エンリケ体制の終わり(16/17シーズン)
ここ10シーズンで5度のリーグ優勝を果たしているバルセロナは、欧州サッカーの盟主にふさわしいクラブの一つ。ただ、ここ最近を見ても、ネイマールやアンドレス・イニエスタの退団など多くの変化を経験している。今回は、バルセロナの過去5年間の主要メンバーや基本システムをシーズンごとに紹介する。
【シーズン成績】
UEFAチャンピオンズリーグ:ベスト8
リーガ・エスパニョーラ:2位(28勝6分4敗)
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯):優勝
ダニエウ・アウベスがチームを去り、チームは若返りを図るべく20代前半の選手を多く獲得した。最終ラインにはサミュエル・ウンティティとリュカ・デーニュ、中盤にはアンドレ・ゴメスとデニス・スアレス、MSNが君臨する前線にはパコ・アルカセルを加えている。
2年続けての顔合わせとなったセビージャとのスーペル・コパを制して、バルセロナの16/17シーズンはスタートした。しかし、リーグ戦では序盤からアラベスやセルタに敗れ、首位レアル・マドリードの後を追う展開となった。
チャンピオンズリーグ(CL)ではラウンド16でパリ・サンジェルマンとの1stレグに4-0で大敗。逆転は不可能に思われたが、カンプノウで行われた2ndレグは2点リードで試合終盤に突入すると、ネイマールの2得点とセルジ・ロベルトのゴールで6-1と大勝した。2戦合計スコアでを6-5としたバルセロナが、CL史上最大級の逆転劇を演じて見せた。
しかし、準々決勝でもユベントスを相手に1stレグで敗れてしまう。大逆転の再現が期待されたが、奇跡は2度起こらなかった。ホームでの2ndレグはスコアレスドローに終わり、2シーズン連続の準々決勝敗退となった。
リーグ戦では8節から19試合に渡って無敗を継続して、首位レアルを猛追。33節のエル・クラシコはメッシの2得点などで勝利し、1試合消化が少ないマドリーに勝ち点で並んだ。バルセロナは残る5試合を全勝してシーズンを終えたが、6連勝でフィニッシュしたマドリーにリーグ優勝を許した。コパ・デル・レイでは決勝でアラベスを下して3連覇を達成。しかし、リーグ3連覇を逃したルイス・エンリケは監督退任となった。
▽GK
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
▽DF
セルジ・ロベルト
ジェラール・ピケ
サミュエル・ウンティティ
ジョルディ・アルバ
▽MF
イバン・ラキティッチ
セルヒオ・ブスケッツ
アンドレ・ゴメス
▽FW
リオネル・メッシ
ルイス・スアレス
ネイマール
ネイマールの後釜(17/18シーズン)
【シーズン成績】
UEFAチャンピオンズリーグ:ベスト8
リーガ・エスパニョーラ:優勝(28勝9分1敗)
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯):優勝
アスレティック・ビルバオを率いていたエルネスト・バルベルデが新監督に就任。ネイマールは2億2000万ユーロともいわれる違約金でパリ・サンジェルマン(PSG)への電撃移籍が決まり、MSNは3年で解体となった。バルセロナはネイマールの後釜として、ドルトムントからウスマンヌ・デンベレを1億500万ユーロとボーナスという条件で獲得した。
新指揮官はメッシとスアレスを最前線に置く4-4-2を採り入れた。リーグ戦では無敗を継続して首位を独走。チャンピオンズリーグ(CL)でもグループステージでユベントスに雪辱を晴らし、無敗で決勝トーナメント進出を決めた。
夏に移籍が決まらなかったフィリッペ・コウチーニョは、冬の移籍市場で1億6000万ユーロとも報じられた移籍金で加入。ハムストリングの負傷でデビューが遅れ、リーグ戦初ゴールをマークするのに5試合かかったが、その後はゴールやアシストを積み重ねた。リーグ戦18試合で8得点5アシストという結果を残している。
デンベレはネイマールの後釜として期待されたが、9月16日のヘタフェ戦で負傷。左足大腿二頭筋の腱断裂で戦線を離脱し、復帰は年明けまで待たなければならなかった。復帰後はコウチーニョの加入もあって出番を掴めず、公式戦で先発メンバーに名を連ねたのはわずか14試合だった。
チェルシーを1勝1分で破ったバルセロナは、CL準々決勝でローマと対戦。1stレグは4-1と大勝したが、アウェイゲームで大きな落とし穴が待っていた。6分に先制を許し、58分に追加点を決められると、82分にも失点。2戦合計スコアで並ばれたバルセロナはアウェイゴール数で下回り、準々決勝で大会から姿を消した。前年とは逆の形で逆転劇を演じてしまった。
