日本相撲協会をおカネの面から見ると…(写真はイメージ)
後輩力士への暴行により、引退に追い込まれた元横綱・日馬富士。本人が引退したにもかかわらず、現在は日本相撲協会と貴乃花親方との対立がクローズアップされ、一連の騒動が収まる気配はありません。これはいわば、組織内の権力者同士の対立ですが、日本相撲協会とはそもそもどのような組織なのでしょうか。今回は、組織としての収入と、個人としての給与という面から考えてみたいと思います。
総資産400億円超、盤石の財政
過去の決算資料などを見ると、「公益財団法人」である日本相撲協会は、非常に優良な「法人」です。2016年度の収入は約122億円(興行、国技館のレンタル、広告収入など)、最終的な利益は約6億円、そして組織を構成する人員は約1000人です。さらに、現預金が55億円、法人の所有である両国国技館などを含む土地の価値が90億円などで、総資産は売り上げの3倍強の400億円を超え、財務的にも盤石と言えます。
人員1000人の内訳はざっと750人が力士、250人が運営側ですが、運営側の100人程度が「年寄」で一般的に「親方」と呼ばれる方々、その他150人が行司や呼出、床山(髪)、事務スタッフなどの専門職です。この年寄が企業の「管理職」で、さらにその中から選ばれた10人の理事が「取締役」といえば分かりやすいかと思います。
前述通り、財務状況は良好ではありますが、筆者のように中小企業のコンサルティングをしている者からすると「売り上げのわりに人数が多い」ように感じます。この「売り上げと人数の関係」は、最近では「社員1人あたりの稼ぐ力」というランキングにもなっていますが、日本相撲協会の場合は122億円を1000人で割れば、1人あたり1220万円ということです。
財団法人と企業、そして業界も違うので一概には比較できませんが、この手のランキングで常に上位を占める総合商社などは社員1人あたり4億~5億円が当たり前で、1220万円は一般的な企業と比べても「かなり少ない」と言えます。つまり「売り上げのわりに人が多い」ということになります。
7割が年収100万円以下の「格差社会」
一方、個人の給与ですが、約70人いる十両以上の「関取」になれば、最低でも1400万円程度が保証されており、さらに番付を上げれば大関3000万円、横綱4500万円と急激に上昇します(その他、懸賞金やタニマチからの寄付などがある)。また、ある程度実績を残し、協会からも覚えがよい力士がなれるとされる親方も、無役で1200万円前後、理事長ともなれば2000万円近い年収があるため、上に行けば行くほど、高収入と引退後の生活が保障されることになります。
逆に約680人いる十両以下の場合、年収は100万円以下。伝統的に「部屋に住み込み」で、すべての生活の面倒を見てもらうことになりますので、このような「部屋住み」を多く抱える事情から、1人あたりの売り上げが低下しているものと思われます。
番付通りの「ピラミッド構造」の力士の収入、そのピラミッドの上に100人の「年寄(管理職)」という構造で、収入だけを見れば1000人中の約7割(680人)が100万円以下、2割弱(170人)の関取と年寄が1000万円超という極端な「格差社会」です。
また、野球やサッカーなどほかのプロスポーツでは、指導者は元選手が多い一方、管理や経営は基本的にはその道のプロが行いますが、相撲の場合「指導、管理、経営」すべてが元選手です。現場から理事長まで全員が「力士(元力士)」であり、「横綱は神」と持ち上げたところで上層部には「元」神がゴロゴロいて、常に先輩・後輩の関係を引きずり、引退後はその先輩の世話になるわけですから、完全な「村社会」です。
一般論として、このような組織は「変わりにくい」と言えます。組織の上部2割に富が集中し、かつその立場が長期にわたるため“暗黙の了解”でお互いの利害が調整されていきます。同様の現象は多くの組織で見られますが、一般企業であれば、あまりに内向きになると、その隙(すき)にライバル企業にシェアを奪われ業績が悪化します。それを機に「このままではいけない」という改革派が台頭し、結果として新陳代謝が促されるので、「皆仲間」というよりは、多少の内部対立がある方がある意味健全なのです。
八角理事長を代表とする「体制側」と、貴乃花親方を中心とする「改革派」。どちらが正しいのか筆者には分かりませんし、今まで穏当に運営してきた当事者たちからすれば、今回の騒動は迷惑以外の何ものでもないと思いますが、良し悪しは別にして、組織活性化のためには時に「対立」も必要なことかもしれません。
(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)