草津町の黒岩信忠町長(左)から、性行為を強いられたと告白する新井祥子元町議(右)
「向かい合うかたちで町長室の椅子に座って話をしていると、町長が“隣においで”と言うんです。窓はレースのカーテンが閉まっていて、耳元で“××や××とはヤッたの?”と聞かれ、びっくりして首を振ると抱き寄せられました。そんな気持ちはなかったのにキスされて、私は、口を……開けられなかった」
群馬県・草津町の新井祥子元町議は、2015年1月8日午前10~11時の出来事をそう振り返る。
騒動の発端は、新井氏が同町の黒岩信忠町長から町長室で性行為を強いられたなどと11月12日配信の電子書籍『草津温泉 漆黒の闇』で告発したことにある。
こうやって服従させるんだな、と
新井氏は同県桐生市出身。'11年に初当選した同町初の女性町議で、'15年の落選を経て今春、2期目に入ったところだった。
会社員の父親(2年前に他界)とパート主婦の母親のあいだに生まれ、妹がいる。高校時代は障害者のキャンプを手伝うなどボランティア活動に携わった。県内の短大卒業後は「イラストレーターか漫画家」の夢をあきらめ、一般企業の営業ウーマンに。10代からアトピー性皮膚炎に苦しみ、湯治のため草津を訪ねたのがきっかけで、移住するようになった。温泉同好会で知り合った年上の男性と30代後半で結婚したが、政治家になる前に離婚して以来、独身だ。
そんな新井氏にとって、黒岩町長は「政治の先輩として憧れの存在で好意を抱いていたこともある」と言うが、意に反する性行為を含め裏切られることが続いたという。
一方、新井氏の告発を知った町長は即、「すべてウソ」などと猛反論。地元新聞の折り込みに8章立ての声明書(反論書)を挟んだほか、事実と異なる内容を掲載され名誉を傷つけられたとして、新井氏とライターを名誉毀損で県警長野原署に刑事告訴した。
反撃された新井氏は、12月2日の町議会(定数12)で新井氏の告発を信じるひとりの男性町議が提出した町長の不信任決議案に賛同したが、賛成は2人のみで否決。逆に新井氏の言動について「議会の品位を著しく傷つけた」とする懲罰動議が提出され、除名処分が賛成多数で可決して同日、失職した。
新井氏は「拙速な懲罰だと思いますが想定内。町長にはみな逆らえない。邪魔者は排除したいのでしょう」と力なく笑い、「でも、合意なく町長から性行為をされたのは事実です」と言い切った。
町長室でキスをされた後、床に押し倒され、下着の中に手を入れられたという。
「町長は“声は出さないで”と言い、その最中は無言でした。嫌でしたが、すごい力で払いのけられなかった。愛情ある言葉をかけてくることもなく、ああ、こうやって服従させるんだな、弱みを握るんだな、と感じました。今後、裁判になると思うので具体的な行為を話すのは控えたいんですが、(男性器を)こすりつけられました」と新井氏。
それほど長い時間ではなかったと記憶している。
憤慨する町長の言いぶん
なぜ、4年後のいまになって告発に踏み切ったのか。
「町長から“警察やマスコミとつながりがある”と聞いていたため、警察に行くのが怖かった。墓場まで持っていくつもりでした。ところが、今春の町議選で、町長は私を落選させるために動いた。それと、私のほかにも複数の若い女性に手を出した疑いがある。誰かが声を上げないと、いつまでも被害が続くと思ったんです」(新井氏)
黒岩町長にも話を聞いた。
'10年に町長就任後、観光客激減のピンチを立て直し、テレビ東京のビジネス番組『カンブリア宮殿』にも出演した辣腕町長。妻と娘がいる。
問題の町長室に「どうぞ、どうぞ」と招き入れると、新井氏の言う行為が不可能な周辺状況を次々と説明する。
部屋はガラス張りでカーテンは壊れているため閉まらないこと。すぐそばには交番があること。女性の来客時はドアを開けておく習慣があることなど……。そうとう憤慨している様子だった。
「新井氏が言っているのは全部つくり話。官能小説家になったほうがいい。余計なことを言って墓穴を掘っていますし、私が議会に町長室の特大写真パネルを持ち込んで“どこでその行為をしたのか”と指でさすよう迫ったら、オタオタして“証拠隠滅のため模様替えしている”と言って指でさせなかった。模様替えなんて1度もしていないんですよ」と町長。
やおら立ち上がり、机の上に6枚の写真の拡大カラーコピー紙を並べ始めた。
そこには2011年1月~2019年7月までの町長表敬訪問時などに撮影された室内が写っており、町長は取材時の室内と机や椅子のレイアウトが変わっていないことを示して言う。
「みな同じレイアウトでしょ? 新井氏は机や椅子の向きが90度異なっていると言い、その偽装工作をこの11月末にしたと主張している。もし、本当に動かしていれば絨毯に跡が残っていますよ。この部屋のどこにそんな跡がありますか」
机を横にずらして「ほら、机の脚の跡が残るでしょ」と確認させるほどだった。
「男と女のことは、よく合意があったとか、なかったとか、揉めることがありますよね。でも、これはそんな話ではない。100対ゼロ。私がウソを言っているか、新井氏がウソを言っているか。失礼ですけれども、新井氏とそうなることは1億3000万分の1もない。世界が2人だけになっても新井氏には近づきたくありません」(町長)
言い分は見事なまで真っ向から対立している。どちらかが事実ではないことを言っているのは間違いない。
町長は新井氏の告発について、
「草津独自の『時間湯(48度の高温浴)』をめぐり、町が、入浴法を指導する湯長制度を廃止して温度を44度まで下げた問題が背景にあるのではないか」
と指摘し、町長失脚を狙う勢力を警戒する。
一方、新井氏は、
「町長と時間湯について考え方が異なるのは事実ですが、告発とは関係ない。そういう構図を作りたいだけ」
と否定する。
町長の刑事告訴は3日付で受理されており、真相をめぐる捜査が始まっている。
沸騰中の騒動は、当分おさまりそうにない。
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