【ヒューマン】
ロックバンド、BARBEE BOYSのボーカル、杏子(62)が1日にソロデビュー30周年を迎えた。J-ROCKを代表するハスキーボイスの女性シンガー。だが、世間が抱くロックなイメージと葛藤し、ソロ転向直前まで引退を考えていたという。シンガー・ソングライター、山崎まさよし(50)らとの出会いで進化してきたアーティスト人生を、「自分の意思だけでは転がれない」と表現した。(ペン・山内倫貴、カメラ・萩原悠久人)
バービーでKONTA(62)とツインボーカルを務め、「目を閉じておいでよ」などを大ヒットさせた杏子。熱いロック魂を持ちブレないイメージだが、バービーが解散した1992年、ソロに転向後は「自分の主軸は何か、迷いながら進んできましたね」と明かす。
商社に勤務しながら趣味でバンド活動をしていた際、ライブでバービーと共演したのを機に加入した杏子は、解散時、「バービーがなければプロの私はない」と引退を考えた。「OL時代の友人をリサーチして、いかに(OLに)戻るかを考えた。だけど、やっぱり一番やりたいのはライブなんですよね」。
ライブは自分らしさを支える原点。10日に配信した30周年記念曲「30minutes」は、「1年考えた末に、ソロでやると決めた最後の30分の思いを込めた」という楽曲だ。
音楽との出会いは中学生のときに叔父から贈られたガットギター。青春時代の70年代はフォーク全盛で、山崎ハコ(65)らをカバー。大学時代にボーイフレンドが通っていた美大のバンドサークルに参加し、ロックと本格的に出会った。
「(スコットランド出身のバンド)ナザレスのとんでもないハードロックの音源が送られてきて、よく知らないままに完コピした」といい、学園祭で歌唱。「夜のステージで、お客さんがウァーと喜んでくれて…こんな楽しいことがあるんだと。中途半端な自分が認められたと思いました」。そんな思いが鮮明によみがえったソロ決断の30分を「進学や就職は親や先生の言うことを聞いて決めたけど、初めて自分で選択した時間」と位置づける。
実は、84~92年に活動したバービー時代も悩みがあった。当時はおニャン子クラブや南野陽子(55)らアイドルが活躍しており、イメージ戦略として「私は逆アイドルとというか、強気な女性を演じた」と説明。「マネジメントの方針で、大人のいい女を想像するため、高層ビルの部屋に住むみたいな絵を描いたり。実際は知り合いの幼稚園の先生とルームシェアで大家さんの家の2階に住んでましたけどね。私はクールでないし、バービーを辞めると言ったこともありますよ」と振り返る。
ソロ転向後も当初は世間のイメージと葛藤。ソロデビュー曲「DISTANCIA~この胸の約束~」では伸びやかな歌声で新境地をみせたが、「ロック魂を売ったのかと結構いわれて、しばらく歌えなくなった」。95年のアルバム「Dear Me」は、「(当時のポジティブな世相に合わせた)実験的で面白い作品になったけど、人前で歌うイメージができなくて、どうしようもなくなった」。
そのとき聴いたのが学生時代のライブを収録したカセットテープ。「へたっぴだけど、めっちゃパワーがあった」と吹っ切れた。同年に同じ所属事務所の山崎まさよしらとライブハウスで、原点回帰となる自由なセッションを月に1度開催した。
福耳としてユニットも組み「星のかけらを探しに行こう Again」などをともにヒットさせた山崎について「振り返ると、ヤマ(山崎)がターニングポイントを作ってくれた」と感謝。
Superfly、木村拓哉(49)らを手掛けた音楽プロデューサー、多保孝一氏(40)とのタッグを組んだ今回の「30minutes」にも改めて触れ、「バービーのときから私は単なる素材。昔から行き当たりばったりで来ましたが、駒として120%はじけられるような準備は大事。ボイトレや体幹トレ、頑張ってエステにも行ってますし」と穏やかに笑った。
「自分の意思だけでは転がっていけない」がたどり着いた主軸。「ライク・ア・ローリング・ストーンって…本当ですね」とボブ・ディランの名曲に今後のアーティスト人生を重ねた。
★「体を動かし」ストレス発散
魅惑のハスキーボイスについては「ソプラノから徐々に男子の音域に変わった」と説明。学生時代に風邪をひいてかすれ声で歌った際、「その声がいいといわれて、無理やり声をつぶしたこともあった」と振り返った。ストレス解消法は「ドアを開けて外に出て歩く。心はコントロールが難しいので、具体的に体を動かすことが大事。全部が止まると苦しくなる」と告白。9月25日には横浜・赤レンガパーク野外特設ステージで開催される恒例の音楽フェス「Augusta Camp 2022」に出演する。
■杏子(きょうこ) 1960(昭和35)年8月10日生まれ、62歳。長野県出身。大妻女子大文学部英文学科卒。84年、BARBEE BOYSの「暗闇でDANCE」でデビュー。同バンドが解散した92年にソロ転向。山崎まさよしらが参加するユニット、福耳でも活動した。2018年からバービーが再始動。21年にアルバム「VIOLET」を発売。9月16日に公開される岡田准一(41)の主演映画「ヘルドッグス」(原田眞人監督)ではクラブのママ役を演じている。