京浜工業地帯が生んだヒップホップ・クルーBAD HOP。保育園の頃からの幼なじみで、元不良の8人組が、2018年の日本武道館、今年3月には横浜アリーナでライブを開催するまでに上りつめた。
KAWASAKI DREAMS
[左から]Yellow Pato:ジャケット ¥134,000、セットアップパンツ ¥74,000(ともに参考価格)〈MAGLIANO/ディプトリクス〉 シャツ ¥17,000〈NEEDLES/ネペンテス〉 Vingo:コート ¥110,000、パンツ ¥54,000〈ともにBED j.w. FORD/バースリー〉 シャツ ¥58,000(参考価格)〈MAGLIANO/ディプトリクス〉 Tiji Jojo:シャツ ¥46,500〈OAMC/エドストローム オフィス〉 パンツ ¥49,000〈sulvam/サルバム〉 靴 ¥78,000〈ADIEU×UNDERCOVER/エドストローム オフィス〉 T-Pablow:バスローブ ¥68,000〈Palm Angels/イーストランド〉 YZERR:ジャケット ¥134,000、セットアップパンツ ¥76,000〈ともにMAGLIANO/ディプトリクス〉 ブーツ ¥125,000〈GIUSEPPE ZANOTTI/ジュゼッペ ザノッティ ジャパン〉 Benjazzy:スーツ ¥131,000、シャツ ¥17,000、靴 参考商品〈すべてPOLO RALPH LAUREN/ラルフ ローレン〉 G-k.i.d:ジャケット ¥75,000、セットアップパンツ ¥49,000〈ともにsulvam/サルバム〉 シャツ ¥27,000〈ENGINEERED GARMENTS/エンジニアド ガーメンツ〉 靴 ¥102,000〈GIUSEPPE ZANOTTI/ジュゼッペ ザノッティ ジャパン〉 Bark:ジャケット ¥170,000、パンツ ¥140,000〈ともにsulvam/サルバム〉 その他すべて私物東京台東区・鶯谷駅前にある「ダンスホール新世紀」。今回の撮影は、映画『Shall we ダンス?』でも使われた、「昭和」の遺構ともいうべき施設で行われた。BAD HOPによく似合っている。筆者がそう思うのは、2年前の『GQ』の取材で訪問した彼らの本拠地、神奈川県川崎市南部の京浜工業地帯の一画にある池上町もまた、「昭和」の香り漂う、戦後の混沌を残した町だったから、かもしれない。
YZERR(ワイザー)とT-Pablow(ティー・パブロ)の双子の兄弟を中心に、Tiji Jojo(ティー・ジー・ジョジョ)、Benjazzy(ベンジャジー)、Yellow Pato(イエロー・パト)、G-k.i.d(ジー・キッド)、Vingo(ヴィンゴ)、Bark(バーク)の8人のラッパーからなるヒップホップ・クルー、BAD HOPは、全員が幼なじみの川崎の元不良少年で、何人かは警察に逮捕され、少年院を経験したりもしている。
そんな元不良少年たちがヒップホップに取り組み、2017年9月に初の全国流通アルバム『Mobb Life』をリリースすると、翌18年11月には武道館ライブを成功させた。2019年は全国5大都市Zeppツアーを敢行、さらにアメリカの豪華プロデューサーたちとコラボし、L.A.で制作した全6曲のEP『Lift Off』を11月に発表している。彼らにとっても夢のようなこのEPは、日本でヒップホップをもっと広めたいと考えたApple Musicが彼らのライブを見て実現したものだという。快進撃はさらに、2020年3月1日開催の横浜アリーナでの単独ライブ「BAD HOP WORLD」へと続く。友情、努力、勝利! 少年マンガの王道をいくような、サクセス・ストーリーである。
その成功の秘密はどこにあるのだろう?
