女子日本代表が全カテゴリーを通じて初優勝
中国・蘭州市で開催した3人制バスケットボール「FIBA 3×3 U23 ワールドカップ2019」が10月7日に終了し、3×3女子U23日本代表は、決勝でロシア(U23女子FIBAランキング1位)を下して金メダルを獲得した。国際大会の優勝は、男女全カテゴリー(5人制 / 3人制問わず)を通して、史上初の快挙だった。
今大会の参加メンバーは以下の通り。
#3 馬瓜 ステファニー(トヨタ自動車アンテロープス)
#15 西岡 里紗 (三菱電機コアラーズ)
#23 山本 麻衣 (トヨタ自動車アンテロープス)
#32 永田 萌絵 (東京医療保健大学 4年)
大会方式は、4グループ(各5チーム)でグループラウンドを行い、各組上位2チームが決勝トーナメントに進出。世界ランキング12位の女子U23日本代表は、グループラウンドでウクライナ、フランス、イタリア、トルクメニスタンと同じプールDに入った。
グループラウンドで日本は初戦のトルクメニスタン戦に快勝すると、イタリアには21-20と1点差、そしてランキング上位のウクライナに20-11で快勝。フランスには敗れたものの、3勝1敗で2位通過し、決勝トーナメント進出を決めた。
決勝トーナメントは負けたら終わりの1発勝負。1回戦のオランダ、準決勝のベラルーシとランキング上位の国々を下し、迎えた決勝は前回大会と同じくロシアとの顔合わせ。前回はロシアに敗れて銀メダルとなったが、今回、日本は19-14で勝利し、世界のバスケシーンに歴史を残す初優勝を成し遂げた。
Ⓒマンティー・チダ
U23日本代表は、2018年に続いて出場した馬瓜と山本、ワールドカップ初出場の西岡と永田が優勝メンバーとなった。山本は39得点、全体のランキング3位で大会MVPに輝き、ワールドカップ初出場の永田が1点差の38得点をあげて、5位に飛び込んだのだ。
ワールドカップ初出場で初優勝と大活躍した永田。彼女は、東京医療保健大学4年生で現在キャプテンを務めている。これまで5人制ではアジア競技大会で日本代表を経験しているが、3人制では今年3月に3x3女子日本代表候補強化合宿で初招集され、4月に2019年度3x3バスケットボール女子日本代表第一次強化合宿に参加していた。
今大会は、関東大学女子バスケットボールリーグ戦の中断期間を利用して参加し、リーグ戦では前年に逃した優勝に向かって邁進している最中だった。そんな厳しいスケジュールの中でも、日本代表合宿の初招集からわずか半年足らずで、世界の頂点を掴んだ所までの心境やプロセスを彼女に伺った。
永田萌絵インタビュー 「3人制でオリンピック目指してみたらどうか?」と恩塚監督からのアドバイス
-3人制バスケの経験はこれまでありましたか?
永田萌絵選手(以下、永田選手):過去、合宿に2回呼んでいただきましたが、それだけです。昨年まで、3人制について意識をしたことはありませんでした。恩塚(亨)監督(東京医療保健大学)から「3人制でオリンピック目指してみたらどうか?」とアドバイスをいただいて、やってみたいと初めて思いました。
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-合宿に呼ばれたときの手応えはどうでしたか?
永田選手:すごく1対1がやりやすくて、自分のアタックが生きるなと。Wリーグの選手に対しては、1対1で勝てないこともあり、フィジカルの面で足りていないと痛感することもありました。
-5人制と3人制の笛の違い※1に時間はかかりました?
永田選手:結構時間かかりましたね。ワールドカップでアジャストできるようになりました。あまり対外試合を経験していなくて、スクリメージ※2でしかやってきていなかったので。
-対外試合未経験でワールドカップですか?
永田選手:はい(笑)。対外試合はワールドカップが初めてでした。
※1 笛の違い:3人制バスケはストリートバスケの3on3(スリーオンスリー)が発祥で、ファウルに対する基準が5人制バスケとは少し違う。チームファウルのルールはそれぞれ設けられているが、個人ファウルは5人制バスケの場合だと、5回を数えると退場になるが、3人制バスケの場合は個人加算がない。さらに、3人制バスケはハーフコートで行われるということもあり、よりスピーディーな展開を促すために、5人制ではファウルでコールされるような厳しい当たりも、3人制ではコールされないことがある。
※2 スクリメージ:1往復や2往復のゲームなどを行う際に用いることがある。チーム内の練習試合の意味もある。
3人制バスケ初の対外試合がワールドカップだった
3人制バスケではスクリメージでしか実戦を経験していない永田。突如3人制バスケ日本代表合宿のオファーが舞い込んでくる。
-合宿後、日本代表として改めて召集されたのはいつ頃ですか?
