キックボクシングをベースにした打撃系格闘技の「K-1」に、山梨県在住の73歳の男性が今月デビューする。空手経験者とはいえ、K-1を始めたのは昨年4月から。しかし、ジムの会長もその熱意には舌を巻くほどで、年齢からは考えられないほどの厳しい練習も怠らない。K-1の歴史上、最高齢での出場となる見通しだが、本人は「デビュー戦で緊張はするが、勝利で飾るイメージしかない」と、闘志をみなぎらせている。
ハードなトレーニング
同県南アルプス市のキックボクシングジム「T-GYM」のリングで、K-1のプロ選手だった同ジムの塚原圭会長(51)相手にスパーリングする男性。今月23日に、東京都新宿区のGENスポーツパレスで開催されるK-1のアマチュア大会でデビューする、同県身延町の佐野茂男さん(73)だ。パンチとキックを繰り出しながら、佐野さんは相手に圧力をかけ、一歩も引かず、前へ前へと押し込んでいく。
佐野さんのトレーニングの日課はこうだ。午後3時すぎにジムに到着すると、まず設置されているマシンで約40分、距離にして約8キロをランニング。その後ストレッチ、腕立て伏せ、腹筋、首周りの筋肉のトレーニング、重いロープを鞭のようにしならせるトレーニング、リングでシャドーボクシングやミット打ち。そしてスパーリングで1ラウンド3分を2ラウンド。
さらに帰宅してから、ガレージに置いてあるサンドバッグを相手に拳を鍛えるというハードな内容だ。
キックの夢破れて
佐野さんは、地元の高校で、寸止めが基本の伝統空手に取り組んでいた。高校卒業後、山梨県庁に就職したが、当時、高い人気を誇ったキックボクシングに魅了され、20歳の時に県庁を辞め、上京しキックボクシングのジムに通った。アルバイトで生活費やジムの費用を賄っていたが「お金がなくて、キックの道を挫折せざるを得なかった」と振り返る。
その後、東京都内で飲食店などを手広く展開していた同町出身の経営者に声をかけられ、その会社を手伝い、都心のすし店の店長を任された。23歳の時に独立し、東京・恵比寿ですし店を始めた。事業は順調に広がり、都内ですし店や居酒屋など5店舗を経営するようになった。
余裕ができたことで、26歳の時に空手を再開。今度は直接打撃を行うフルコンタクト空手の道場に通い始め、47歳まで続けてきた。仕事も飲食業から不動産賃貸などに徐々にシフトし、52歳の時に出身地の同町でマンション経営などを始め、生活拠点を山梨に移した。
試合の準備に集中
山梨に戻ってからは伝統空手を続けていたが、昨年4月、73歳の時に、南アルプス市でT-GYMを見つけ、飛び込みで見学。「キックの夢再び」と、2回の見学後、入門を申し出た。
同ジムはプロの女子チャンピオンを輩出し、プロを目指す選手も所属するが、ダイエット目的などで通う人もおり入門が認められた。だが塚原会長が「普段は紳士だが、スイッチが入ったときは怖いくらい」という、佐野さんのファイターぶりを見て、40歳以上のクラスでK-1デビューが決まった。
塚原会長によれば「70歳を超えてハードワークを続ける佐野さんを見て、ジム全体のモチベーションが上がる」といい、自身や若い選手への相乗効果も大きい。しかし、デビュー戦の約1週間後には74歳になる佐野さんは、周囲の声には関心はない。「青春が戻った」と、懸命にパンチを繰り出し、試合の準備に集中している。(平尾孝)