ワイザー「会社に所属していないので、それが一番デカい理由なんだと思います。自分たちのペースでできる。だれにも縛られない。たとえば、自分たちは最初、無料でCD配ったりとか無料でライブやったりしたんです。売り上げのことを考えたら、普通の会社ではやらせてくれないんですけれど、自分たちは自分たちでお金出して自分たちで回収すればいいだけのことなので。あと、武道館も決まったのが、2カ月半前にたまたまキャンセルが出たんです。『武道館やりますか』って言われて。やったことのない規模だったんですけど、それをやれたのも、全部自分たちでやっているからだと思います」
ゴールを決めたらそこにシンプルに走ればいいだけのことなので、スピードも遅くないです
武道館
BAD HOPはアーティスト8人と、2人のスタッフの総勢10人で、ステージング(舞台構成全般)もやれば後ろに流す映像までつくっている。今回の取材も、ワイザー、ヴィンゴ、ベンジャジーの3人が事前に衣装や撮影のイメージについて『GQ』の編集部まで打ち合わせにやってきた。ふだん、スタイリストはつけていない。曲づくりからライブまで、「全部自分たちでやっている」のだ。
ワイザー「本質的なやり方ではあると思っています。本質的なやり方ってことは、無駄なことはやらない。逆算してゴールを決めて、ゴールを決めたらそこにシンプルに走ればいいだけのことなので、スピードも遅くないです。この見た目であったりとか、やりたいことをやるというか。僕たち、幼なじみなんです。幼稚園の頃とか保育園の頃からの仲間たちで成り上がっていくというストーリーを見るのが好きな人は、そこに賛同してくれてるんじゃないですかね」
パブロ「思い切りのよさとかが違うと思うんですよね。武道館やると言ったって、やはりみんなやっぱ思い切れないじゃないですか。自分たちも入ると思っていなかったので」
ワイザー「まさか3時間で(チケットが)売り切れるなんて」
パブロ「思ってなかった。でも、その思い切りのよさというか、そういう姿勢がやっぱ大事なんじゃないかと思います」
武道館ライブは背伸びしすぎた、みたいなところはあるんですか。赤字だったり?
パブロ「それはないですね。赤字ではなかったです。トントン、ちょっと黒字ぐらいです」
ワイザー「武道館って2日間やらないと儲からない。そういう場所って言われているんです」
Gキッド「しかも自分たちのステージのセットも武道館規模じゃないかっていうぐらい、けっこうお金かけてます」
ワイザー「自分たちのライブをお客さんたちが信用してきてくれるのは、ステージがすごいっていう、たぶん、そこなんです」
イエロー・パト「今回の横浜アリーナも制作会社と打ち合わせていくなかで、これだと東京ドーム規模だって、驚かれましたね」
ワイザー「新しいものだったり、ひとびとが経験したことのない感情だったり、体験したことのないこととかを、自分たちはお客さんに対して提供できるようにしたい、とは思い続けてますね、ライブも含めて。武道館も、23歳で武道館、自分たちでやりました、ってなったら、もっと若い子たちは、23歳でいけるんだったら20歳でやれてもおかしくないと思って、早くそういうステージを目指すかもしれませんし。自分たちはそういったことを少しでも塗り替えていくことによって、ほかのひとたちに可能性みたいなものを、自分たちの活動を通して広げられたらうれしいですね」
→【後編】へ続く
[左から]YZERR:ジャケット ¥192,000、パンツ ¥137,000〈ともにRick Owens/イーストランド〉 その他私物 Vingo:トップス 参考商品〈OAMC/エドストローム オフィス〉 その他私物 Bark:ジャケット ¥70,000〈BED j.w. FORD/バースリー〉 その他私物 G-k.i.d:ジャケット ¥87,000、パンツ ¥81,000〈ともにPalm Angels/イーストランド〉 その他私物BAD HOP
ヒップホップ・クルー
8人組ヒップホップ・クルー。アウトローな体験や壮絶な生い立ちを詰め込んだリリックに注目が集まるが、音楽性においても高い評価を受けている。2018年に武道館ライブをおこない、今年3月1日に横浜アリーナで「BAD HOP WORLD2020」を開催する。会員制のセレクトショップ「SUGATA」をオープンするなど活動は多岐にわたる。
Photos 山本雄生 Yuhki Yamamoto
Styling 服部昌孝 Masataka Hattori
Hair&Make-up 野田芽衣 Mei Noda
Words 今尾直樹 Naoki Imao