日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は、陸上自衛隊の野外炊具である。野外炊具ってどんなものだろう?
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
野外炊具(やがいすいぐ)は名称通り、外で炊事を行なう機能を搭載した装備だ。1tトレーラー上に炊飯器6個と万能調理器を積載したものが基本的な構成となる。炊飯器と書いたが、ようは「かまど」を積んでいる。底部に熱源であるバーナーを内包した調理設備だ。トラックや小型四駆車などで牽引され、必要な場所へ移動できる。陸上自衛隊の各部隊に広く配備されており、各種の訓練や演習、災害派遣などで実働しているものだ。演習場などで温かい料理を作り、隊員の腹を満たす。災害にあった被災地では避難所などに展開して我々国民に食事を作ってくれることもある。頼れる存在だ。
野外炊具には歴代モデルがあって、初期型といえる「野外炊具1号」は焼き物以外のメニューを作ることができ、45分以内に200人分の炊事を行なうことができた。歩兵部隊でいう中隊規模の食事を一度に賄う能力がある。走行しながらの炊飯も可能だ。マルチスライサーである万能調理器も積んでいる。
しかし、1号のバーナーは手間がかかった。燃料はガソリンと灯油の混合方式で、この混合燃料を圧縮空気で送って燃焼させる。点火時は、針金の先端にボロ布を巻き付けて灯油に浸し、ライターで着火したものを種火とする。かまどの側面にある送気バルブを微調整しつつ、種火をバーナーに近づけ点火する。火をおこしてからも空気量と燃料量をつねに微調整しながら調理する。点火に手間がかかり、火加減も調理中ずっと見てやる必要があった。キャンプ道具でいう液体燃料式バーナーの「気難しいタイプ」の大型版といった感じか。
この気難しい部分を改良したのが「野外炊具1号(改)」だ。自動点火・消火機構・不着火と立ち消え防止機構を追加した。スイッチひとつで火が着き、その後の火加減調整の手間も要らず、安定して調理できるようになったのである。さらに、冷凍冷蔵機能や貯水機能、給排水機能、自動着火機能も搭載され機能性が高まった。調理の幅も広がり、炊飯や汁物のほか、焼く・煮る・炒める・揚げることが可能となった。45分以内に200人分(最大250人分)の主食と副食の調理が行なえる。
そして「野外炊具2号」、「野外炊具2号(改)」も開発された。2号は1号(改)のかまど部分を示し、約45分で50名分の食事を用意できる。ステンレス製の鍋を使用しているので、焼き物や炒め物は苦手といえば苦手。いきおい炊飯と煮物メニューが得意だ。2号(改)は、かまど部独立仕様の体裁は同じで、1号(改)と同様にバーナー各機能や冷凍冷蔵機能などが改良・追加されている。
古い炊具を使い続けている場合もあるが、減耗とそれにともなう更新もされ、現在の主力は1号(改)と2号(改)ということになる。ちなみに、野外炊具で炊いた白飯や豚汁、カレーなどはとても美味しい。高級食材使用というわけでもないが、大量に炊き上げるお米や料理はおのずと旨味を増すのだろう。調理担当者たちの必要な手間を惜しまない姿勢も関係している。
災害派遣でも多く投入される。避難所などで温かい食事を作り、被災者へ提供する生活支援のためだ。大型トラックなどで牽引され、学校や公園などに展開し、現地の自治体が用意した食材を使用して調理を行なう。自衛隊の食料を使うわけではないのだ。食材の用意とメニューの考案は自治体が担当する。
災害時に被災者の食を支えることのできる野外炊具や、仮設風呂の野外入浴セット、全自動洗濯機や乾燥機を備えた野外洗濯セット、清水を供給できる浄水セット、救急医療が施せる野外手術セット、そして大小の天幕(テント)などの器材(需品器材)を自衛隊は配備運用している。この「被災時に生活支援装備へ流用可能なシステム」に、自治体の備蓄食料や医療品、仮設トイレなど、災害用資器材を統合した兵站を用意することが、将来の大規模自然災害をしのいでいく手段になる。しかし、東日本大震災以上の被害想定のある自然災害に対しては、現状の資器材や兵站、救援力と組織力では足りないのではないか。システムや組織・体制にはこれらを上回るものが必要ではないだろうか。
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