約30年に一度の土星の帰還が意味するものとは?占星術研究家・鏡リュウジさんと漫画家・鳥飼茜さんの「サターンリターン」対談~Vol.1~
みなさんは「サターンリターン」という言葉を聞いたことがありますか? 「あれ? それって漫画のタイトルじゃない? 」という人も、「占星術の言葉で聞いたことがあるかも」という人も、どちらも正解! 占星術では土星を「サターン」と呼び、約30年に一度出生時の星のもとに戻ってくる……この土星回帰のことを「サターンリターン」と言います。28~30歳ごろといえば、働く堅実女子の皆さんにも覚えがあるように恋に、仕事に、生き方に悩みが生じやすい時期でもあります。それらの悩みを土星が引き起こしているとしたら……?そして、この強い言葉を漫画のタイトルにしているのが、漫画家の鳥飼茜さん。現在、ビッグコミックスピリッツにて隔週で漫画『サターンリターン』を連載中です。そんな鳥飼さんと、占星術研究家の鏡リュウジさんに、この土星の帰還の意味についてお話を伺いました。
誰もが「時間」を見つめなおす時期=「サターンリターン」
左・漫画家の鳥飼茜さん。代表作に『先生の白い噓』など。右・占星術研究家の鏡リュウジさん。共著『サターン 土星の心理占星学』がある。
―早速ですが「サターンリターン」とは、いったい何なのでしょうか??
鏡リュウジさん(以下、鏡)「サターンリターン」って、土星回帰という意味なんです。
まず、占星術についてお話すると、占星術は昔の世界観なので、地球中心説なんです。例えば、7月上旬だったら蟹座の方に太陽があるように見えるんです。何座生まれというのは、太陽が地球から見て黄道のどこに位置するかで決まります。
ところが、実際の占星術は太陽だけではなくて、月や火星、水星などほかの天体も使っています。惑星はそれぞれサイクルが異なります。例えば月は28日で地球を一周しますし、一つの星座を2日半で動きます。火星だったら2年半、木星だったら12年。時計でいうと、いろんな速度の針があるイメージです。
本当はホロスコープという1枚の図表にするんですが、雑誌だとスペースが足りないので、太陽の位置で判断しています。これがよく目にする星座占いです。
目に見える惑星の中で一番動きが遅くて、地球を中心に一番外側の軌道に動いているのが土星(サターン)なんです。
そのスピードは、28年から30年くらい。だからどの人にとっても、生まれてから28、29年後には、土星が生まれたところの位置に戻ってくる。これが「サターンリターン」です。
鳥飼茜さん(以下、鳥飼)誰にでも起きることなんですね。
鏡)目に見える星で一番外側なので、土星というのは伝統的に悪い星と言われていたんです。土星のことを「サターン」と言いますが、これは悪魔のサタンと誤解されますが、サトゥルヌス(ローマ神話の農耕の神)からきています。
鳥飼)漫画「サターンリターン」のタイトルも、サタンと誤解されがちなんです
鏡)サトゥルヌスはギリシャ神話の時間の神・クロノスとも同一視されていて、時間を司る神様でもあったんです。人生の中での「時」、それを強く意識させられるのが誰でも28歳から29歳の頃の「サターンリターン」という時期になるんです。昔は寿命が短かったから、「サターンリターン」を何回も経験する人が少なかったんです。でも今、人生100年時代と言われているので、3回は経験しなければならない。
鳥飼)大変ですね(笑)
-鳥飼さんはその「サターンリターン」を漫画のタイトルにしていますが、それはどうしてですか?
『サターンリターン』(小学館刊・発売中)。表紙に書いてある長い文章をタイトルにしようとしたこともあるとか。
『サターンリターン』あらすじ…「30歳になるまでに死ぬ」学生時代にそう断言していた友人“アオイ”は、本当に死んでしまった。書けない小説家・加治理津子(かじりつこ)は、 担当編集の小出(こいで)と共に、 “アオイ”の死の真相に迫るーー。
鏡)漫画の中では一言も「サターンリターン」については、書いていないですよね。
鳥飼)「サターンリターン」という言葉を、漫画の中に出すか出さない問題というのはずっとあるんです。そこはまだ答えが出ていなくて……。
意味合いが伝わっていた方が読者の人にとっては「なんでこのタイトルにしたのだろう」って、わかりやすいし、より話も見えて来るかなと思うので。むしろ私の方が、今日は(サターンリターンという言葉の)本当の意味を知りたいと思ってきました(笑)。
もともと占星術に興味があって、星が持っている意味とかの知識はうっすら、かじる程度にしかないんですが……。私、本当に鏡先生が好きで、今日お会いできるのを楽しみにしていたんです。
昔、何かで見た雑誌に「サターンリターン」っていうコラムが載っていたんですよ。そのコラムを書いていた方が、誰だかわからないんです。でも、その「サターンリターン」っていう言葉がすごくかっこいいって思って、頭から離れなくて。
鏡)それ、僕じゃないですか?
