“みんなのホンネが集まる場所”と称する好感度調査サイト「好き嫌い.com」を知っているだろうか?
実在する著名人・有名人やフィクション上のキャラクター、あるいはバーチャルYouTuberなどに対して「好き」か「嫌い」かを投票し、掲示板のようにコメントが投稿できるWebサービスだ。
「推し活」に熱心な若年層を中心に人気を拡大しており、YouTuber・HIKAKINさんが、7月22日に公開した動画で取り上げたことでも大きな話題となった。
誰しもが手軽かつ簡単に意見を述べられるようになった現代。インターネット上での誹謗中傷やいじめは、深刻な社会問題だ。「好き嫌い.com」では、それらの問題がより先鋭化され浮き彫りになっている。
「好き嫌い.com」にしか測れない数値
「好き嫌い.com」/画像はスクリーンショット
「好き嫌い.com」の最大の特徴はそのシステムにある。自分が興味のある人物・キャラクターに対する「好き嫌い.com」上での投票結果やコメント(掲示板)を見るためには、必ず「好き!」か「嫌い!」かに投票しなければならない。
投票は人物・キャラクターごとに1日1回可能。投票した後に、「好き派」「嫌い派」の立場からコメントが投稿できるようになる。
また、大手匿名掲示板「ガールズちゃんねる」と同様に、書き込まれたコメントにも「好き」か「嫌い」か投票することができ、その数字も可視化されている。
「好き嫌い.com」のコメント欄/画像はスクリーンショットをぼかしたもの
再生数やシェア数が、タレントやコンテンツの「人気」を計る重要な価値となって久しい現代。しかし、実際には露悪的な「炎上マーケティング」などによって、本来の人気とは乖離した数字を演出することが可能なことも明らかとなっている。
そんな中、あくまでも一個人の感情的な「好き/嫌い」による指標を提示する本サービスはエポックな側面もある。知名度や話題性の高さではない本当の意味での「人気」を計ることは難しい課題になっていたからだ。
オタク的消費行動を背景に誕生した「好き嫌い.com」
Q.推しはいますか?/Z世代の女性218名に対するアンケート調査の結果(Z総研、2021年7月発表)
マーケティングの観点からも、消費者の「好き」という感情は重要なファクターとなっている。
マスメディアなどでも「推し活」が喧伝されているように、誰かを「好き」という感情や「推し」に持つという行為は、ポップカルチャーやエンタテイメントの領域において、消費行動の強い動機になっている。
かつて特定の文化への造詣の深さやマニアックな趣味性を指した「オタク」という言葉も、2010年代後半からは「何かの推し活をしている人」という意味合いにすり替わりつつある。
ファンvsアンチ「好き嫌い.com」で激化する争い
一方で私たちが有名人や著名人に抱く好感度というものは、本来は「好き」と「嫌い」の2つで単純に表せるものではない。感情とは本来重層的であり、グラデーションがある。
「好き嫌い.com」は、それをあえて二極化してラベリングしている。その単純明快さが成功要因のひとつではありつつも、その結果を絶対的な数値として、人物・キャラクターにダイレクトに紐づけられる形で可視化してしまっている。
それによって、実質的に匿名掲示板のように機能しているコメント欄で起きているのは、「好き」の極致である“ファン”と「嫌い」の極致である“アンチ”による、見るに耐えない壮絶なる舌戦だ。
当人たちはそれが楽しいのかもしれない。しかし、HIKAKINさんが動画の中で「我々からすると地獄みたいなサイトなんですよ」と評したように、タレントの側からするとその活動や精神面に影響を与えかねない、大きな火種を抱えているサービスのように思える。
「好き/嫌い」を押す前に考えなくてはいけないこと
HIKAKIN「地獄みたいなサイトなんですよ!これ」/画像は「オワタ…ヒカキン嫌い51%!?!?!?!?」のスクリーンショット
人は誰しも、自分の価値観が正しいか確かめたい、もっと言えば正しいと思いたいという心理を抱いている。特に憎しみ、悲しみ、怒り、妬み、恨み──負の感情を抱いていれば尚更だ。
当然、「好き嫌い.com」の投票結果は、あくまでも「好き嫌い.com」を閲覧しているユーザーのみの集計であり、ある種のバイアスがかかっている。
その上で「好き嫌い.com」では、可視化された「好き/嫌い」の数字の下、自分の価値観を押し付け合う不毛な争いが繰り広げられている。
自身の考えとはそぐわないコメントに対して熱くなってしまう前に、「自分と他人の価値観は、異なっていて当たり前」だという前提のもとに見るべきサイトだろう。
客観的なデータや専門家による批評でもなく、再生数やフォロワー数のような単純な数でもない、「好き/嫌い」という感情が重要とされている今だからこそ、冷静なふるまいを心掛けたい。