中学校や高校の先生は生徒のノートをどのように評価しているのでしょうか。求められているのは、板書を写すだけの受け身の学習ではなく、自ら工夫して学ぶこと。ポイントは、授業中の「気づき」をメモすることにあるようです。
板書を写すだけはNG
東京都内の社会科の先生たちの間でノート指導に定評のある文京区立音羽中学校の入子彰子先生は「ノート作りは、自主的に創意工夫した学習をするための第一歩」と話す。
入子先生が指導するノートのポイントはまず、1コマの授業で扱う1テーマを見開き2ページにまとめること。左ページには板書を写し、右ページは予習・復習のほか、先生の話や自分が感じたことをメモする=図。「板書を写すだけの受け身の学習ではなく、主体的に考えることで内容の理解が深まり、後で見返したときにも記憶がよみがえりやすい」と言う。
全員のノートを集めるのは1学期に2回ほどだが、授業の終わりに「見てほしい」とノートを持ってくる生徒で行列ができることもある。「先生に見てもらうことは一つの動機付けになるので、必ず見て目印のスタンプを押しています」と入子先生。個人のノートとは別にクラスで1冊の「授業発表ノート」を回し、回ってきた人がその日の授業をノートにまとめ、次の授業で発表する取り組みもしている。絵を描いたりカラフルにしたり、他の人のノートを見ることが自分のノートの工夫につながるのだという。
入子先生がノートを評価する際に重視しているのは持続性と工夫だ。通知表の評価にもつながる「ノート点」はA~Cの3段階で、板書がきちんと写してあればB(普通)、1回だけではなく毎時間自分で学習し、気づいたことのメモを取っていればAをつけている。基準は最初の授業で説明しているという。
字のうまさは評価には関係ないが「自分で読めないような殴り書きはダメ。後から読み返せるよう丁寧に」と助言する。読み書き障害のある生徒には、最初は「板書の赤字部分だけメモして」と伝えるという。「ノートの書き方のパターンを決めておけば、ほとんどの人が3年後にはある程度書けるようになります」
「気づき」は授業中にしか書けない
「東大合格生のノートはかならず美しい」などの著書があるフリーライターの太田あやさんが提言するのは「授業を再現するノート」。板書と先生の解説に加え、自分自身の「気づき」をメモしておくことが大事だという。気づきとは「心が動いたことです」と太田さん。「新しい発見や驚いたこと、『なぜ?』と感じたことなど浮かんだ言葉をそのまま書くといいですよ」。ノートの右端にメモ欄を作ったり、ふせんに書いてはりつけたりしてもいい。「板書を書ききれなかった場合は友達に見せてもらうこともできるけど、自分の気づきは授業中にしか書けない。分からなかったところに?マークをつけておくだけでも、見直すときに役立ちます」
後から見やすくするためにはテクニックも大事だ。ただし、「きれいに書くこと自体が目的になると意味がない。自分のために書くのだから自分が読めればいい」と話す。書く必要がないものは教科書のコピーをはるなどの工夫で、書くことを最低限にすることを勧める。
文具メーカーのコクヨと太田さんが、学習指導要領が変わる前の2018年に共同で実施した調査では、中学校の先生の78.2%、高校の先生の67.5%が生徒のノートを評価の一環として採点していた。「ノート点」は、まじめにやっているのにテストで点が取れない子への救済措置として使う先生もいたという。
一方、新しい学習指導要領をめぐる議論では、従来の学習指導要領の「関心・意欲・態度」の評価について「挙手の回数や毎時間ノートを取っているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭(ふっしょく)し切れていない」という指摘が出ている。太田さんは「学校や先生によってノート評価の基準がまちまち。学習指導要領が変わるのを機にノート評価をやめたという先生もいる」と指摘する。
新しい学習指導要領で求められている「主体的に学習に取り組む態度」とは「自分で勉強のPDCAサイクルを回すこと」だと、太田さんは考えている。そのためには「『定期テストで○点以上取る』などの目標を明確にするのがスタートライン。目標達成のためにやるべきところを分析するのが、ノートの役割だ」と強調する。
(EduA編集部 記者/葉山 梢)
(EduA編集部 副編集長/葉山 梢)