●“夢”か“お金”か…バーテンダー時代に訪れた人生の岐路
チュ・ジョンヒョク、日本ドラマ初出演で日本語を猛勉強 誠実な姿勢を多部未華子が絶賛「本当に尊敬」
韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(22)などで知られる俳優のチュ・ジョンヒョクが、松たか子主演のTBS新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』1月2日21:00~ ※放送終了後、TVerにて見逃し配信中)で日本ドラマに初出演。「子供の頃から日本のドラマや映画が大好きで、いつか日本の作品に出たいというのは、自分の中でやりたいことの1つでした!」と喜びを口にする。日本語セリフにも初挑戦したジョンヒョクに、現場でのエピソードや、本作の内容にちなんだ人生における分岐点、将来の展望について話を聞いた。
TBS新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』でオ・ユンス役を演じるチュ・ジョンヒョク
ドラマ『海に眠るダイヤモンド』や映画『ラストマイル』などの野木亜紀子氏が脚本を手掛けた本作は、鎌倉に住む渋谷葉子(松たか子)、都子(多部未華子)、潮(松坂桃李)という全く性格の違う3姉弟が、それぞれにとっての“人生”の分岐点に遭遇し、様々な葛藤をしながらも、真の幸せを模索していく物語。ジョンヒョクが演じたのは、都子と出会うことになる、飲食関連の投資会社で働く青年オ・ユンスだ。ユンスは幼少期を日本で暮らしており、日本語が話せるという設定だ。
脚本を読んだ感想としては「普通の何気ない物語が静かに落ち着いた形で描かれるところがいいなと思いました。大きな事件は起きないけれど、それぞれが持っている葛藤みたいなものがとても心に届く作品だなと思いました」としみじみ語る。
本作で描かれるのは人生の分岐点だが、ジョンヒョクにとってのそれは、俳優の道へ進むと決断した時だったという。
「僕は20代まで全然違う仕事をしていて、それまで俳優になるなんて考えたこともなかったんです。実は大学の専攻が、ホテルのホスピタリティやマナーを学ぶ学部でした。子供の頃は、タイタニック号のような豪華客船に乗ってアテンドしたり、バーテンダーをしたりするのが夢でした。実際にそういう仕事をホテルやカフェでやっていましたし。ところがある時、プロモーションビデオに出演する機会を得て、そこから俳優業に興味を持ち始めました」
バーテンダーをやっていた時に転機が訪れたそうだ。
「韓国のバーでバーテンを2年くらいやっていたのですが、オーストラリアでバーをやらないかとスカウトをされました。その時、自分はやはり演技の道に進みたいと思っていたのですが、どうするのかをすごく悩み、父親にアドバイスを求めたんです。それは、俳優になるという“夢”を選ぶべきか、“お金”を選ぶべきかの決断でした。そこで父親が『夢を選べ』と言ってくれたので、今があります。まさにそれが、自分にとっての大きな転機でした」
●日本語セリフを猛特訓もアドリブだと「すごい!」しか言えず
そんな分岐点を経て、今、俳優として活躍しているジョンヒョク。海を渡り、日本ドラマ初出演となった本作の演出は、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(16)、『カルテット』(17)、映画『花束みたいな恋をした』(21)などで知られる土井裕泰氏で、撮影前にオンラインでミーティングをしたと言う。
「その時、演じるユンスのキャラクターについて、どのぐらい生きてきた人なのか、どんなことに重きを置いている人物なのか、たくさんお話をしましたが、すごく楽しかった記憶があります。ウィットに富んだ監督で、まるで友人と話しているように楽な状態で進めてくださいました。現場でもたくさん頼らせてもらいましたし、日本では美味しいものもいっぱいごちそうしてくれました。また、僕は土井監督の持っているユーモア感がすごく好きでした」
韓国と日本での演出の違いについて尋ねると「国の違いというよりも、やっぱり演出する監督によって違う気がしました。同じ韓国でも、監督によって全然違いますから。大きな違いは、通訳が必要か否かということでした」と回答。
