「自虐する女」のあるある言動
「新入社員だー若いーお肌ツルツルー。ごめんね、こんなオバサンが隣の席でー」
「うちの代はかわいい子ぞろいなんだけど、ほかの子がかわいすぎるから、人事は私を入れてバランス調整したんじゃないかって言われてたんだよねー」
「あーあの企業は昔こういうやり取りがあったから特別対応なんだよね。年だけは無駄に食ってるから、こういうことだけ知ってるんだよねー」
「ありがとーなぐさめてくれて。でも結婚できないけどね!」
「自虐する女」とは、「日常会話や業務の会話に、自虐をぶちこんで笑いをとろうとする女」です。
自虐する女には2種類います。ひとつは「もう本当ブスすぎ」と言いつつキラキラ加工済みのジェニック★自撮り画像をSNSに上げて「かわいい!」「美人!」をもらわないとガチギレる「なんちゃって自虐女」。もうひとつは「本気で自虐しているガチ自虐女」。この2タイプは「自虐」する点は共通ですが、マインドは正反対です。今回は、よりわかりにくく対応に困る「ガチ自虐する女」について解説します。
自虐する女の多くは「恋人がおらず、結婚していない、アラサー以上の女性」です。彼女たちは、会話の中に「自虐につなげられる話題=自虐トリガー」を見つけるたびに、「私はパートナーがいない独身女」「結婚できない女」「年だけ食った女」といった自虐をぶっこみます。
彼女たちの自虐が発動する「自虐トリガー」は、いくつか種類があります。
・年齢:業界変遷の話題、顧客対応や業務ツールの歴史、新入社員や中途社員の年齢
・プライベート:休日の過ごし方、趣味、休暇の予定、恋人の話題
・結婚:結婚報告、結婚式や二次会の招待
最も多いのは「年齢を感じさせる話題」です。社内ツールの使い方、顧客対応がどうしてこうなったかの歴史的変遷など「昔からいるから知っている」と思わせるような事柄を説明するときは「こんな昔のことを知ってる私はオバサンなんです!」という言葉で締めます。
社内イベントでも、自虐は絶好調。新入社員が入ってくる4月になると、「オバサンが講師でごめんね」と新入社員に言ったり、「肌ツヤを新入社員と比べてるでしょ!」などと言ったりしながら「新入社員と自分の年齢差」を嘆きます。若手の中途社員が入ってきた場合も同様です。
また、「今週の土日は何します?」「夏休みの予定は?」「趣味は?」といった、ちょっとした日常会話でも自虐トリガーが発動します。「恋人とデートする」「新婚旅行」などという「恋人関連の話題」が出たら、すぐに「自分の独り身」話につなげ、自分の趣味について聞かれれば「独り身が長すぎて、趣味もひとりでできるものなんだよねーひとり楽しすぎてーだから恋人できないのかなーあはは!」と、誰も聞いていないのに「おひとりさま」談話をします。同僚の結婚式や二次会が開かれようものなら、「結婚できる人・結婚できない自分」話が最高潮にうなります。
誰も彼女たちの恋人の有無や結婚ステータス、年齢について話そうとしていないのに、自虐する女は「年齢・プライベート・結婚」にまつわる話が出てきたらすぐ「自虐ネタ」をはじめ、まわりが笑ってくれることを期待します。周囲が一生懸命フォローしたり、「そんなこと言わないでくださいよー(笑)」と言っても、「いいのいいの!私ほんとうにオバサンだから!」とむしろイキイキするぐらいで、自虐はとどまるところを知りません。
自虐する女は、なぜこんな言動をする?
自虐する女は、なぜ「自分は非モテ非リアで結婚できない痛い女」アッピルをするのでしょうか?
