11月10日にはチャンネル登録者数100万人突破、スパチャ(投げ銭)額ランキングでは常に上位に位置。企業勢全盛の時代において異例の人気を誇る個人勢バーチャルYouTuber(VTuber)のksonさん。
10月には今まで使ってきたアバターが「顔を出せない時用」「代行」という立場にグレて反乱。kson総長として再デビューし、新たにLive2Dアバターをお披露目。先日は自身のチャンネルの月収が1500万円だったと公開して大いに注目を集めるなど、話題にも事欠かない。
2019年、日本のメディアとして初めて、VRアバターを使い始めたYouTuberとしての彼女にインタビューしたKAI-YOU(関連記事)。あれから2年、状況は激変している。
前編となる本記事では、彼女が常に意識してきた「ストーリー」の力、そして誰もが気になっている「お金の話」について聞いてみた。
2年ぶりとなるインタビューで、ksonさんは何を語るのだろうか。
取材・文:LiT 取材・編集:Yugaming
{!{toc}!}
「個人」から「個人勢」のストーリーへ
KAI-YOUオフィスのある渋谷に降り立ったksonさん
──KAI-YOUでは2年前にもksonさんにもインタビューをさせていただいたんですが、今回は何から聞こうか迷ったんです。
kson 2年前ですからね。今とは全く(状況が)違いますよね。そもそもあの頃、YouTubeを中心には活動をしていなかったというか。
※2019年のインタビュー記事。当時はチャンネル登録者数も1万人程度だった
──最初から大きな質問になってしまうんですが、この2年間を振り返ってみていかがですか?
kson いろいろな環境の変化と言いますか、動画スタイルだったのを配信スタイルに変えたりもありまして。あとはVTuberというものを知ってしまったっていう。
2年前には全く知らなかった世界に触れて没頭することができた2年間……。まあ、2年間ずっと没頭していたわけでも……うーんまあ、でも2年前と比べて違いはそこにありますかね。
──前回のインタビュー時にはすでにアバターを使って活動されていましたが、「自分はあくまでYouTuber」という旨のことをおっしゃられていました。現在はVTuberと名乗るようになりましたが、どのような心境の変化があったのでしょうか?
※10月16日には新たなLive2Dモデル「kson総長」がお披露目された
kson 以前、私が『南部式英語教室』などの企画で利用してたキャラはライブ2Dではなく、3Dゲームとかにも使うヘッドセットを利用するような3Dの身体だったんですね。
なので、バーチャルのヘッドセットを頭に乗せたりとか立ち上げたりするのが大変だっていう。しかも長時間使用すると身体に負担があるっていう。
──たしかに首への負担が凄そうですね。
kson 重いヘッドセットを常に頭に乗せた状態でやりますので、まず頭が重い、首が痛い(笑)。
そういうこともあって、これで長時間配信したいと思えるような環境ではなかった。だから、気軽に使えるLive2Dを知ることができたのがこの2年間で一番大きな変化だったと思います。
──環境の変化が、VTuberという認識を促していったわけですね。ksonさんはアバターの姿と並行して生身の姿も使い分けています。VTuberとしては非常に珍しいケースですよね。
kson VTuberというのは「中の人はいないよ」っていう概念が結構鉄板だとは思うんです。
そうすると、私のようにすでに顔がインターネットに出てしまってるやつらが参入できないんですけど(笑)。
生身のksonさん
kson 今回デビューしましたkson総長は全く「中の人」はおらず、Live2Dが今まで人間の代わりとして使われていたことに飽きて、グレてしまったという設定ですね。
──そういう設定が一応必要だと。
kson まあ、ストーリー性があった方がEntertainmentとしては面白いかなと。「必要」ではなかったと思いますけどね。
──以前のインタビューでも「努力をする過程がコンテンツになる」とおっしゃっていて、それってまさにストーリー性の部分じゃないですか。
kson そうですね! Storyですね。
──そのストーリーをつくれるかがエンターテイナーの肝になってくると思うんですが、その部分でksonさんがいま意識されていることはありますか?
