映画『万引き家族』での好演が話題を呼び、NHK大河ドラマ『西郷どん』では鈴木亮平演じる西郷隆盛の息子役として出演した城 桧吏。「『万引き家族』を観たときから素晴らしい俳優さんだと思い、ぜひご一緒したかった」と村瀬 健プロデューサーから白羽の矢が当たり、今回演じることになったのが、映画『約束のネバーランド』のレイ。
原作の年齢設定から少し上がった15歳のレイを演じる城は、当時12~3歳。エマ役の浜辺美波、ノーマン役の板垣李光人とともに物語の中核を担う彼を、平川雄一朗監督はかなり厳しく演出したという。指導を受けることは多々、体力づくりのために山道を走ることもしばしば。それでも泣かずに、言われたことを実直に取り組み、何度も練習を重ねて壁を乗り越える姿は、まさに『約束のネバーランド』の子どもたちそのものだ。
取材・文 / とみたまい 撮影 / 増永彩子
役づくりの参考は『スタンド・バイ・ミー』

ーー 先ほど写真撮影の様子も見学させていただきましたが、レイを演じていたときのキリっとした感じとは違って、とてもやわらかい雰囲気をお持ちの方だなと思いました。
レイとは違う性格だと思います。レイはひとりで静かに本を読むようなクールな人ですが、僕は周りのみんなと一緒に遊ぶタイプで、どちらかと言えば“盛り上げる担当”です。
ーー 本作の出演が決まる前から原作を読んでいたとのことですが、レイという人物はどのように映りましたか?
色々な思いを秘めているけれど、いつもクールでかっこいいレイにすごく惹かれました。
ーー その「かっこいい」と思っていたレイを演じることになって……。
最初は本当にビックリしました。自分と違う性格なので、「どう演じたら良いだろうか?」と、いろいろ考えました。

ーー 自分と性格が違うとのことですが、一方で「ここはちょっとわかるな」と感じたところはありますか?
仲間思いのところはあると思います。何をするにも、結局は仲間がいなくちゃダメなのかなと思いますし、みんながいるから乗り越えられると思うので。そういうところはレイと一緒だと思います。
ーー スカしている感じですが、実はアツいところもレイは素敵ですね。
そうですね。普段はエマやノーマンにすら見せない姿を、最後のほうでは見せていたりするので、そのギャップがすごくいいなと思いましたし、感動しました。
ーー クランクイン前からリハーサルを重ねていたとのことですが。
まず、台本をいただいたときに平川(雄一朗)監督と一緒に読んでみて、役についていろいろと話した後、リハーサルが始まりました。ほかにも、監督から「これを観るように」と映画やドラマをいくつか教えていただいて、レイに一歩でも近づけるように、たくさん勉強しました。

ーー どんな作品をご覧になったのでしょうか?
『クローズ』や『スタンド・バイ・ミー』を観ました。とくに『スタンド・バイ・ミー』は、4人の子どもが旅に出る話なので、とても参考になりました。12歳の子どもだけど、ちょっと大人っぽいところがあったりするので、レイの雰囲気に近いのかなと思いました。
ーー たしかに、リバー・フェニックス演じるクリス・チェンバーズに少し重なるところがレイにはある気がします。
そうですね。クリスに似たイメージがあったので、レイの雰囲気をつかむために何度も観て勉強しました。『スタンド・バイ・ミー』は古い作品ですが、不思議な空気感があって、観ているだけでもすごく面白かったです。『クローズ』はキャラクターたちのクールな感じや、仲間の絆みたいなところを参考に観ていました。
難しかったけれど、一番自信があるのは“火をつけるシーン”

ーー 撮影時の城さんは12~3歳でしたが、15歳のレイを演じるにあたって監督からどんなことを要求されたのでしょうか?
エマ役の浜辺(美波)さんとノーマン役の(板垣)李光人くんは自分より年上ですが、レイは同い年の3人のなかでも少し大人のキャラクターなので、監督から「絶対に(浜辺さんと板垣さんに)負けるな。堂々といろ」と言われました。ほかにも、作中でレイがエマを「お前」と呼ぶように、普段から浜辺さんのことを「お前」って呼びなさいと言われて……。
ーー 普段から浜辺さんを「お前」と呼ぶことで、お芝居でも自然に出てくるようにと監督は狙ったのだと思いますが、実践するのは難しそうですね(笑)。
無理……でしたね(笑)。
ーー アニメ版のレイを参考にすることもありましたか?
ありました。漫画もですが、アニメのレイの表情もすごく良いので、演じるシーンと同じところをアニメで見返して、「レイはアニメではこういう顔をしてるのか。実写版ではどんな顔をしようかな?」と参考にしていました。
ーー とくに難しかったシーンはどこでしょうか?
予告編にもありますが、火をつけるシーンですね。それまで心に溜めていた感情をレイがすべて出すシーンで、アニメを観ていても「難しいシーンだな」と思いましたし、どう表現すればいいのか、監督と一緒にたくさん練習しました。そのシーンを撮る前日の晩は、緊張して眠れなかったというか……(笑)、ずーっと台本を見ていましたね。そのシーンのところに、自分なりに考えた“これまでのレイの気持ち”を全部書き込んでいたので。それを読んで何度も練習していたから、本番のときはスッと入りやすかったです。

