海上自衛隊は、「「そうりゅう」型潜水艦の後継である「たいげい」を建造している。海上自衛隊で最大の潜水艦たいげいは、全長84m、全幅9.1m、深さ10.4mでサイズ感でいうと、ボーイング747(ジャンボ)の胴体部分とほぼ同じだという。最新鋭潜水艦「たいげい」とはどんな潜水艦か。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
前回は海上自衛隊の最新鋭護衛艦「くまの」の進水をお伝えした。「くまの」は沿岸警備を行ないながら機雷戦を実行する能力を持つ。従来の護衛艦の仕事である対潜戦や対空戦、対水上戦などを行ないながら、掃海艦艇が担う対機雷戦をもカバーする新コンセプトの護衛艦として誕生した。島嶼防衛力を強化するためだ。「くまの」は今後、艤装工事や試験を行ない、2022年3月に就役する予定だ。
海自は「くまの」進水に先んじてもう一隻、重要装備を進水させている。
2020年10月14日、三菱重工業神戸造船所で海自の最新鋭潜水艦の命名・進水式が行なわれた。艦名は「たいげい」。漢字では「大鯨」と書き、文字どおり大きなクジラを意味している。平成29年(2017年)度の計画艦で、当時は3000トン型潜水艦などと呼称されていたものだ。その計画どおり排水量3000トンの潜水艦となり、現用の「おやしお」型や「そうりゅう」型を上回る海自最大の潜水艦となる。今後は艦内部の工事や性能試験を行ない、2022年3月に就役予定だ。「たいげい」は「そうりゅう」型の後継艦に位置付けられている。
潜水艦「たいげい」は全長84m、全幅9.1m、深さ10.4m。「そうりゅう」型とほぼ同じサイズで、深さが少し大きい。基準排水量は3000トンで、「そうりゅう」型の2950トンを50トン上回る。
ちなみに、海自潜水艦のサイズ、全長80数mとは大型旅客機の胴体の長さとほぼ同じだそうだ。そのボリューム感は、ボーイング747・ジャンボジェット機の胴体が海中を潜航しているイメージでいいと、「おやしお」型のある艦長が教えてくれたことがある。そして、この例え話をもって広島県呉市にある「海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)」へ行き、陸上展示された「あきしお」型潜水艦を丸ごと見上げると、潜水艦のサイズ感というものが理解できた。また、今回の進水式のように全体が見える機会も潜水艦のボリューム感のつかめるものだ。
潜水艦「たいげい」はディーゼル電気推進方式の通常動力型潜水艦だ。吸排気装置のシュノーケルを上げ、ディーゼル機関を回して発電する。電力はリチウムイオン蓄電池に蓄え、潜航中の動力として使う。軸出力は6000馬力だそうだ。
「そうりゅう」は非大気依存型推進(AIP:Air Independent Propulsion)方式で、スウェーデン・コックムス社が開発したスターリング機関を搭載した。エンジンは4基備えている。ケロシンと液体酸素を燃料として連続潜航時間を大幅に延伸させた。1番艦「そうりゅう」から10番艦「しょうりゅう」まではこの方式としたが、エンジンは巨大化したという。「おやしお」型とほぼ同じサイズのボディに大型機関を積んだことで艦内は狭くなり居住性が低下した。これを理由のひとつとして、11番艦「おうりゅう」、12番艦「とうりゅう」はAIP搭載をやめ、リチウムイオン蓄電池を電力源とした。スペックは低下したが水中運動性能は向上したという。AIPに使う液体酸素の使用性もシリーズ途中での非採用に影響したのではないだろうか。液体酸素は補給や基地での備蓄にも手間がかかる。一方で、リチウムイオン電池は性能が上がり、使い勝手も良いので「そうりゅう」シリーズは途中から鞍替えした。「たいげい」もその路線を踏襲したのではないかと想像する。
「たいげい」の乗員は約70名。海自は女性自衛官の潜水艦への配置制限を解除した。本艦では居住区に仕切りを設けて女性用寝室を確保し、シャワー室の通路にカーテンを設置したという。女性自衛官の乗務に対して工夫をしているようだ。
その他のトピックとしては、探知能力向上を狙ったソナーシステムは高性能版を搭載。魚雷防御システムも「そうりゅう」型8番艦「せきりゅう」で搭載して以来、装備しているという。X舵も継承している。
本艦は「たいげい」型の1番艦になる。後続の2番艦、3番艦も建造中だ。同型艦を1年に1隻のペースで、川崎重工と三菱重工が交互に作る。トータルで何隻の「たいげい」型を建造・就役させるかは未定だというが、海自には「潜水艦22隻体制」の防衛力整備計画がある。「たいげい」が2022年3月に就役すると、「そうりゅう」12隻、「おやしお」9隻と合わせて22隻の体制が整う。旧型の「おやしお」は順次退役していくから、それを補完する「たいげい」型はいきおい隻数を増やすことになる。あと7〜8隻は同型艦が作られていくはずだ。