kson 今は企業勢と個人勢の間に、分厚い壁が敷かれているんですよね。
そういう括りに興味がない人からしたら、ぶっちゃけ一緒に見えてると思うんです。でも個人勢というのがなかなか這い上がれない世界になってきてるのかなと。
今までは自分だけのストーリーをつくってきましたけど、ここからは人を巻き込んでいくストーリーもアリなのかなと思っています。やっぱり人とのつながりって、とっても大事だと思うので。
いろんな人を巻き込んで自分のストーリーの中の参加者になってもらう。そして、自分自身も他の活動者のストーリーに参加していくことでVTuberという世界を大きくしたり、自分の世界を知ってもらうのが大事かなと思ってます。
──「企業勢」と「個人勢」という構図があると。
kson そうですね。今は個人に光が当たるのがすごい難しい状態なんですね。
まあ、もちろん企業さんは広告にお金をかけている分、注目されるのは当然だと思うんです。けど、個人勢にも面白い方もたくさんいるのに、それはもったいないなと思って。
ksonの語る「投げ銭」論
──ksonさんはYouTubeのスーパーチャット、いわゆる投げ銭にもストーリーを持たせてきましたよね。
kson (私の)Storyというか……視聴者の人がStoryを展開しているんですねー。奥が深いですよ。
──たとえば活動初期から「投げ銭でadidasのジャージを買いました」といったフィードバック感があったり。
kson はい(笑)。ファンの人たちは、彼らのメッセージが熱く伝わるようにストーリーを持たせてくださるんですよ。その熱いメッセージが意味不明だったりするのも多いんですけど(笑)。
でも投げ銭ってしなくてもいいことなので、ある意味。応援の形の1つであって、それをしなくても応援はできるのに、汗水垂らして稼いだ自分の大切なお金を私がいただくっていうことは「期待」なんじゃないかなと思っております。
だから、期待されている方向に惜しまずバンバン使って、それを報告したいなと思っちゃいますね。
──フィードバックという意味では、三次元のYouTuberであればお金を使ったのが見えやすいですよね。でも二次元のVTuberだと……。
kson 目に見えないってことですよね。
──設備への投資とかになってしまうじゃないですか。
kson そうですね(笑)。
──そこはVTuberだと難しくありませんか?
kson でも応援してくれている方は、目に見えなくてもわかるみたいですね。「マイクの音質が良くなった! これはお金かかってる!」とか。
今回の新しくデビューした身体(Live2Dモデル)も「これはお金かかってるだろ!」と皆さんに結構言われて、「バレました?」っていう感じなんです(笑)。
この身体、結構金かかってます
kson ある意味、この身体も設備の1つだと思いますし。投げ銭をしてくださってる方は、そういった設備の部分が見えてる方が特に多いと思いますね。
──そういった想像力がある人たちが投げ銭をしやすいというのは面白いですね。
kson 本当にそう思います。これからに期待してくれているんだなと思ってます。
──私も有志によるゲーム大会の配信をよく観ているんですが、それも「これはお金かかってるんだろうなー」とか「人件費かかってるんだろうなー」といった想像力が働いて投げ銭をしてしまいます。
kson わかります!「貢ぎたい!お金を受け取ってくれー!」という気持ち(笑)。
自分の大好きなゲーム会社さんのクラウドファンディングに投資をさせていただいたりするのは、私なりの投げ銭なのかなと思います。
期待とか愛ですよね。私もそれを受け取る側なので、その期待に応えなきゃなって思ってます。
──そういったクラウドファンディング的な投資の気持ちで投げ銭をしている人が多いのが、ksonさんのスパチャ額が高い理由の一つだと思います。
kson そうですね! 私の収入のほとんどがSuperchat(スーパーチャット)なので。
