タルト・タタンは19世紀、仏ソローニュ地方のラモット・ブーヴロンにある「ホテル・タタン」の厨房(ちゅうぼう)で、失敗がもとで偶然生まれたお菓子です。当時、はやりにはやっていたこのホテルでは、ステファニーとジュヌヴィエーヴのタタン姉妹がおいしい料理と笑顔で客を迎えていました。
ある日、2人はあまりの忙しさにデザートの準備を忘れてしまいました。これに気が付いた1人が、タルト型にそのままリンゴを詰め込んで焼きます。そこにやってきたもう1人が、オーブンをあけてびっくり。「生地がない!」
すぐに機転をきかせてタルト生地をかぶせて焼き上げ、ひっくり返したのです。するとどうでしょう。リンゴはあめ色に輝き、とろけるような食感となっているではありませんか。
その後、町で大きな評判となったこのお菓子。噂を聞きつけてホテルを訪れた食通ジャーナリストも、そのおいしさに感動し、記事にしてパリで紹介します。こうしてタルト・タタンは、たちまちフランス中に知られるようになり、やがて世界中で愛されるリンゴのお菓子の定番となりました。
ホテル・タタンではオーナーが代わった今でも、季節によってリンゴを吟味しながら、伝統のタルト・タタンを作り続けています。
プロフィル
大森由紀子(おおもり・ゆきこ) フランス菓子・料理研究家。「スイーツ甲子園」(主催・産経新聞社、特別協賛・貝印)アドバイザー。