鳥飼)ええ!?
鏡)「サターンリターン」という言葉を紹介したのって、僕が最初だと思うんですよ
(一同、どよめき!)
鏡)そこからその言葉が広がったので、それが90年代頃だと思うんですね
鳥飼)あっ!ちょうどその頃に読みました。いろいろな著名人の「サターンリターン」の出来事が書いてあったんです。
鏡)シェイクスピアやユングの人生上の大転機がちょうど「サターンリターン」の頃だったとか……。
鳥飼)それです!それ。今日、お会いできたの凄い!それで、ロックスターが27歳とか、28歳で死ぬことがあるじゃないですか。そういうことと、「サターンリターン」が関係あるのかないのか気になったんです。
大人になれてる?なりたくない?
若くして亡くなるロックスターは、大人になりたくないから
鳥飼)人間が27歳、28歳くらいの時に、一つ壁に向き合わざる得ないような出来事があるとしたら、自分の人生にもあったんです。
ロックスターを夢見てというと変なんですけれど、同じように「28歳くらいまでに自分は死ぬ」って言ってた友達がいて、その友達は本当に28歳の時に死んだんです。そういうことが実際にあって、自分の場合は、28歳は子どもができた年齢だったんです。ある意味では試練で、ある意味では幸福なことでしたね。でも、出産によってそれまでの人生をリセットされたというか、違うレーンに行くっていう感じがしたんです。
鏡)節目の年っていう感じですよね。
鳥飼)確かに、アラサーというか、その年代は悩みや葛藤が多いですよね。人によってはうまくシフトできなくなったりする時というのを、占星術的に表現しているのでしょうか。「サターンリターン」という言葉自体、占い好きな人は引っかかる人もいると思うんです。「サターンリターン」って、やっぱり気を付けた方がいいんですか?
鏡)怖い面ばかりを強調されると違うんですよ。
「すんなりとサターンリターンを乗り越えられる人もいるんですよ」と語る鏡さん。
1回目の「サターンリターン」は成人式?
鏡)現代の占星術では、1回目の「サターンリターン」は成人式なんですよね。精神的にも、肉体的にも大人ですよっていう意味合いを持つんです。20歳の時に成人式なんですけれど、まだ20歳の時は精神的に子供なところもあるので。
永遠に若くないことを意識し始める時期が、28歳からのこの時期なんです。
2回目のサターンリターンは、還暦ちょっと前ですから、今度は自分の経験を伝えていく立場になっていくんです。土星のサイクルは1周だとリターンなのですが、半周だとハーフリターン。
つまりハーフリターンは14,15歳。思春期のど真ん中なんですね。
鳥飼)14歳はよくキーワードになりますよね。
鏡)1周半だと44歳から45歳。中年期に差し掛かりますね。
鳥飼)なんだかそう考えると怖いですね(笑)。
鏡)上弦の月、下弦の月のように4つに割ってもいいんですね。そうすると、だいたい7~8年にそういう人生のギアチェンジが訪れるんです。
鳥飼)うわー、まさによくわかります!
鏡)さっき鳥飼さんが話していた話がそうで、死ぬっていうのは極端な例ですけれど、若いってことに固執している場合、大人になるのを恐れていると、大人になることを拒否してしまう。
鳥飼)すごいわかります……。
鏡)永遠の少年は神話の世界や漫画の世界にはいますが、現実世界では肉体を持っているから無理じゃないですか。サブカルの人が、中年期以降に鬱になるっていうのもありますよね。
鳥飼)(笑いながら)ありますねえ。なんでですか?
鏡)社会の中での責任から逃げ切ろうとしているけれど、逃げ切れないでしょ。だから、サブカルチャーの人は、中年期以降に鬱になりやすいんです。
鳥飼)あるあるすぎますね。
鏡)男性女性という性別は関係なく、「サターンリターン」の特徴は起こりますね。
鳥飼)この漫画の中の一つのテーマである「なんで亡くなっちゃったのか」が、鏡さんのお話を聞いていて、凄くピンときました。
「子どもでいたかったんだな」っていうのは、タイトルを思いついた理由にあいますね。自分では描いている時には意識していなかったんですけれど、漫画の中に登場するアオイという人物が死んだのは「大人になりたくなかった」のが一番大きい理由だったのかなって、腑に落ちました。
鏡)今、全体的にみんな若くなっているので、土星1周半(44歳から45歳頃)が、昔の人の30歳の感覚じゃないかなって思いますね。
鳥飼)30歳って若い気がしますね。
☆☆☆
28~30歳ごろに誰もが経験する「サターンリターン」。それは大人になっているかどうかの、確認の時期でもあるようです。堅実女子の皆さんは、大人になっていますか?それともまだもがいていますか?
凶星と呼ばれる土星って、本当に悪い星?~Vol.2~に続きます。
撮影/黒石あみ 取材/池守りぜね