放送中のTVアニメが第5期を迎え、夏には新作劇場版『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』も公開と、さらに盛り上がりを見せるアニメ『僕のヒーローアカデミア』。
6月5日放送の5期第11話(通算99話)までは雄英高校1年A組vsB組の対抗戦が描かれ、これまでの体育祭や林間合宿といった対戦・共闘を経て、両組共に“有精卵”たちが大いに成長した姿を見せた。毎話、手に汗握る激闘が繰り広げられる中で話題になったのが、レギュラーキャストがB組キャラクターも同時に演じる兼ね役。公式サイドから予想企画を実施することで、これまでにない盛り上がりを見せており、SNSを中心にアニメ『ヒロアカ』をさらに楽しむことができるイベントとなった。過去シリーズでも兼ね役はあったが、今回のB組との演じ分けがなぜ“アツかった”のかを掘り下げていく。
まず、兼ね役は実は一般的なことであることが前提。大きな理由の一つとして、キャストの出演費を抑えることから日本のアニメ制作の現場で広く行われている。一部を除いて、基本的にアニメ出演のギャラは日本俳優連合が定めたランキングによって声優ごとに明確に分けられており、セリフが一言の場合でも、喋り通しの場合でも1話あたりの固定給は同じ。雑踏やスポーツアニメでの大勢の観客の声援のようなガヤにも、レギュラーキャストが参加することが多くある。アニメ『ヒロアカ』でも以前から兼ね役はしばしばあり、A組でいえば飯田天哉役・石川界人が体育祭で経営科の生徒の一人を演じているような細かいものから、葉隠透役・名塚佳織がプロヒーローのMt.レディ役も演じているようなものまで様々だ。
また、一口に兼ね役と言っても予算以外の理由ももちろんある。例えば『ドラゴンボール』で野沢雅子が悟空だけでなく悟飯や悟天、父のバーダックまで顔が互いにそっくりな一族として演じているパターンや、ショートアニメ『彼岸島X』での山寺宏一の脅威の1人50役のような、話題化を狙う施策として、Web配信アニメなどで実施されるパターンも見られる。
さて、そこで現在放送中のアニメ『ヒロアカ』第5期なのだが、公式Twitterとインターネットラジオステーション「音泉」で配信されている『僕のヒーローアカデミア ラジオ オールマイトニッポン』が連動し、「クイズ1年B組“声”態調査報告」というコーナーを実施。キャラクター数が多い分キャストも多い本作で、B組メンバーの声を誰が兼ね役として演じているのか予想するという、ファンも巻き込んだエンタメ企画だ。『オールマイトニッポン』内では、今期のパーソナリティを務める緑谷出久役・山下大輝と爆豪勝己役・岡本信彦が、時にはゲスト声優も交えてコーナーを展開。もはや大喜利や別キャストの声真似のコーナーになることもしばしばで、『ヒロアカ』ファンだけでなく声優ファンにとっても楽しめる企画に! その相乗効果で、最新話が放送されるたびに話題を呼んだ。
B組メンバーは、これまで何度か登場シーンはあったものの、いつも何かとA組を煽りまくる物間寧人や、そんな彼に手刀でツッコミを食らわすクラス委員長・拳藤一佳、体育祭でA組の切島鋭児郎と“個性ダダ被り”の熱血対決を繰り広げた鉄哲徹鐵以外は、ほとんどが今回の対抗戦で本格登場。全5試合の中で毎試合兼ね役が登場していたが、その中でも“アツい”キャスティングだった諏訪部順一、天﨑滉平、北田理道、悠木碧、佐倉綾音について、試合順に沿って紹介していきたいと思う。
1.相澤消太と宍田獣郎太を真逆の演技で魅せた、諏訪部順一
第1試合で特に注目が集まった兼ね役は、A組の担任・相澤消太役の諏訪部順一の宍田獣郎太との演じ分け。諏訪部は『週刊少年ジャンプ』作品のアニメ化で重要キャラクターを演じることが多く、毎年バレンタインデーに大量のチョコレートをもらうことでお馴染みの『テニスの王子様』跡部景吾役をはじめ、『呪術廻戦』両面宿儺役、『BLEACH』グリムジョー・ジャガージャック役、『黒子のバスケ』青峰大輝役など、正にジャンプ作品には欠かせない声優だ。昨年末には週刊少年ジャンプとコラボした『諏訪部順一SPECIAL』がデジタルで発行。一部応募者に実物がプレゼントされるという前代未聞の企画も大きな話題となった。
そして相澤役では、辛辣さの裏側にある生徒を想う気持ちや、ヴィランに立ち向かう際に静かに燃やす信念といった、「内に秘めた想い」を諏訪部の深く落ち着いた声で表現。一方、兼ね役で演じた宍田は、両家の出身で普段は落ち着いた口調ながらも『僕のヒーローアカデミア 公式キャラクターブック2 Ultra Analysis』によると、理性を飛ばしたいという願望を内に秘めている。「ビースト」の個性が発現するとハイになるという特色があり、その「内に秘めた願望を全開で表に出す」という、正に相澤とは真逆のキャラクター。対抗戦では口調も普段とは一変し、「私は鼻が効くのですなァアアアア!!」と猛然と先頭を切って突進し、その圧倒的なパワーや俊敏性、上鳴電気の放電すら跳ね除けるタフネスでA組メンバーを苦戦させた。
