大学入学時の難易度が高い、つまり地頭がよい学生は、就活でどのような企業を志望し、就職しているのだろうか。また、企業はどのようなレベルの大学をターゲットとして採用活動を行い、実際にどんな学生を採用しているのだろうか。これを知るための指標として、大学通信は大学へのアンケート調査で収集している企業別就職者数と、大学入学時の偏差値を組み合わせて、「企業入社難易度」を算出した。業種ごとに入るのが難しい企業をランキングし、併せてその業種にどの大学が強いのかを見ていく。今回は、石油・窯業・繊維・紙編。大学通信の雫純平氏(情報調査・編集部)が解説する。
東レ、AGC、ブリヂストンが高位置に
石油・窯業・繊維・紙は、入社難易度が高い企業が多い。
1位は、2年連続でINPEX。2021年に国際石油開発帝石から社名変更した。変更前の20年も2位で、高い順位を維持している。
石油や天然ガスの開発、生産、供給を主業務とする。ウクライナ危機による原油高や、円安による販売単価の上昇により、22年12月期の連結営業利益は初めて1兆円を超える見込みだ。脱炭素社会に向けて地熱、太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーや水素事業の取り組みを強化している。
採用判明数は21人と少なく、複数の採用があったのは東京大(5人)、早稲田大(4人)、東京外国語大、東京工業大(各2人)のみだ。
2位は、素材メーカーの東レ。21年は5位だったが、採用判明数が40人以上減ったことで、入社難易度が上がった。創業時からの繊維事業以外に、航空機の構造材に使われる炭素繊維の市場を開拓し、世界シェアトップを占める。世界首位のポリエステルフィルム、水処理膜など幅広い製品がある。
採用大学は、京都大(19人)、早稲田大(13人)、大阪大(7人)、東京大(6人)、慶應義塾大(5人)などとなっている。
3位は、自動車用加工ガラスや建築用板ガラスなど、数多くの世界トップクラスの製品を持つAGC。採用大学は、慶應義塾大(11人)、東京工業大、大阪大(各10人)、東京大、早稲田大(各9人)などとなっている。
4位は、世界首位のタイヤメーカー、ブリヂストン。20年から21年にかけて採用判明数が129人から62人と半減し、入社難易度が上がったが、22年はさらに減少して55人となった。順位は21年より一つ下げた。
北米や国内でのタイヤの販売は好調で、21年12月期は7年ぶりに最高益になった。採用大学は、早稲田大(6人)、北海道大(4人)、東京大、慶應義塾大、東京理科大(各3人)などとなっている。
5位は、石油元売り最大手のENEOS。全国にグループ全体で約1万3300カ所のステーションを展開し、国内燃料油の販売シェアは約50%を占める。ウクライナ危機による原油価格の高騰により、22年3月期の連結決算では売上高が10兆円を超え、4期ぶりの最高益になった。
採用判明数は表の中で最多の142人だが、入社難易度は高い。採用大学は、早稲田大(19人)、慶應義塾大(15人)、大阪大(7人)、北海道大、東京大、東京工業大、同志社大(各6人)など。
石油元売りはいずれも資源高を受けて、22年3月期の純利益が過去最高になるなど、好業績が続いている。
石油元売り2位の出光興産は、7位。採用判明数はENEOSの半分以下の66人で、採用大学は東京工業大(6人)、九州大、東京理科大、早稲田大(各5人)、東北大、東京大(各4人)などとなっている。
上位10社中9社は昨年と同じ顔ぶれ
6位は、王子グループ。デジタル化の進展で紙の需要は縮小したが、インターネット通販の増加などで、段ボールの販売が伸びている。またコロナ禍から経済が回復し、東南アジアで段ボール販売が好調なことなどで、営業利益が伸びている。採用大学は、早稲田大(5人)、慶應義塾大、明治大(各4人)、北海道大、京都大(各3人)など。
製紙・パルプ製造では11位にレンゴー、14位に大王製紙、16位に日本製紙が入っている。
採用大学は、レンゴーが東京大、京都大、大阪大、神戸大、千葉工業大、立教大、関西大(各3人)など。大王製紙が愛媛大、関西大(各6人)、立命館大(5人)、明治大、関西学院大(各4人)など。日本製紙が法政大(4人)、東京農工大(3人)、北海道大、東京理科大、早稲田大(各2人)などとなっている。
8位は、帝人。繊維製品のほか、炭素繊維や樹脂などを扱うマテリアル事業や、医療用医薬品と在宅医療機器を中心に据えたヘルスケア事業などを展開する。採用大学は、同志社大(5人)、東京理科大(4人)、神戸大、東京都立大、立命館大(各3人)など。
9位は、日本ガイシ。自動車販売の回復を背景に、主力の排ガス浄化用セラミックスなどの販売が伸びている。採用大学は、名古屋大(22人)、名古屋工業大(12人)、静岡大(9人)、三重大(4人)など。名古屋市に本社があるため、採用大学にも地域性が色濃く表れている。
10位は、トイレなど衛生陶器で国内最大手のTOTO。採用大学は、同志社大(10人)、立命館大(8人)、九州大(7人)、長崎大、熊本大(各6人)など。福岡県北九州市に本社が所在するため、西日本、特に九州の大学からの採用が目立つ。
上位10社は、前年の13位から9位に上がった日本ガイシを除く9社が同じ顔触れだった。石油・窯業・繊維・紙は、入社難易度の大きな変動が起こりにくい業種といえそうだ。
上位21社の採用数を大学別に集計すると、1位が早稲田大で68人、2位が慶應義塾大で51人だった。この並びは昨年と同じだが、昨年は早稲田大が103人で慶應義塾大が49人と倍以上の差がついていたので、両校の差は相当縮まったことになる。3位以下は、同志社大(50人)、名古屋大(49人)、大阪大(43人)、京都大(42人)、東京工業大(40人)、東京大(38人)、九州大、東京理科大(各34人)などが続く。
さらに業種ごとに見ていくと、石油は、早稲田大(28人)、慶應義塾大(18人)、東京大(15人)、東京工業大(14人)、東京理科大(11人)など。窯業は、名古屋大(38人)、名古屋工業大(23人)、東京工業大(21人)、慶應義塾大(20人)、大阪大、同志社大(各18人)など。
繊維は京都大(22人)、同志社大(17人)、早稲田大(16人)、神戸大、立命館大(各13人)など。紙は、明治大(11人)、関西大(10人)、早稲田大、立命館大(各8人)などとなっている。
(企業入社難易度の算出方法)
就職者数は、各大学へのアンケート調査と企業からのデータを使用した。未回答の大学は掲載していない。また、一部の大学は大学院修了者の人数を含んでいる。主要427社は、日経平均株価指数の採用銘柄に加え、会社規模や知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に大学通信が選定した。
難易度は、駿台予備学校・共通テスト模試(合格可能性80%)を使用した。全データから、2部・夜間主コース、医学部医学科、歯学部歯学科、私立大共通テスト利用入試を除いた難易度の平均を学部平均難易度とし、その平均値を各大学の平均難易度とした。ただし、共通テスト利用入試のみの私立大は共通テスト利用入試のデータを使用した。
企業難易度は、大学の平均難易度×その大学からの就職者数を企業ごとに合計し、その企業の就職者数の合計で割り算した。同じ難易度で順位が異なるのは、小数点第2位以下の違いによる。就職者判明数が9人以下の企業は掲載していない。
(大学通信 情報調査・編集部所属/雫 純平)