上野千鶴子さん
ひとりで暮らす高齢者が ひとりで死んで何が悪いのか
「ひとりで暮らす高齢者がひとりで死んで何が悪いのか。それをネガティブなイメージの“孤独死”とは呼ばせたくない。その思いから、“在宅ひとり死”という造語を作りました。ぜひ多くの方に使っていただきたい」(上野さん、以下同)
『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)を上梓した上野さんに、慣れ親しんだ自宅で自分らしい幸せな最期を迎える方法を教わった。
今年4月に逝去した橋田壽賀子さんへのメッセージ
「うまく死ねるかどうかはわからないけど、上野さん、見届けてね」と、
橋田さんはおっしゃった。入院はされましたが、それまで元気に過ごされ、
最期はご自宅で……と、まさに橋田さんのご希望どおり。残念ですが“よかったですね”と申し上げたい。ご冥福をお祈りします。
上野千鶴子
「孤独死」から「在宅ひとり死」へ
「いわゆる“孤独死”は中高年男性の問題であり、高齢女性の問題ではないのです」
「でもメディアは孤独死=高齢者の独居=社会問題のように扱う。独居と孤立はまったく別物であるし、孤独死防止キャンペーンなどは“孤立生”防止キャンペーンと変えるべき」
2人暮らしの満足度がいちばん低い!
これには大きくうなずく週刊女性読者も多いのでは?
「メディアは“おひとりさま”のネガティブな面ばかりでなく、ポジティブなロールモデルを提示すべき。おひとりさまで機嫌よく暮らしている方もたくさんいますので」
満足のいく老後の3条件
●慣れ親しんだ家から離れない
●金持ちより人持ち
●他人に遠慮しないですむ自立した暮らし
病院でなく最後は住み慣れた自宅で
「日本人の死因からわかることは、大半の死が加齢に伴う疾患からくる死。すなわち予期できる死であり、緩慢な死であるといえます」
「119番通報する前に、訪問看護ステーションに連絡を。訪ステは24時間対応を義務づけられているので、状況を聞いてどうすればいいか判断してくれます」
もし訪看ステーションにつながらない場合は主治医、ケアマネージャー、そして訪問看護事業所の緊急対応窓口の順番で電話をかけるとよい。
「本人に余力があれば自分で連絡すればよい。携帯電話のワンタッチダイヤルで1から順番に必要な連絡先を入れておくといいでしょう」
自分の未来のためにも 介護保険を活用!
「子が自分の生活を犠牲にしてまで、親と同居したり自分の家に親を呼び寄せることはない。介護保険制度を使えば、親ひとりでも暮らせます。あとはスマホを持たせ、LINEのビデオ通話で顔を見せてあげればいい。
「今後もこの改悪が続くことがないよう“介護保険が使えない・在宅で死ねない”世の中にならないよう、われわれ有権者は今後もしっかりと見守らなくてはいけません」
教えて上野先生!! 在宅ひとり死Q&A
Q.子どもに頼ったほうがいいことはありますか?
A.意思決定労働はお願いする
「要介護になって地域包括センターに相談をしても、自治体は制度の説明資料と事業者リストをくれるだけ。ケアマネの選択や、どのようにサービスを組み立てるかなど、暮らしと命に関わる意思決定は子どもにお願いしてもかまいません」
Q.PPK(ピンピンコロリ)がやっぱりいいのでは?
A.いわゆる突然死。警察が来るかも
「ピンピン暮らしてコロッと死にたい、とよく聞きますが、これはいわば突然死。かかりつけの医師がいない場合や死因が不明な場合には警察での検死も必要になりますので注意を」
Q.介護保険がもし使えなくなるとどうなる?
A.介護は家族頼み、または自己負担がすごい金額に
「介護保険が縮小されれば、足りないところは、家族に頼ることになります。家族が介護できない、あるいは手が足りない部分は、自己負担で保険外のサービスを利用せざるをえない状況になります。こうした改悪が進むと経済力のない人は介護サービスを受けられなくなります」
上野千鶴子さん ●社会学者。東京大学名誉教授。1948年富山県生まれ。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学のパイオニアで、介護の研究も手がける。『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)ほか著書多数。
〈取材・文/松岡理恵〉