加えて今回の対抗戦では、相澤がヒーロー科への編入を目指す普通科1年・心操人使に自身の捕縛布の使い方を伝授するという、いわば師弟関係にも大きな注目が集まった。その少しぶっきらぼうながらも、心操にかける言葉の端々に感じられる優しさを諏訪部が見事に表現し、「相澤先生」など関連ワードもTwitterでトレンド入り。体育祭最終種目で心操が敗北した緑谷とリベンジマッチや、緑谷&オールマイト、心操&相澤という師弟関係の対比の妙もあり、彼らの絡む第1試合、そして第五試合も物語の大きな起点として注目を集めた。
2.天﨑滉平が物間寧人役&黒色支配役で見せた二面性のある表現力
続く第2試合は、物間役・天崎滉平が黒色支配を、飯田役・石川界人が吹出漫我役を、耳郎響香役・真堂圭が小森希乃子役を演じ、A組とB組の兼ね役がそれぞれ入り乱れるキャスティングとなった。
黒色は特に、アニメ5周年記念企画としてメインキャストと5期第1クールでOP主題歌を務めるDISH//が出演したYouTubeの特番や『オールマイトニッポン』内でも、岡本が度々「中二心をくすぐられる」「オール・フォー・ワンもコントロールすることができるのでは!?」と、B組の注目メンバーとして期待を寄せていたキャラクター。劇中やラジオ内などでも言及される“ヴィランっぽい”個性の彼らを見事に演じ分けた天崎の声が注目ポイントとなっている。天崎は、『ハイスコアガール』の主人公・矢口春雄役などで知られ、2019年には第13回声優アワードで新人男優賞・歌唱賞をW受賞した若手声優きっての注目株の一人だ。
天崎がゲストとして登場した『オールマイトニッポン』で、彼の印象について山下が「まったり天然ボーイって感じ」と語る一方で、岡本がその潔癖ぶりを掘り下げており、まったりなだけでなく凝り性の一面もある様子。天崎本人は、「『ヒロアカ』に化けの皮剥がされちゃいました(笑)」と語っており、相手を煽り弱点や隙を探りつつ、「コピー」の個性を使った駆け引きで翻弄する物間と、陰謀ヒーロー・ペンタブラックとして、影に潜み相手を奇襲する黒色のダークな面を見事に演じている。一方で、常に拳藤をはじめ周りにツッコまれ、煽りの裏にB組への人一倍強い想いが見える物間、細谷佳正演じる常闇踏陰と黒色との「ソワ……」となる中二病なやり取りといった、愛される一面もあるのが二人の共通点だ。天﨑は「物間も含めて一番意識していることは、みんなヒーローに憧れてこの場に居るっていうところ」ともコメント。そんな二面性を見事に演じ切った表現力で、単純に「A組よりヴィランっぽい個性の持ち主が多いB組」ではなく、一段も二段も深いキャラクター性とドラマが窺える、アニメならではの良さが光る兼ね役となった。
3.骨抜柔造、そして飯田天哉の兄・天晴芯で強い男を演じた北田理道
飯田天哉や轟焦凍、鉄哲らが立て続けに新技や個性伸ばしの成果をこれでもかと見せ、正に「格上と限界は越える為に在る!!」というPlus Ultraなアツい展開も見どころだった第3試合。B組の推薦入学者の一人・骨抜柔造を演じたのは、これまでのシリーズでもプロヒーローのシンリンカムイなどを演じてきた北田理道だ。
「柔化」の個性で足場を封じた骨抜に対し、「俺はもう!ずっと!フルスロットルだ!!」と、新技の「レシプロ・ターボ」で対抗する天哉だが、実はここにインサートされる回想シーン含め、以前から北田理道が先代インゲニウムである兄・天晴を演じている。ヒーロー殺し・ステインに再起不能の傷を負わされてしまうも、未だ天哉の理想のヒーロー像としてあり続ける真っ直ぐな兄を、力強く芯のあるキャラクターとして演じた。
一方で兼ね役の骨抜は、「レシプロ・ターボ」の速さに敵わないと見るや戦法を変えて仲間のフォローに回る柔軟さを見せつつも、「自分のミスで友達が負けんのは嫌だ!」と、鉄哲と協力。気絶する直前まで力を振り絞り、単なる日和見主義な柔軟さというわけではなく、常に最善策を模索し続ける姿勢、仲間思いな姿、そして推薦組の意地を見せた。それぞれ立場は違いながらも、北田はそれぞれ芯の強さを実直に表現。天哉役の石川とのやり取りとの相乗効果で、よりドラマのアツさを盛り上げた。
4.蛙吹梅雨&角取ポニー&取蔭切奈の3名を演じ分けた悠木碧
第3試合で角取ポニー、続く第4試合で取蔭切奈を連続で演じたのが、A組の精神的支柱・蛙吹梅雨役を演じている悠木碧。『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公・鹿目まどか役のような純粋な少女から、『幼女戦記』のターニャ・デグレチャフ役のような、見た目は幼女でも転生前は合理主義のエリートサラリーマン、そして『SSSS.GRIDMAN』のボラー役のような、実は男性のキャラクターまで幅広い役柄を表現する実力派声優の一人だ。