ただ、現場で少し驚いたこともあったという。
「リハーサルをやってから、もう1回アングルを変えてまたリハーサルをするということが新鮮でしたが、それも楽しく撮影できました」
劇中では、流暢な日本語を話しているジョンヒョク。
「日本語については、撮影の1カ月ぐらい前から先生について勉強して準備をしました。韓国語と日本語は語順が一緒なので、馴染めるようにと頑張って練習しました。どうしても感情が入ると、セリフの1発目が上がっちゃったりするので、その塩梅が難しかったです。その辺も日本語のセリフを教えてくださる先生が毎回チェックしてくださいました」
とはいえ、一番大切にしたのは「演技の真実味」だったと明かす。
「日本語は音で覚えました。一生懸命練習したけど、日本に来て撮影に入った段階では、それを全部忘れるようにしたんです。そこにとらわれず、感情が入ってきた時は、自然な形で演じられるようにしたかったので。アドリブもしたくなるのですが、それはなかなかできなくて。みんなで食事をしながら笑ってしゃべるシーンでも、『すごい!』としか言えなくて、ずっと『すごい! すごい!』と言っていました(笑)」
●いつか是枝裕和監督や岩井俊二監督の作品に出演してみたい
日本での撮影は「日本で留学生活を送っているような気分でした」と振り返る。
「別の国でお友達ができるという感覚で、自分は距離感も感じずとても楽しくて、早い段階から親しくなれたかと思います。お芝居をしながら、相手役の方に対して、自分はちゃんと大丈夫かな? 邪魔になっていないかな? 上手くいってるかな? と、毎回確認しながら演じさせていただきました。でも、冗談を言ったりしながら、楽しく撮影をさせていただきました」
一番共演シーンが多かったのが、次女・都子役の多部未華子だ。
「多部さんとはお互いの文化を少しずつ共有しあえたと思いますが、特に私は多部さんに『日本語でこれはどう言うのですか?』と質問することが多かったです。『告白をする時に、多くの人はどんな気持ちになるんですか?』的な質問もしたし、とにかくたくさんお話をさせていただきました。また、みなさんが私の日本語をめちゃくちゃ褒めてくださり、『もともと日本語ができる方だと思っていました』とも言ってくださったので、より一層、浮足立ってしまいました」と笑顔を見せる。
本作はもとより、今や国籍に関係なく、世界中の俳優陣がボーダレスに様々な作品で共演する時代となったが、ジョンヒョクの今後の目標は「日本語の通訳なしで楽に会話ができるようになること」だと語る。
日本映画も大好きだそうで、好きな作品について尋ねると、是枝裕和監督作『万引き家族』(18)や『怪物』(23)、犬童一心監督作『ジョゼと虎と魚たち』(03)などを挙げる。また、岩井俊二監督作『Love Letter』(95)は子供の頃に観ていたそうで、いつか一緒に仕事をしてみたい監督についても、是枝監督や岩井監督などの名前を出しつつ「日本の監督をたくさん知っているわけじゃないのですが、僕を求めてくだされば、どんな役でもやらせていただきたいです」としっかりアピール。
今後の目標については「ヒール、悪役を演じてみたいです。今まで生きてきた中で、自分がしたことのない表情が出てくるのではないかと思いますし、自分でもびっくりするような発見ができそうなので。また、人間としていい俳優になりたいです。良いエネルギーを拡散できるような俳優になりたいです」と語った。
最後に『スロウトレイン』を楽しみにしている人たちへ「僕にとっては日本のドラマに初参加した作品ですが、本当にとてもワクワクして楽しめました。3人の姉弟の物語がとても良いですし、僕が演じた役や日本語のセリフもぜひ楽しみに観ていただければと」とメッセージを送った。
■チュ・ジョンヒョク
1991年7月27日生まれ、韓国出身の俳優。『ユミの細胞たち』(21~22)、『ハピネス』(21)を経て、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(22)の弁護士クォン・ミヌ役で人気を博す。その他の出演作に『D.P. -脱走兵追跡官-』(21)、『スパイモデル』(22)、『正直にお伝えします!?』(24)などがある。
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