社会問題化している「引きこもり」について県が初めて実施した実態調査で、県内で引きこもり状態にある人が726人おり、40代以上の中高年が半数超を占めることが17日、分かった。全体の4割は行政などの支援を受けていないことも判明。引きこもりの子が50代、親が80代で困窮する「8050問題」が懸念される中、対策の重要性が浮かび上がった。
引きこもりについて国は、自室や家からほとんど出ない状態が6カ月以上続くことと定義。実態調査では今年1~2月、民生委員・児童委員計約2200人に担当エリアの状況を尋ね、1931人から回答を得た(回答率87・2%)。
調査結果によると、引きこもり状態の726人の性別は、男性が544人で女性(159人)の3倍だった。年齢別では40~44歳が108人と最も多く、35~39歳が84人、45~49歳が79人で続いた。40代以上が52%を占め、39歳以下(38%)を上回った。
引きこもりの期間については「10~15年未満」が9・4%、「20~25年未満」が8・4%、「3~5年未満」が7・9%の順。ただ「分からない」が26・9%を占めた。年齢が高くなるにつれ、期間が長くなる傾向がみられた。
きっかけを把握できているか尋ねた設問(複数回答)では「分からない」が41・0%を占める一方、「人間関係がうまくいかなかった」が17・9%、「職場になじめなかった」が15・4%、「中学生時の不登校」が10・1%で上位を占めた。病気(8・7%)や就職活動(7・0%)なども目立った。
支援を受けているかどうかの質問は、「分からない」が最も多い44・5%で「受けていない」が37・6%。「受けている」は21・5%にとどまり、行政などの支援が十分行き届いていない現状がうかがえる。
■相談は最多
引きこもりの相談件数は県内でも増えている。2018年度に県ひきこもり地域支援センター「アンダンテ」に寄せられた相談は延べ665件で、前年を15件上回り、11年のセンター開設以来、最多となった。
20~30代が全体の6割を占める一方、40代以上の相談も3割を占めており、引きこもりの長期化、高齢化をうかがわせている。不登校や発達障害などに加え、仕事につまずくなど、きっかけはさまざまだ。
担当者は「かつて若年層が主とみられていた引きこもりだが、今は全世代に及んでいる」と説明。中高年の場合、親が高齢になり将来への不安を抱いて相談に至るケースもある。
■社会全体で
川崎市の事件では、自殺した容疑者の男が引きこもりがちだった。6月には元農林水産事務次官が引きこもりとみられる長男を刺殺した。これらの事件を受け、アンダンテには、家族や本人から引きこもりと犯罪を結び付けることを懸念したり、不安を訴えたりする相談が増えたという。
引きこもりの子を持つ親・家族の会「KHJ香川県オリーブの会」は「他人を傷付けたくないから、引きこもっている人も多い。きっかけを含めて百人百様でひとくくりにはできない」と強調。元事務次官の事件では家族が問題を抱え込んでいたことを踏まえ、「家庭内の問題で終わらせず、社会全体で捉える必要がある」と指摘する。
■居場所提供
実態調査では4割が支援を受けていなかったが、「実際は『このままではいけない』と考えている当事者は多い。何かきっかけをつくることが大切」と県の担当者。一歩を踏み出してもらい、社会的な孤立を防ぐ取り組みとして県は昨年度から「居場所づくり」をスタート。開設費などを補助し、これまでに高松市内で3施設が開所、今年度はさらに増える見通しだ。
同市瓦町の「Toco STATION」はその一つで、若者らが気軽に立ち寄れる交流の場を提供している。運営団体の代表理事を務める宮武将大さんは、自身も引きこもりを経験しており、「当事者や家族がたらい回しにならないよう、つながり続けることが大事」と話す。
一方、自治体の引きこもり支援策の対象は多くが「39歳未満」。社会復帰に向けた就労支援も、年齢が上がるほど難しくなる。中高年向けの働く選択肢を幅広く設けるなど、「一度レールを外れても戻りやすい環境」(オリーブの会)をつくることが肝要となりそうだ。
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