第3試合で悠木が演じた角取は、アメリカ出身で怒ると英語が出てしまうというキャラクター。のっけから猪突猛進の鉄哲に英語で捲し立てるシーンもあり(原作では字幕のつかない英語シーンでも、TVアニメでは字幕がつくのもポイント)、また普段の会話もカタカナ混じりでイントネーションも独特。しかし悠木は、ともすればオーバーになってしまい、不自然さだけが目立ってしまう可能性のあるカタコトすらも自然に表現。その上、角取の「勝てずとも絶対に負けはしない」という、ヒーローに重要な決意の強さまで表現しきった。
第4試合で兼ね役として演じた取蔭は、B組の推薦入学者の一人。個性「トカゲのしっぽ切り」を活かし、耳郎の索敵能力の高さを逆手に取ったり、口だけ切り離して爆豪に言葉で揺さぶりをかけたりと、策士ぶりを見せつける。熱しやすさも持ち合わせる角取や、状況を冷静に見定めつつ解決策を模索する、A組の精神的支柱である蛙吹とも全く違ったキャラクターだ。悠木は第3試合からの連続での出演ながらも、あの物間すら認める“やらしさ”の取蔭という、異なるキャラクターをねちっこく、かつクールに演じた。そんな悠木の演技によって、一層磐石さの説得力が増した取蔭の作戦。しかし、それが崩されることで、これまでワンマンぶりだけが悪目立ちして来た爆豪が、荒さはありながらも「てめェらが危ねェ時は俺が助ける……で、俺が危ねェ時はてめェらが俺を助けろ」というセリフから見える圧倒的成長ぶりが、対比でより際立つ試合となった。悠木は、「梅雨ちゃん、ポニーちゃんとはまた違ったカッコ良さのある女の子で、演じがいがありました」とツイートでもその達成感を語っている。
5.麗日お茶子より、柳レイ子の方が演じやすい!? 正反対の役柄を演じ分けた佐倉綾音
第5試合では、麗日お茶子役・佐倉綾音が対戦相手の柳レイ子役も演じた。同じキャストのキャラクター同士が対戦相手に居るのも楽しめるポイントな上、いつも天真爛漫でポジティブな麗日に対し、柳はホラーをこよなく愛すミステリアスなキャラクターで、正に対照的。
アニメ『ヒロアカ』5期の地上波初となる副音声放送で、5月22日放送の第9話では、岡本と佐倉が副音声に出演し、兼ね役の演じ分けについても語った。柳を演じるにあたって、麗日とは異なり、「幽霊がモチーフになっているので、お茶子とは逆本面に振ってネガティブなイメージだった」と語る佐倉は、声を少し震わせるというような工夫もしたという。『オールマイトニッポン』など、キャストが収録時のエピソードを語る際にほぼ必ずと言っていいほど話題に上がる音響監督・三間雅文のディレクションについては、「ちょっとでも中途半端な気持ちで臨もうものなら、『これどんな気持ちで演じた?』って聞かれる(笑)」と語りつつ、柳については何も突っ込まれなかったといい、「やりやすいのは実はレイ子」と、周りに元気を与える麗日を演じる難しさも語っていた。
第5試合では、個性の「黒鞭」が暴走する緑谷を押さえるため、身を呈して真っ先に飛び出した麗日。彼女の語るヒーロー、そして背中を追いかける緑谷への憧れは正にその天真爛漫さ、そしてポジティブな精神性そのものを表しており、演じる佐倉の声も明るい。
一方の柳を演じる際、佐倉は声のトーンを麗日より明らかに低く演じており、「緑谷ウラメシくない?」と独特のホラーワーディングで話す様子にもミステリアスな雰囲気が漂う。また、麗日が個性の他にもインターン先で学んだ近接戦闘術「GMA(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)」を試合で多用するのに対し、柳は近接が苦手で個性「ポルターガイスト」で身近なものを浮かせて飛ばす攻撃をするという点も対比構造に。そんな全てが真逆の二人を演じ切った、佐倉の声の演技も大きな見どころの第5試合となった。
今回紹介した以外にも、対抗戦では多くの兼ね役があったアニメ『ヒロアカ』。第5期は2クールでの放送が決定しており、ワン・フォー・オールの初代と5代目が立て続けに登場し、いよいよ物語の核心に迫っていく展開からもますます目が離せない!
先述の副音声放送を含め、様々なアニメ5周年企画も実施されており、8月6日には吉沢亮がゲストキャラクターを演じる『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』が公開。ますます2021年は“ヒロアカイヤー”になること間違いなし! これを機に、兼ね役にも注目しつつこれまでのシリーズをエンドクレジットまでじっくり復習し、“ヒロアカイヤー”を120%、Plus Ultraで堪能してみては?
※天崎滉平の「崎」はたつさきが正式表記。
(文=桜見諒一)
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