それは、彼女たちが「人に見下されて傷つく前に自分で見下しておくことで、痛手レベルを下げ、自分を守ろうとしている」から。
「人に見下される前に自分を見下しておく」とは「人に殴られる前に自分で殴っておく」レベルの謎行動ですが、自虐する女にとってはちゃんとしたロジックがあります。
まず、自虐する女は「常識」「べき論」にこだわる人たちです。彼女たちにとって「女」は、「結婚適齢期になったら恋人がいるべきで、結婚しているべき」です。
かつ、彼女たちは、「女としてあるべき姿・常識」をクリアしていない女は見下されて陰口をたたかれるものだと考えています。自虐する女は、若いころは「えーなんであの人、30歳を過ぎてるのに結婚できてないの? やっぱり性格に問題があるからだよね」「結婚できない女性、だいたい結婚できない理由があるよね(笑)」など、「結婚していない女性」を無邪気に笑っていたタイプです。若いころに無邪気に笑っていられたのは「自分は普通だから問題ないし、常識どおりに結婚する」と思っていたから。しかし、いざ自分が同じ立場になると、「笑われる立場の自分」をうまく受け入れることができません。
「かつて若いころの自分が笑っていたように、周囲の人は自分のことを、問題があるから結婚できないやばい女と思っているにちがいない」
「こんな不完全な自分でいたくない。でも、自分ひとりで努力しても相手の同意がなければ、恋人はできないし、結婚もできない」
「やばい。みんなから笑われたくない。勘ちがいしている痛い女だと思われたくない」
こうしたモヤモヤの結果、「他人に笑われて見下される前に、自分で自分を笑って見下す」ソリューションが爆誕します。
彼女たちのロジックはこうです。
他人に笑われて見下されると傷つく→面と向かって言われなくても、陰で言われているにちがいない(なぜなら過去の自分がそうしていたから)→何を裏で言われるかがわからず、疑心暗鬼になってストレスフル→だったら自分で先手を打って「わかってる」アッピルをして、痛い女だと思われるのを回避しよう
これは「自分で自分に平手打ちをする」のと「他人に平手打ちをされる」のではどちらがよりストレスフルか、という設問に置き換えるとわかります。
自分で自分を平手打ちする場合、いつどれぐらいの強度でくるかがわかりますし、手加減も心の準備もできますから、痛みはあるにせよ、ダメージはそれほど強くありません。一方で、他人が平手打ちをしてくる場合は「いつどれぐらいの強度でくるか」がわからないため、待っている時間のストレスが高く、食らったときの精神ダメージも高くなります。
これと同じ理屈で、自虐する女は「他人に攻撃される前に自分で攻撃」します。「自分を攻撃して笑う」ことは、確かに痛いとはいえ、加減が効くし予想の範囲内ですみますから、他人に予想外のところから攻撃されるよりダメージが少なくてすみます。
自分がかつて自分と同じ境遇の人を笑っていたからこそ、彼女たちは笑われる前に自分で自分を笑おうとします。疑心暗鬼で心がすり減り、自信喪失している自虐する女にとって、自虐は自己防衛の手段です。
「結局、まわりのフォローを求めてるんでしょ? そうじゃないって言ってほしいんでしょ?」と周囲はまず考えますし、確かにその一面はあります。自信がない彼女たちにとって「そんなことないですよ」「ファンがいっぱいいますよ」といったフォローは大事な栄養源です。しかしそれよりも、彼女たちは「みっともない自分を自覚できている私は、無自覚の痛い人間よりもまし」と周囲に印象づけることのほうに重きを置いています。「周囲があれこれ悩まなくてすむようみずから笑いを提供する、おもてなしの心」と思っていることすらあります。
自虐する女=人に攻撃される前に自分を攻撃して自己防衛する女
「自虐する女」は、「他人に陰であれこれ言われる前に、自分のみっともない状態をネタ化することで、予想外のダメージから自分を守ろうとする女」です。
自虐する女は、周囲を攻撃するわけではないので、他人に危害を加える女よりはだいぶ平和なタイプですが、「自分で自分を攻撃している」ため、周囲はやはり気をつかいます。「またこの話題か」とうんざりしながらも効果がないフォローをし続けたり、自虐トリガーになるような話題を振らないように配慮したり、飲み会メンバーの選定に苦慮したりと、ストレスを抱えることになります。
自虐する女が社内や部署内にいたら、どうすればいいのでしょうか?
いちばんローコストなのは「あははーそんなことないですよー」と、誰もが考えつく「ぬるいフォロー」をオウムのように繰り返すことです。自虐する女の自虐に対して、9割の人はこの返事をしているといっても過言ではありません。
「そうですね! その年齢で結婚できない女ってやばいですね!(笑)」と彼女たちの自虐を全肯定しようものなら、彼女たちに計り知れないダメージを与える上に、自分が悪者になってしまいます。かといって「そんなことないです! 本当に素敵です! 結婚したいぐらいです!」と全否定するのもストレスです。1回や2回ぐらいならまだしも、自虐する女の自虐はエブリデイの日常です。やっていられません。
とはいえ、ぬるいフォローだけでは不十分な場合もあります。例えば直属の先輩でコミュニケーションを毎日とらなければならなかったり、2人体制でチームを組んでいたりしている、といったケースです。彼女たちは「ネタ」「笑い」として自虐を出してきているので、あえて冗談風に自虐に同調したり、「私も非リアすぎてやばいですよー」と仲間意識を出したりと、「ネタとツッコミ」「ネタにネタをかぶせる」形におさめれば、自虐する女は安心します。しかし、この「ネタにならないものをネタ化する」には、空気を読む技術、言葉を選び抜く技術、反射神経など、芸人レベルのコミュニケーションスキルが必要なので、一般ピーポーにはハードルが高めなところが難点です。
結局のところ、彼女たちの自信喪失は、「いい歳して結婚できない女=みっともなく、笑われる対象」という「見下しマインド」が原因です。まわりが苦心して「大丈夫だよ」「自信を持って」とメッセージを発するよりも、彼女たち自身が自分で自分を苦しめる「見下しマインド」「呪い」に気がつくことが根本解決につながります。それまでは、適宜フォローしつつ、疲れたら距離をとりつつ、たまに愚痴を聞いたりして、彼女たちが自分にOKを出せるまで、辛抱強く付き合っていけばよいでしょう。
(文:ぱぷりこ、イラスト:黒猫まな子)