激化する対立抗争の渦中にある特定抗争指定暴力団「山口組」と「神戸山口組」。神戸山口組ナンバー2の自宅に5月、対立している山口組系組員の男が運転する車が突っ込む事件があった。逮捕された組員は不良集団「半グレ」の元幹部。半グレと暴力団はこれまで、一線を画しながら双方にとってメリットのある関係を続けてきたが、警察当局は半グレから暴力団組員への転身が増えたことで、両者の関係に変化が生じているとみる。
狙われたのは「神戸山口組」のナンバー2
大型連休最終日の5月8日未明。大阪府豊中市の閑静な住宅街に1台の車が姿を現した。四輪駆動の乗用車は数段ある階段をバックで乗り越えると、住宅の木製の門扉を破壊。運転席にいた男は車を残し、その場を立ち去った。
この住宅は神戸山口組のナンバー2、入江禎(ただし)副組長の自宅。中には入江副組長のほか、妻と住み込みの組員1人がいたがけがはなく、午前4時過ぎ、巡回中の警察官が車を発見した。
約1時間後、大阪府警は建造物損壊容疑で名古屋市中村区の無職、菅野義秀容疑者(26)を逮捕。神戸山口組との抗争が続く山口組傘下の組員だった。
逮捕後の調べに「やったことは認める。でも動機はいわない」と供述。府警は抗争の可能性があるとみて組織的な関与の有無を捜査している。
強固になりつつある半グレと暴力団の関係
府警の捜査で、菅野容疑者は半グレ集団「アビスグループ」元幹部であることが判明した。アビスは大阪・ミナミを拠点に活動していた半グレ集団で、ガールズバーでぼったくりを繰り返すなどして最盛期には毎月5千万円以上を売り上げていたとされる。
他の半グレが経営に関与する飲食店への襲撃などを繰り返して勢力を拡大したが、警察当局がメンバーを次々と逮捕するなど摘発に本腰を入れると衰退。菅野容疑者も平成31年2月、対立する半グレが経営するガールズバーを襲撃したとして凶器準備集合などの疑いで逮捕され、アビスは同年、解散に追い込まれた。
隆盛を誇った半グレ集団幹部の暴力団組員への転身に、捜査関係者は「半グレと暴力団がこれまでより強固な関係を築いている可能性がある」と警戒感を強める。実際、両者のつながりを示唆する事件は今年1月にも起きている。
大阪・ミナミの繁華街で、20代男性が数人の男に金属製のポールで殴られたり、催涙スプレーを噴射されたりする事件が発生。男らの一人は、暴行を重ねながら、自らが暴力団員であることを誇示していた。
男が口にしたのは、菅野容疑者が所属する山口組傘下組織の名。後に傷害容疑で逮捕された20~22歳の男5人は、全員が過去にアビスに所属した半グレだった。組員としての活動実態こそなかったが、府警の調べにも暴力団との関係をほのめかしたという。
半グレが暴力団の資金源に
これまで暴力団と半グレは「持ちつ持たれつの関係」(捜査関係者)とされることが多かった。暴力団対策法や暴力団排除条例の適用外となる半グレは、その身軽さを強みに暴力団の〝シノギ〟の一端を担うことで、暴力団の後ろ盾を得てきた。
上納金も納めているとみられ、ある捜査幹部は「半グレが暴力団の資金源になっていることは確かだ」と話す。令和3年に府警が摘発した半グレは延べ250人。ほとんどが特殊詐欺や集団窃盗、大麻など、資金獲得にからむ罪だった。
暴力団組員へと転じた半グレ幹部の存在は、両者の関係をより密接なものに昇華させるリスクをはらむ。法規制が及ばない半グレ集団が実質的な傘下組織となれば、資金獲得などの〝手先〟としての働きにとどまらず、対立抗争の先兵を担う可能性もある。
警察庁によると、全国の主要暴力団の6団体のうち、神戸山口組を含む5団体の構成員は年々、右肩下がりとなっている一方、山口組だけは2~3年にかけて構成員と準構成員がともに増加している。
他団体から移籍した組員のほか、半グレから流れた若者もいるとみられ、捜査幹部は「一強になりつつある山口組が組員となった幹部を結節点に半グレを取り込み、勢力を伸ばしている」と分析。「さらに多くの半グレが水面下で実質的な組員となれば実態の把握が難しくなる。ヤクザでも半グレでも警戒強化の手は緩めない」と語気を強めた。