「時をかける女優」。そう呼びたい人たちがいます。年齢や時代を超えて、その設定に溶け込むことにたけた、そんな女優です。
清原果耶さんも、その一人。デビュー作のNHK連続テレビ小説「あさが来た」(2015年度下半期)では、中学2年生の若さで、ヒロインの波瑠さんと同い年の女中を演じました。実際の年齢は10歳違います。しかも、この役を30歳前後まで演じた後、実年齢が34歳も上の三宅弘城さん扮(ふん)する番頭と、かなりの年の差婚をするのです。
7月30日の「あさイチ」は、そんな清原さんと三宅さんがゲストでした。今となっては少女とおじさんにしか見えない2ショットに、よくぞ夫婦役に説得力を持たせていたものだと感心させられたものです。
「なつぞら」での徹底したサプライズ
そんな「時をかける女優」には、時代劇的なシチュエーションが似合います。「あさが来た」は幕末から明治の話でしたし、わずか7回(うち2回は回想シーンと写真のみ)の出演で鮮烈な印象を残した「なつぞら」では、戦災でヒロインのなつ(広瀬すずさん)と生き別れた妹の役でした。芸者の置き屋に拾われ、やがて良家への嫁入りが決まり、その妨げになりかねない孤児という過去と縁を切るために、姉とも会わずに姿を消すという難しい役どころです。
制作側は、この配役を徹底したサプライズにしました。事前告知はせず、初登場回(土曜)は後ろ姿だけを映し、オープニングでのキャスト紹介にも彼女の名前は無し。一体誰だろうと思わせておいて、日曜をまたぐ形で本格的な登場となりました。普通、ここまでハードルを上げるのは勇気が要るものですが、制作側は、よほど彼女の演技に手応えがあったのでしょう。
実際、SNSでは「泣き方のレベルが違う」「手紙を読む声だけで分かる演技力」「あれほどの複雑な感情を表情だけで見せてくる」「とんでもない怪物女優」といった賛辞の嵐が。再登場やスピンオフドラマへの出演を希望する声も上がっています。
こうした「時をかける女優」を特に重宝しているのがNHKです。7月26日には主演時代劇「蛍草 菜々の剣」(BSプレミアム)がスタートしました。冤罪(えんざい)で切腹させられた父の無念を晴らすため、女中奉公をしながらあだ討ちをしようとする物語です。
また、8月8日には特集ドラマ「マンゴーの樹の下で~ルソン島、戦火の約束~」の戦時パートで主役を務めます。平成パートの主役は、大女優・岸惠子さん。このヒロインリレーは、清原さんへの信頼の証しでしょう。さらに、10日(BS1は8日)に放送される「アニメ 大好きだったあなたへ~ヒバクシャからの手紙~」では、主人公の声を担当します。
もちろん、他局だって放っておくはずがありません。昨年の新春に放送された長寿時代劇「必殺仕事人」(テレビ朝日系)では、ゲストヒロインに起用されました。家の貧しさゆえに悪の手下になり、自爆攻撃をしようとして失敗。元締めの側近によって爆殺されるという薄幸な役です。
もう一人の「時をかける女優」
さて「時をかける女優」といえば、黒島結菜さんもその一人でしょう。「アシガール」(2017年、NHK)や「時をかける少女」(2016年、日本テレビ系)といったタイムリープもののドラマにも主演していますし、朝ドラや大河、あるいは戦争をテーマにしたドラマ、映画にもしばしば出演しています。
ただ、こちらは時代設定に溶け込むというより、現代的なパワーをその設定に吹き込むような役が目立ちます。大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」での村田富江役もそうでした。どちらがいいということではなく、黒島さんは動的な魅力、清原さんは静的な魅力を、作品にもたらす女優といえます。
とはいえ、清原さんも特に古風でおとなしい女の子というわけではなさそうです。ダンスやカラオケが大好きで、専属モデルを務める雑誌「Seventeen」では、今どきのオシャレが似合う17歳の姿を見せてくれています。ドラマ「透明なゆりかご」(2018年、NHK)をはじめとする、現代もののドラマや映画でも結果を出してきました。
実は大阪出身で、バラエティー「痛快TV スカッとジャパン」(フジテレビ系)では、お笑い担当なのが悩みの女子高校生を慣れ親しんだ関西弁で演じたこともあります。また、オロナミンCのCMで披露した、まさに「元気ハツラツ!」な歌声を思い出す人もいるでしょう。
もっとも、あのCMで歌ったのは昭和歌謡の「三百六十五歩のマーチ」(1968年)。こういうものにもハマるところが「時をかける女優」たるゆえんであり、世代が上の人たちにも好感を持たれる理由です。
そんな彼女と似たタイプの先輩女優がいます。宮崎あおいさんです。演技の質といい、時代劇的シチュエーションとの親和性といい、近いものを感じます。「あさが来た」で宮崎さんはヒロインの姉を演じ、清原さんは彼女を慕う設定でした。これも何かの縁でしょう。
そして、宮崎さんといえば、朝ドラでも大河でもヒロインを演じた数少ない女優です。このままいけば、いつか清原さんもそんな快挙を達成するのではと、未来への期待は膨らむばかりです。
作家・芸能評論家 宝泉薫
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