永田選手:9月の中頃でした。他の機会でも声をかけていただいたのですが、大学の試合と重なっていて参加することができませんでした。今回はリーグ戦の中断期間でしたので、参加できるかなと思いました。
-初の対外試合がワールドカップ。グループラウンドで同じプールのウクライナやフランスといったランキング上位とチームに関しては“上位チームだから”という意識があまり無かったということでしょうか?
永田選手:はい、意識はあまりしていなかったですし、情報もほとんどありませんでした。実際に試合をしながらアジャストしていました。ウクライナは3戦目でしたので、コートには慣れていました。
-グループラウンドを3勝1敗で通過し、決勝トーナメント進出で1発勝負となりますが、緊張感はグループラウンドと変わりましたか?
永田選手:緊張感はありましたね。負けたら終わるなと思ってプレーしていました。緊張していました。
-チームとして心掛けたことは?
永田選手:体格で負けているので、トランディションディフェンスの場面で、プレッシャーを掛け続け、ディフェンスの時にはコミュニケーションを図っていました。声を掛け合うというのは毎回意識していました。
Ⓒマンティー・チダ
-今回出場した4人で合わせたのは、今大会が初めてですか?
永田選手:初めてでした。
-大学のように、長い期間でチーム作りをする事とは対照的に、代表チームでは短い時間でチーム作りをしていかないといけなかったと思いますが不安はありましたか?
永田選手:ある程度、他の選手の得意なプレーを理解していたので、この選手はどのような時にボールが欲しいとか、どういう所が逆に苦手なのかを積極的に話をしていました。
-練習や合宿、試合中、様々な場面で会話をしていたのですね。
永田選手:結構、話をしていましたね。会話していくうちに噛み合ってきました。
-決勝トーナメントに入った頃は、どのタイミングで会話をするべきか、だいたい掴めていた感じですか?
永田選手:そうですね。他の3選手は私が初めてと分かってくれていたので、結構、気を使ってもらい、色々教えてもらえました。
あのタイミングでできるとチャレンジした「ビハインド・ザ・バック」
-決勝のロシア戦、FIBAのツイッターに掲載された動画でも話題になりました「ビハインド・ザ・バック※」、あれはコートでやると事前に決めていたのでしょうか?
永田選手:ロシア戦の前に、FIBAのツイッターでアメリカ男子代表選手が同じプレー(ビハインド・ザ・バック)をしている動画を携帯で見ていて、それをやってみたいと思い練習をしていました。実際、あのタイミングでやれると思っていました。
-うまくできれば、FIBAのSNSに掲載されたかも?(笑)
永田選手:それは思っていなかったです(笑)。でも、楽しかったです。
-世界一になって、周りから何か言われましたか?
永田選手:はい(笑)。結構、色んな方におめでとうと言っていただいて、みんな見てくださっていたのだなと思いました。
-恩塚監督からは?
永田選手:褒めていただきました。良く頑張ったねと。
-これから3人制の大会には出場してみたいですか?
永田選手:機会があれば出たいなと思います。プレミアやジャパンツアーなど、日本で試合をしてみたいです。まだ日本で試合をしたことがないので。
-今後の目標を教えてください。
永田選手:まずはオリンピック候補選手に呼んでいただけるようにすることです。しっかり東京オリンピックは目指していきたいですね。
Ⓒマンティー・チダ
【取材を終えて】
永田選手は、代表合宿に召集されてから本格的に3人制バスケを始めて、わずか半年で日本代表の一員として世界一まで昇り詰めた。永田選手の適応力ももちろんだが、何より彼女の適性を見極めていた恩塚監督の眼力にも驚かされた。女子は来年3月にオリンピック選考会を迎える。永田選手もそれまでに数多くの実戦を経験し、オリンピック候補選手として代表活動にも帯同し、自力でオリンピック出場をつかみ取ってもらいたい。
※ ビハインド・ザ・バック:バスケットボールにおけるドリブルテクニックの一つで、ドリブルしている状態でボールを自分の背中側から逆方向へ移動させ、逆の手に持ち替えて相手選手を突破する技。