コロナ禍で観光客が激減した最近は全く見なくなったが、以前は沖縄県那覇市の国際通りや那覇空港を歩くと、パンパンの荷物やショップバッグを抱えて歩く外国人観光客を頻繁に目にしていた。
その光景を見て、観光のために歩き回るには邪魔になりそうなほどの大量の荷物を何故郵送しないのだろうと不思議に思っていたが、海外への郵送は、商品を郵便局に持ち込み、インボイス(海外に発送する際に送り主が配送先に宛てて作成する貨物の明細書)を作成する必要があるという。郵便局に足を運ぶ億劫さしかり、それ以上に書類作成が煩雑であることが大荷物を持ち歩く理由だったようだ。
だが、この度、インボイスの作成が商品を購入したその店ででき、しかも書類への記入を自動でできるクラウド型海外宅配支援サービスが沖縄県内に誕生した。開発に携わったのは、地域産品等の海外展開や課題解決を図る「株式会社琉球物産貿易連合」(豊見城市)と、ウェブメディアの運営やサイト構築を行う「株式会社hais」(那覇市)の二社だ。
「カイタク」と名づけられた、このクラウド型海外宅配支援サービス、じつは海外への郵送を簡易化するだけでなく、海外から観光客が来なくてもインバウンドビジネスが成立する仕組みまで生み出す可能性も秘めているという。システム構築・運営を担う株式会社haisの社長・砂川真一郎さんと顧問・銘苅誠也さんに話を聞いた。
クラウド型海外宅配支援サービス「カイタク」とは
「海外にモノを送るハードルを低くし、誰にでもカンタンに世界に届けられるようにする」をコンセプトに掲げるカイタク」は、2020年8月から試験的に検証が行われ、同年10月に沖縄県嘉手納町にある「道の駅かでな」で運用が始まっている。
従来の海外発送は前述した通り、郵便局や配送業者に足を運ぶという手間に加え、煩雑な書類作成が障害となり、外国人観光客にとって不便極まりなかった。特に大変なのは郵送する商品の記入だ。インボイスを作成するには、商品ひとつひとつの「具体的な品名」を英語で記入しなければならず、さらに全商品の金額・重量・合計を記入する必要があるという二重三重の面倒が発生する。確かにこれだけ面倒ならば、大荷物を持ち歩くしかないと諦めるだろう。
海外発送の数々の手間を「カイタク」は大幅に簡略化した。使用方法は至ってシンプル。商品のJANコード(「どの事業者のどの商品か」を表す世界共通の商品識別番号)を専用のバーコードリーダーで読み取るだけだ。読み取り後はそのデータをもとに、インボイス等の書類が自動出力される。後は、出力されたデータに住所や名前などの基本情報を書き加えれば完了となる。
多方面にもたらすメリット
難関だったインボイス等の書類が店頭でスムーズに作成できることで、外国人観光客は土産品を大量に抱えたまま観光せずに済む上に、航空便のオーバーチャージの回避にもつながるのだが、実はこのシステム、あらゆる方面でのメリットが予想できる。
例えば、那覇空港では年間100個のスーツケースが廃棄物として処理されているのと報道もあるが、海外への郵送が簡易化されれば、大きなスーツケースに入れ替える必要性が減ることとなり、結果としてスーツケース放置の減少が想定できる。
また、県内の土産店等店舗にとっても複数のメリットがある。まず郵送を前提とした買い物が予想されるため、購入する量が増える可能性が高くなる。
ほかにも登録したデータを多元的に活用すれば、これまでは不可能だったインバウンド観光客の購買行動や購買傾向などのデータ分析が可能となり、それにより商品の定期販売やサブスクリプションでの商品設計、EC通販など、コロナ禍でのインバウンドビジネス戦略への活用も期待できる。
二社の強みを合体させた仕組み
インボイス等の書類の作成にあたっては、商品などの情報を記入するのに一定の外国語能力が必要で、配送して良いものなのかどうか可否の判別も難しい。国際ビジネスであることから専門的知識を有することも求められる。これまでのような手入力となると膨大な時間がかかってしまうため、店頭で行うことがそもそも現実的ではなかった。
画期的なこの「カイタク」には、これまでのインボイス作成作業に伴う煩雑さを解消する仕組みが入念に設計されている。まず、システムの基本設計は、株式会社琉球物産貿易連合が開発したエクセル版ソフトウェア「海外配達サービスシステムExcel Perfect」をベースとしており、これを使えば以下のことを行うことができる。
①商品データのJANコードの読み取り
②英語での自動入力
③自動的にインボイス書類等を作成
④その場で印刷
エクセルベースの独立したシステムであった海外宅配サービスExcelPerfectをクラウド上で稼働するシステムにアップデートし、さらに株式会社haisが構築した「情報更新システム」と「データの蓄積・分析システム」を加えることにより、アップデートが著しい各書類の情報更新や、データ収集、マーケティングなどの機能も備える使い勝手の良いシステムとなった。
仕組み化だけではない。「カイタク」を導入する事業者・店舗に対して研修やサポートを行う「一般社団法人全国地域産品貿易協会(通称:LPTA/ルプタ)」も設立した。海外宅配の受付ができる担当者を育成することを目的とするLPTAの研修を受けることで、店舗スタッフはシステムの使い方さえマスターすれば、仮に語学力がなくても問題なく対応できるようになる。つまり事実上、国内配送とほぼ変わらない手間で海外への配送が可能となる。
ほかにもLPTAでは、貿易の支援、貿易に関する旬な情報提供、ビッグデータを活用した売れ筋商品の提供などのコンサルティングも行っており、活用規模に応じて多角的にサポート体制が整えられている。
あらゆる可能性を秘めた「カイタク」
「カイタク」というネーミングには「海外宅配」と「開拓する」という二つの意味が掛け合わされている。宅配を簡易化するだけでなく、カイタクの国際物流を生かした越境型ECサイトの構築ですでに特許出願しており、まさに新しい分野を「開拓」するとの意気込みを感じさせる。
今は外国人観光客が少ないため、データの活用までは至っていないが、今後はビックデータ解析による沖縄観光の物販へのフィードバックや商品開発など、あらゆる開拓を担っていきたいと砂川さんは話した。
カイタクに関する問い合わせはこちら
株式会社hais問い合わせフォーム:https://www.hais.co.jp/inq