NHKの連続テレビ小説『スカーレット』において、キャスティングが発表されるや、楽しみな要素の一つとして期待された西川貴教。
出身地の滋賀が舞台に選ばれたというご縁からで、演じる役柄は「世界的な芸術家・ジョージ富士川」。金髪にド派手な衣装、決めゼリフは「自由は不自由やでェ~」であり、おまけにある著名な芸術家(※岡本太郎と思われる)をイメージした役だということから、作品を大いに盛り上げ、引っ掻き回してくれる朝ドラ恒例の「ヘンなおじさん」だと思い込んでいた。
【写真】毎回奇抜な服装で登場するジョージ富士川
というのも、朝ドラには「ヘンなおじさん」がたびたび登場するからだ。特に2000年代後半以降はかなり豊作である。
典型的なのは、『芋たこなんきん』の流れ者のおじ・昭一(火野正平)や、『ちりとてちん』で堅実な職人の兄と対照的に、独身で定職を持たず、アロハシャツ+カンカン帽でフラフラしていたおじ・小次郎(京本政樹)ではないだろうか。
また、近年では『ひよっこ』のムードメーカーであり、戦争による心の傷を抱えつつ、ビートルズ来日を心待ちにする「ピュアおじさん」の宗男(峯田和伸)も印象深い。実際、作中のみね子(有村架純)のセリフでも、ナレーションでも、「へんなおじさん」と言われる場面があった。
また、『あまちゃん』の「ヘンなおじさん」といえば、軽食&喫茶「リアス」の隅でいつも寡黙に琥珀を磨いている「勉さん(塩見三省)」だろう。アキ(のん/能年玲奈)が上京後、眠れぬ夜に数えていたのは、「勉さんがひとり……」だったし、春子が18歳で上京するとき、夏(宮本信子)が大漁旗を振って見送っていた姿を、春子本人は気づず、目撃していたのも勉さんだった。夏の若い頃の思い出を知っているのも、勉さんだ。勉さんの場合、何しろ寡黙な性格ゆえに、直接ヒロインらに働きかけるわけではないが、天野家三世代のマーメイドを見守ってきたキーパーソンだった。
『ゲゲゲの女房』の場合は、ヒロイン・布美枝(松下奈緒)にとっての義父であり、茂(向井理)の父・イトツ(胃が突出して強いことから/風間杜夫)が「ヘンなおじさん」にあたるだろう。高学歴で、インテリで、映画や芝居などの教養も豊か。と聞くとカッコいいが、その実、食い意地が張っていて、笑い話が大好きで、事業に失敗するなど経済力がなく、「かかあでんか」で妻の尻に敷かれつつも、飄々としているところが、なんとも魅力的だった。茂の創作活動に大きな影響を与えた人物でもある。
そんな父の影響を受けた『ゲゲゲの女房』の茂を演じた向井理が、『とと姉ちゃん』では風来坊のトラブルメーカーのおじ・鉄郎を演じていたのも、面白いご縁だろう。
『まんぷく』では、家計が苦しい時期にヒロイン・福子(安藤サクラ)を雇ってくれていた、変な英語を使う「パーラー白薔薇」の店主・アキラ(加藤雅也)も、こってり風味のお人好し&お笑い担当のへんなおじさんだった。
そして、最もキレ味があった「へんなおじさん」といえば、『半分、青い。』で豊川悦治が演じた、サングラス+ロン毛の変人天才少女漫画家・秋風羽織だろう。賛否両論あった同作において、ヒロイン・鈴愛(永野芽衣)の漫画の師匠である秋風は、子どものようなピュアな感性と繊細さ、奔放さ、父性を感じさせるあたたかさをあわせもち、同作で最も愛されたキャラの一人だった。
『スカーレット』のジョージ富士川もまた、芸術家という職業柄や派手な容姿を含め、秋風タイプなのかと最初は思っていた。ところが、放送が始まってみると、なかなか出てこない。なぜなら、ヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)は中学卒業後、大阪の「荒木荘」で女中として働き、陶芸の道へ進むのはまだ先のことだったから。
いよいよ初登場となったのは、第28~29話。サイン会に行った喜美子が美術学校に通おうと思っていることを話すと、「そこ、僕が特別講師を頼まれたところや。ほな、また、お会いできますね。基本を学ぶことは大事なことやで。土台がしっかりして、初めて自由になれる」と語り、運命的な出会いを感じさせた。ところが、喜美子はそのまま信楽に帰ることになり、美術学校を断念。たった2話の登場となる。
再会するのは、第78話。喜美子が既婚で子持ちになってからだ。このときは、信楽での実演会にジョージ富士川が訪れたものの、息子の武志が熱を出したために、喜美子は行けず、夫・八郎(松下洸平)が頼み込んで川原家に来てもらったのだった。即興の創作実演に刺激を受けた八郎は、作陶に没頭。後に金賞を受賞する。また、喜美子もまた、父の死の悲しみを乗り越えて、作品を生もうとするようになる。
さらに久しぶりの再登場は、第93話。東京に行っていた八郎が偶然再会したことで、連れてくるのだが、そこでこんな発言をする。
「いつもな、もうこれで終わりにしよう思うねん。これ作ったら終わり! これが最後! これでしまいやぁ! って。それが……また沸いてくんねん、作品が完成した途端、次の思いがまたカァ~ッと! ここ(胸)が!」
これまでの「朝ドラのヘンなおじさん」たちは、ヒロインにとっての癒しや安らぎであったり、自由気ままな振る舞いで笑いを提供してくれる存在だったり、ムードメーカーだったり、ときには「妖精」的なピュア担当であったりした。しかし、ジョージ富士川の場合は、従来のヘンなおじさんたちに比べ、はるかに出番が少なく、ピンポイントの出演となっている。
とはいえ、ピンポイントの出演にもかかわらず、序盤よりも年齢を重ねたためか、ややスローテンポのしゃべりになっている一方で、派手さはさらに増し、情熱も衰えていない様子が明らかにわかるのは、非常に芸が細かいと感心させられる。
そして、彼が登場するのは、いつも何かしら煮詰まったときやエネルギーを内に溜め込んでいるとき。八郎にとっては、金賞をとる創作意欲のきっかけを与えてくれた一方で、地元の土に執着させ、さらなる再会で、彼の「情熱」に共感する喜美子と自身の違いを再確認させるきっかけになってしまっていないだろうか。
また、喜美子には幾度となく消えそうになる情熱に火をつけ、ときにはそれが自身の火に焼かれそうになる苦しみにもつながっている。
最初は、これまでの定番のヘンなおじさんの一つだと思ったし、決めゼリフ「自由は不自由やでェ~」も朝ドラ発の流行語を狙ったものかと思った。しかし、その存在も決めゼリフも、実は陽と陰、正と負の両方向に引っ張る強いエネルギーを持つものなのだと、ここにきて感じている。
(田幸和歌子)
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