ーー そのシーンは難しかった一方で、“一番自信があるシーン”にも挙げていらっしゃいますね。
はい。マッチに火をつけたあたりから、レイの優しさが現れてくるところが……自分で観てもすごく感動したので、あのシーンはとても良くできたかなと思いました。
ーー そうやってご自身のお芝居を「ここが良かった、ここは自信がある」ときちんと表現できるのってとても良いことだと思うのですが、現時点での“自分の強み”を挙げるとしたら?
う~ん、なんだろうなあ?(笑)セリフを覚えるのが早いところでしょうか。早くセリフを覚えられるから、そのぶん役の気持ちを考えるところに時間をさける。そういうところかなと思います。
ーー 浜辺さんが演じるエマ、板垣さんが演じるノーマンの印象はいかがでしたか?
浜辺さんが演じるエマは、自分より周りの子どもたちのことを優先して考えていて、本当に優しくて明るくて、勇気をもらえるキャラクターだなと思いました。李光人くんのノーマンは、念入りに考えてから言葉を発したり、冷静にみんなをまとめることができる、すごくかっこいいキャラクターだなと思いました。

ーー 北川景子さんが演じるイザベラとのシーンも多かったと思いますが、北川さんから学んだことはありますか?
ひとつのセリフに対して色々な案を出して、テイクごとに表情を変えられていたんですよね。そういった北川さんを見ながら、ひとつのセリフにどんな顔の表現ができるかを考えてみようと思いました。最初のほうは難しかったですけど、顔の表現の仕方を監督からもいろいろ教わって……「眉毛を使え」とか(笑)。そうしていくうちに、その場の状況によって、少しずつ顔の表現を変えることができるようになりました。
ーー レイを演じたことで、役者としていろいろと得るものがあったようですね。
いま言ったような“顔の表現の仕方”もそうですし、ほかの作品を参考にしながら、自分が演じる役についてより深く考えることだったり。本当に多くのことを学びました。すごく楽しかったですし、レイの気持ちをたくさん考えることができたんじゃないかと思います。
李光人くんと一緒だったから、壁を乗り越えられた

ーー 撮影中は監督からかなりしごかれたそうで。『約束のネバーランド』でレイを演じることは、城さんにとって大きな壁だったと思います。城さんはそういった壁をどのように乗り越えますか?
アニメを観たり、監督にアドバイスをもらったり、自分で練習したり(笑)。そうやって長い期間練習しているなかで、「少しずつ成長していってるよ」と声をかけていただくこともあって、それがすごく嬉しかったんです。そうして「もっと練習しよう」とたくさん練習して、少しずつ壁を登っていって、終わったときには乗り越えられていたという感じですね。でも今度は、アフレコという新たな壁ができて(笑)、それをまた少しずつ登っていって乗り越えて。そうやってコツコツと努力を積み重ねて、頑張って練習するのみ……です。
ーー 現在14歳の城さん。役者としての現時点での目標を教えてください。
面白い人物、怖い人物、何を考えているのかわからない人物など、色々なキャラクターを演じてみたいと思います。どんな役でも思い通りにできる、沢山の顔を持った役者や、それぞれの作品に合った、作品ごとに違う表現ができる役者が理想像です。

ーー そうなるために、普段の生活で意識していることはありますか?
うちの家族は本当にテレビが好きで、一日中テレビがついているんです。ドラマもよく流れているので、出演されている方たちの演技を見て、「ここはこういう顔をするんだ。自分だったらどんな顔をするかな?」と考えたりしています。
ーー たくさんお話しいただき、ありがとうございました! この後、板垣さんにお話を伺うのですが、城さんから板垣さんへメッセージをいただけますか?
撮影の長い期間、本当に楽しくて……李光人くんと一緒だったから、いろんな壁を乗り越えられたんだと思います。監督から「李光人には負けるな。ノーマンには負けるな」とも言われていたので、少しライバル心みたいなものも抱きながら一緒に頑張ってきて、本当にいい作品ができたので良かったと思っています。
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社 ©2020 映画「約束のネバーランド」製作委員会