不機嫌な人を見て、「あの人はストレスがたまっている」と感じることはありませんか?
イライラや不満などの感情に支配されず、気持ち良く過ごせるように、普段の生活でできるストレス対処を、横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)
怒りっぽいことに悩んでいる人へ
ストレスを抱えているとイライラして怒りっぽくなります。普段から怒りっぽいとストレスをためやすく、悪循環になっていきます。もし、あなたが怒りっぽいことに悩んでいるなら、ストレスへの対処に解決のヒントがあるかもしれません。
そもそもストレスとは、何だと思いますか。もとは物理学の用語で、外部からの刺激によるゆがみです。これを生理学者のハンス・セリエ氏が、人に当てはめて生物学的ストレスを提唱しました。今から約80年前、1930年代の学説です。
心を弾力性のあるクッションに例えて考えてみましょう。外から押される力をストレッサーといいます。押されたら、もとの形に戻そうとする力が働きます。これをストレス耐性といいます。そして、押されてゆがんだ状態をストレス反応といいます。
生活におけるすべての刺激がストレッサーになり得ます
ストレッサーを人に対する刺激と考えると、天候や騒音、においなどの環境的要因、病気や痛み、睡眠不足などの身体的要因、そして職場問題、家庭問題、経済的問題などの社会的要因があります。つまり、生活におけるすべての刺激が、ストレッサーになり得るのです。なかでも職場の人間関係や近所付き合いなど社会的要因は、不安や悩みなど心理的ストレス要因になりやすいといわれます。
同じ出来事や状況であっても、ストレッサーになる人もいれば、ならない人もいます。私はにおいが気になります。病院や介護施設に行くと、さまざまなにおいがあります。病院や介護施設によって、また同じ病院や介護施設でも場所や部署ごとにずいぶん違います。患者や利用者は、排泄物などのにおいだけでなく、体調が優れないときには換気が悪い室内や食事のにおいなども苦痛に感じる場合があります。
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ストレス耐性はいわば人が成長する過程
ストレス耐性も人によって異なります。ストレッサーによって心身にゆがみを生じたときに、元に戻そうとする力が強い人もいれば、ゆがんだまま戻せない人もいます。大きな出来事や複数のストレッサーが重なったときは、ゆがみを戻すのが大変です。仕事、家事、育児、介護など、毎日続く終わりの見えないストレッサーも、戻す力を阻害します。
とはいえ、ストレスがなければ良いとも限りません。人は困難に立ち向かおうとするなかで成長します。ストレス耐性は、いわば人が成長する過程でもあります。
いつもと違う人に気づいたら声をかけてください
ストレス反応は、どのように現れるのでしょうか。心の形は見えないので、身体症状、心理面、行動面から推察してみます。
身体の変化として、人前で話すときに緊張して胸がドキドキして手に汗をかく、恥ずかしくて顔が赤くなることなどが挙げられます。過度のストレッサーを受けると、不眠、食欲不振、食べ過ぎ、頭痛、腹痛、発熱などの症状がでることがあります。
心理面への影響としては、気分が落ち込む、やる気が出ない、イライラする、ささいなことにこだわってしまうということなどがあります。
行動面では、怒りっぽくなる、元気がない、仕事のミスが増える、集中力が低下するなどの変化がみられます。行動の変化は、周囲の人が気づく場合があります。気づいたら声をかけてみてください。「最近ミスばかりじゃないの。しっかりしなさいよ!」というか、「仕事に集中できないようだけど、何か心配ごとがあるのでは?」というか、見立てによって声のかけ方が変わるのではないでしょうか。
ストレスのセルフケア
介護や育児のストレスに押しつぶされそうなのに、誰にも気づいてもらえないという人もいるでしょう。セルフケアとしてのストレス対処のポイントは、自分自身でストレス反応に気づき、それを解消するための行動を起こすことです。
「口調がきつくなる」「朝早く目が覚める」「食欲がなくなる」など、自分のストレス反応がわかりますか? 注意サインを知り、自分の変化に気づけるよう準備しておきましょう。
対処行動として、ときにはストレッサーになる介護や育児や仕事や家事から思い切って離れて、リフレッシュするのもひとつです。しかし、それができないからストレスがたまるという人は、ほんの数分でできる気分転換を考えてみてはどうでしょうか。
例えばコーヒーを飲む間は何も考えずにリラックスする時間と決めてしまうのです。また、呼吸法やストレッチなどは、取り入れやすく心身の緊張を緩める効果があります。思いきり笑って、友人とおしゃべりするのも有効です。一方で、専門家に相談するのも一つの方法です。身近な人に話せないことを安全な環境で話せますし、専門的な助言を得て、活用できるサービスがみつかることがあるかもしれません。
気持ち良く過ごすために、ストレスや怒りのコントロールを
仕事でも家庭でも、理不尽なことや思い通りにならないことはあります。介護も例外ではありません。イライラや不満などの感情に支配されず、気持ち良く過ごせるように、普段の生活でできるストレス対処を意識してみてください。
怒りへの対処には、ストレスへの対処と共通点が多くあります。怒りへの対処が上手になると、自然にストレスへの対処も身についていきます。
次回は、「怒りを測る」をテーマに考えていきます。
◇参考:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトこころの耳
http://kokoro.mhlw.go.jp/
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田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。