さをするのか、毒を発するのかというと、全くそんなことはありません。
「腸内環境を整える」だとか、「デトックスがいい」などと言われますが、私としてはそこだけにこだわりすぎるほうが毒だと思います。健康で元気に過ごした結果として便が出るのであって、「便を出すために○○をする」とはならないようにしてください。
●お話を伺ったのは 神山剛一先生
医療法人社団俊和会寺田病院 外科・胃腸科・肛門科医師。同日暮里健診プラザ予防医学管理センター副センター長。直腸肛門機能の専門家として、術後の排泄ケア、便秘や便失禁などの排便障害の診断治療、リハビリテーションや排便コントロールにも取り組む。