朝ドラ『エール』(NHK総合)にて、古山裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)夫妻の愛娘役として登場を果たした古川琴音。際立った個性を武器として持ちながら、作品世界に自然に溶け込むことができるのが彼女の大きな魅力だ。果たしてこれから古川は、本作に何をもたらすのだろうか?
【写真】森七菜とは『恋あた』でルームメイト役で共演も
主人公(やヒロイン)はもちろんのこと、その“子ども役”にも注目が集まるのが朝ドラというもの。前作『スカーレット』(2019年~2020年/NHK総合)では、伊藤健太郎のポジションがそれにあたった。女性陶芸家・川原喜美子(戸田恵梨香)と十代田八郎(松下洸平)は、恋に落ち、夫婦に。彼らはたったひとりの息子である武志(伊藤健太郎)をもうけるが、のちに離れ離れになる。ところが、息子・武志がいることで、ふたりの交流は絶えることはなかった。物語の展開としてはひじょうに重苦しいものとなったが、難病に侵される武志を演じられるのは、それ相応の実力者でなければならなかったはず。ストーリー展開が読めてくるのに従って、この役に伊藤が配されたことに強く納得したものだった。
今作『エール』で古川が演じる古山華は、父である裕一と母の音や、周囲の人々たちから、愛情をたっぷり受けて育った存在だ。この華の幼少期時代を演じていた田中乃愛、根本真陽ら子役たちも、本作に明るさを与えていたように思う。華は『エール』において、癒しの存在である。
そんな華は、時代の大きなうねりとともにいつの間にか大きくなり、演者は古川へとバトンタッチ。それまでの展開が戦時下という重々しい放送回がつづいていただけに、彼女に大きくフォーカスすることはなく、かなり自然なかたちでの登場となった。物語上の設定があるため、演出面での配慮もあるのだろうが、この自然なフィット感が素晴らしいものだと感じる。筆者個人的に、古川はかなり強い個性を持つ俳優だと思っていたからだ。
今作で古川の存在を認識したという方は少なくないだろう。それもそのはず。そもそも彼女の俳優としてのキャリアはまだひじょうに短い。しかし、知る人ぞ知る俳優であることも間違いない。キャリアは短いものの、その出演作は、けっして少なくない。
昨年は、門脇麦、成田凌、玉城ティナ、村上虹郎といった若手俳優らとともに肩を並べた『チワワちゃん』の公開にはじまり、“オーディション組”として役を勝ち取って出演を果たした『十二人の死にたい子どもたち』では、杉咲花、新田真剣佑らと共演。これからの映画界を背負っていくであろう俳優たちとともに、“演技合戦”を繰り広げた。特に後者では、ゴスロリファッションに身を包み、その性格もインパクト大な人物を演じた。この2作品における古川の変貌ぶりに、同一人物であるとはしばらく気がつかなかったほどである。古川は場(作品や自身の立ち位置)に応じて、自身の個性を自在に変形させられる俳優なのだと思う。つづけて公開された『21世紀の女の子』内の一編『回転てん子とどりーむ母ちゃん』でも、彼女の存在は程よいアクセントとなっていたことが記憶に新しい。
今年は、注目の4人の若手監督が連作した長編映画『蒲田前奏曲』の一編で主演を務め、 佐藤快磨監督の商業デビュー作である『泣く子はいねぇが』でも顔を見せる。古川はいま、さまざまな作品に必要とされ、実際に私たちが目にする機会も増えてきている俳優なのだ。公開が来年に延期となってしまったが、『街の上で』ではカルテット・ヒロインのひとりを務めている。下北沢の街に自然と佇む彼女の姿を期待して待ってほしいところだ。
先述したが、古川はとても強い個性を持つ俳優である。その声質も、発声の仕方においても、彼女にしかない何か独特なものが感じられ、一度耳にするとクセになり、どうにも忘れられない。たったひとつのセリフを発しただけで観客の印象に残る俳優というのは貴重な存在だ。それでいて、今作『エール』のように自然と作品に馴染むことも彼女はできる。古川を目にする機会はますます増えるに違いない。一方、はじまったばかりの『この恋あたためますか』(TBS系)では、ヒロイン(森七菜)のルームメイト・李思涵を好演中。漫画家志望の中国人という役どころだ。こちらの作品では、少しばかり個性を強めに押し出しているように感じる。森と古川の掛け合いも愉快で、作品のアクセントになっている。
やはり俳優には「個性」が重要だ。『エール』に成長した華ちゃんとして登場してきたものの、あくまで“古山家の華ちゃん”で収まっていた印象だが、どうやら思春期真っ只中なお年頃のようで、恋の予感も……。“戦後”に突入した『エール』で、何かしら物語が転換するきっかけをつくりそうである。
(折田侑駿)
外部リンク