「生まれてきてよかった」難病・顔面動静脈奇形の河除静香さん 見た目の悩みを乗り越え“この顔だからこそできること”
顔に血管の塊ができるという生まれつきの難病を抱える富山県南砺市の河除静香(かわよけ・しずか)さん。過去のつらい経験や見た目の悩みを乗り越え「この顔だからこそできること」があると今を生きる彼女を取材しました。
悪魔(一人芝居):「私は生まれつき、顔が病気で変形している」「私のような見た目のものにとって、この世は、生きづらい」
河除静香さん、48歳。顔面動静脈奇形という病気で、生まれつき鼻と口が変形しています。
同級生(一人芝居):「君は、人間じゃなくてバ・ケ・モ・ノなんだからな!はははは」
主人公:「化け物?私には人として生きる権利すらないというのか。私は人間ではないのか?」
河除さんは9年前から、自らを題材にした自作の一人芝居を演じています。
物心ついた頃から、生きづらさ感じながら…
河除さんと同じように、顔を中心とした「見た目」に悩みを抱える人は全国に100万人以上いるといわれていて、河除さんはこうした芝居を通して見た目問題を考える活動を行っています。
1975年、砺波市庄川町で生まれた河除さん。生まれつき鼻の奥に毛細血管が絡まってできた塊があり、頻繁に鼻血が出たり、大量出血で救急車で運ばれたことも…。
これまで40回以上、手術を繰り返してきました。今も完治はしていません。
河除静香さん(講演):「この顔のせいで、いじめられ、虐げられている」
物心がついたころから、はっきりと、差別や生きづらさを感じてきたといいます。
一番いじめてきた男の子が「会いたい」と…
河除静香さん:「保育園のときは仲間外れとかも多かったし『目つぶっとって』って言われて連れていかれて『目開けていいよ』って言われて開けたら、下に誰かの吐いたゲボみたいながあって、その上に立たされとって…。当時のあだ名は『アヒルのガーコ』。フォークダンスで手をつないでくれる子は、一人もいませんでした。
河除静香さん:「いじめで自分が死にたいと思ったことはないけど、とにかく相手が憎くて、ほんとに1日1日乗り越えて耐えるしかない。この感情は誰にも言えなかった」
河除さんが抱いた「負の感情」は、演目「悪魔」でもありありと描かれています。
悪魔:「俺は悪魔だ!お前の心が俺を呼んだのだ」「俺がやつに復讐をしてやろう」
主人公:「あぁ…見たい。やつが苦しみ、悶えるさまを。憎い!私のことを化け物だと罵ったやつが」
しかし、悪魔と契約してから月日が流れ、自分をいじめた同級生から「会いたい」と連絡がー
同級生:「きょうは君に謝りたいことがあって、来てもらった」
主人公:「…謝る?」
このシーンは河除さんの実話がモチーフです。中学校卒業から5年経って迎えた成人式。河除さんを一番いじめていた男の子が謝ってきたのです。
同級生:「君をひどい言葉で傷つけた。今さらいくら詫びても足りないだろうが、本当にすまなかった…」
河除静香さん:「通路でパタッとあって、本当に開口一番『いじめてごめんな』ってぱっと言われて、私もなんかすぐに『気にしてないよ、もう気にしてないよ』みたいな感じで言えて…。『ごめん』っていう言葉はすごく、人間関係を修復してくれる強い言葉だなぁと…」
心から笑える自分に…、そして2児の母へ
少しずつ前を向けるようになった河除さんが25歳のとき、人生を大きく変える出会いがー。
河除静香さん(講演会):「『ジロジロみられてつらいなら、俺が着ぐるみを着て隣を歩く!』き、着ぐるみ?とてもうれしかったです」
同じ職場で出会った4歳上の悟さんと結婚。ことしで結婚23年目です。
河除静香さん:「結婚したときに見た目問題とかそういうような言葉もなかったし、本当に人対人としてフラットではあったかなと…」
夫 悟さん:「見た目というか外見自体はそんな気にはならなかった。あぁこういう病気もあるんかぁ、でも今普通に生活できているから、それはそれでありかぁみたいな感じですかね」
見た目を全く気にしない悟さんに、ありのままでいられたという河除さん。もともと明るい性格でしたが、心から笑えるようになったといいます。いまでは2児の母です。
『この顔に生まれた』からこその経験…
病状が悪化して、手術したときにはこんなエピソードも…。
夫 悟さん:「ICUでいろんなもん繋がれて、動けん状態で『どうやぁ、大丈夫かぁ』って言ったら、こう(かとちゃんぺのポーズ 笑)」
河除静香さん:「よう覚えとるね(笑)」
夫 悟さん:「あ、大丈夫だぁって。面白いやつですわ」
河除静香さん:「まあ、山あり谷ありです。山あり谷ありだけど、生まれてきてよかったとは思いますね」
いまも、決してつらさがなくなったわけではありません。でも、自分だからこそできる表現で…。
河除さんは堂々と生きています。
主人公:「私の心は、いまとても晴れやかだ」
観客:「主人公の心境の変化とかもすごく間近で見て、もう涙しそうになりました」
観客:「ここまでの考えになるまでに、どんだけの葛藤があったのかなって思って」
観客:「もちろん共感もしたけれど、共感っていうより気づかされたことがたくさんあった。会えてよかったです」
河除静香さん:「いろんな人に出会えて、それがすごく楽しくもあり、いろんな経験もできる。それはこの顔に生まれたからでもあるかなと思います。(記者:人生楽しいですか?)そうです、楽しいですね、はははは」
河除さんには、まだやりたいことがたくさんあります。その一つが、去年の10月から砺波市で活動している劇団に入り、1人芝居にとどまらず「人と芝居をする」ことです。劇団の公演はことしの夏か秋ごろが目標だそうです。
このほかにも「自分の話の絵本をつくりたい」「孫の顔を見たい」など、とにかく夢にあふれています。100歳まで元気に生きたいと話す河除さん。
取材の最後に、河除さんは「本当は、こういったテーマの取材で取り上げられることが必要なくなるような、いろんな人がいて当たり前、その当たり前が受け入れられる社会になってほしい」と話していました。