──ksonさんは先週(10月3週目)の週間スパチャ額も世界1位になっていました。
kson 本当に話題にしていただいて……先日もYahoo!ニュースに載ったらしく(笑)。
──日本は投げ銭にせよクラウドファンディングにせよ、自分の好きなコンテンツにお金を投資する文化が浸透するのが遅かったと思うんですよ。
kson そうですね。Tip(チップ)の文化がないですからね。日本で視聴者が活動者に対してTipを投げるっていう文化そのものが、ここ1、2年のことなのかなと思ってますね。
──スパチャ額が高ければ、その事実自体が一つの広告にもなりますよね。
kson そうですね。でも形は違っても、そういう文化はあったと思うんですよ。たとえばAKB48さんの総選挙みたいな。その辺から日本の方は抵抗がなくなってきたんじゃないかと思いますね。
自分の好きな子を1位にするためにCDをたくさん買うという文化も、最初は「えー! なんでそんなことを! 一人で何十枚もCDを買うの!」という反応だったと思うんです。
でもだんだん慣れてくると「この人は一人で100枚買ったのか、すごいな」みたいな。「すげー」と称賛する方向に変わりましたよね。
──アイドル文化からの流入があったと。
kson アイドル文化はデカかったと思いますね。自分のお金を応援してる子に渡すというのが変なことではなく、当たり前のことになってきた。
夢を持たせないと、この業界は終わる
──お金の話で言うと、ksonさんが先日ご自身のチャンネルの収益を公開されたことも話題になりました。収益公開というのは日本では珍しいですよね。
kson 出さないですね。Taboo(タブー)みたいになってますね。
──聞く側としても「下世話な話なんですが」という前置きが必要になったり……。
kson そう言わないといけないみたいなね(笑)。私はあんまりそんな風に思わなくて!
──でも具体的な金額を出すのも大事だと思うんですよ。
kson:私もそう思うんです。夢がある世界だと思ってほしいというか。「VTuberという世界ってすげーんだ!」って。
もちろん金額を出すことによってアレルギー反応される方もいるんですけど(笑)。「金の話をしやがって、こいつ!」みたいな。
でもそうじゃない人のほうが今は多いと思うんですよね。特に投げ銭に抵抗がなくなってる世代としては。なので私としては隠すことでもないんで、バンバン言っちゃっています。
それこそ皆さんが応援してくださったものなので、隠したってしょうがないと言いますか。まあ、収益を公開したことでファンの方々の反応は「そんなもんなのか」というのが一番多かったんですけど(笑)。
──私ももっともらっているのかと思いました(笑)。
kson 公開した額よりもらった時もありますよ!
──VTuber業界に限らず、お金の話をオープンにすることで得られるメリットは多いんじゃないかと思います。他の活動者が外部と仕事をする時に安く買い叩かれたりするのを防げたり。
kson それは非常に思いますね。やっぱり隠していると、一体この子達がどのくらいの収入で活動してるのかというのがわからなすぎて……。
──相場観が伝わらない?
kson そうですね。私は、自分を安売りしていい世界はないと思っているんです。
ただ、私の場合は「夢を持ってほしい」というのが一番大きいんです。
私がゲーム実況とかを始めたのも、「ゲーム実況をしてる人って楽しそうだな―」という夢を持って、「自分もあんな風に上手くしゃべれたり言語の壁を突破したいなー」と思って始めましたから。そういう夢を持って始める人がいなくなると、この業界終わるんで、たぶん(笑)。
──間違いないと思います。
kson なので、そういう話を聞いて「わー! すげーなあのひと! あんなに稼ぐのか! 自分も興味持ってきちゃったな」っていう人が一人でも増えればいいかなって思ってます。
後編に続く
後編記事はこちらから(後編を読む)。VTuberにまつわるコミュニティ論、言語の壁との向き合い方、配信者のメンタルヘルス問題を掘り下げます。