早すぎる敗退を喫したCLとは対照的に、国内では無類の強さを誇った。コパ・デル・レイではセビージャを5-0で圧倒して4連覇を達成。首位を独走するリーグでは3試合残して優勝が決まり、第36節のエル・クラシコは消化試合となってしまった。37節で敗れて無敗記録は止まったものの、リーグ戦1敗はペップ・グアルディオラ体制2年目の09/10シーズン以来2度目の快挙だった。
ハビエル・マスチェラーノは出場機会を求めて冬に中国の河北華夏へ移籍。リーグ優勝をほぼ手中に収めた4月下旬には、アンドレス・イニエスタが涙ながらに退団を表明している。シャビなき後に3年間キャプテンを務めたイニエスタはシーズン終了後、ヴィッセル神戸への移籍を発表した。
▽GK
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
▽DF
セルジ・ロベルト
ジェラール・ピケ
サミュエル・ウンティティ
ジョルディ・アルバ
▽MF
イバン・ラキティッチ
セルヒオ・ブスケッツ
パウリーニョ
アンドレス・イニエスタ
▽FW
リオネル・メッシ
ルイス・スアレス
悲劇は再び(18/19シーズン)
【シーズン成績】
UEFAチャンピオンズリーグ:ベスト4
リーガ・エスパニョーラ:優勝(26勝9分3敗)
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯):準優勝
アンドレス・イニエスタが日本へ、パウリーニョが中国へと去った中盤にはアルトゥーロ・ビダルとアルトゥールを獲得。センターバックには23歳のクレマン・ラングレが加わった。イニエスタに代わるキャプテンは、リオネル・メッシが務めることとなった。
リーグ戦では4連勝スタートを切ったが、そこから4戦未勝利で2位に転落。しかし、首位攻防戦となった直後のセビージャ戦を4-2で勝利してエル・クラシコを迎えた。バルセロナはメッシを負傷で欠いたが、ルイス・スアレスがハットトリックを達成して5-1の大勝へとチームを導いている。
前シーズンは29失点を記録したが、前半戦はその堅守が影を潜めた。ラージョ・バジェカーノ戦は勝利したものの2つのゴールを許し、レアル・ベティス戦では4失点を喫して敗れた。続くアトレティコ・マドリード戦に1-1で引き分けたバルセロナは、再びセビージャに首位を明け渡した。
しかし、12月に入り、攻守の歯車がかみ合い始める。リーグ戦8連勝で首位に立つと、そこから首位を譲ることはなかった。
コパ・デル・レイでは準決勝でレアル・マドリードと対戦。ホームでは1-1のドローに終わったが、スアレスに2得点が生まれた2ndレグを3-0でものにして突破を決めた。中2日で行われたリーグ戦はクラシコ連戦となったが、こちらも1-0で勝利。首位争いを抜け出したバルセロナは3試合を残して2年連続26回目のリーグ優勝を決めた。
チャンピオンズリーグ(CL)でもPSV、トッテナム、インテルと同居した死のグループを突破すると、オリンピック・リヨン、マンチェスター・ユナイテッドを撃破してベスト4進出。準決勝では前年のファイナリスト、リバプールと対戦した。
カンプノウで行われた1stレグを3-0で勝利したバルセロナの突破はほぼ確実のように見えた。しかし、2ndレグではロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラーの両エースを欠くリバプールに4失点を喫して完敗。屈辱的な逆転負けで「アンフィールドの奇跡」をアシストしてしまった。
2年連続でのCL逆転敗退のショックは尾を引いた。コパ・デル・レイでも決勝でバレンシアに敗れて5連覇はならず。2度の監督交代に揺れたマドリーの不調に助けられる形でリーグ戦こそ制したが、バルベルデ体制2年目のシーズンはその1冠のみに終わった。
▽GK
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
▽DF
セルジ・ロベルト
ジェラール・ピケ
クレマン・ラングレ
ジョルディ・アルバ
▽MF
イバン・ラキティッチ
セルヒオ・ブスケッツ
アルトゥーロ・ビダル
▽FW
リオネル・メッシ
ルイス・スアレス
フィリッペ・コウチーニョ
ポゼッション回帰(19/20シーズン)
【シーズン成績】
UEFAチャンピオンズリーグ:ベスト8
リーガエスパニョーラ:2位(25勝7分6敗)
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯):ベスト8
オフに数年来の念願だったアントワーヌ・グリーズマンの獲得に成功し、大金をはたいて獲得したフィリッペ・コウチーニョはバイエルン・ミュンヘンに貸し出された。セルヒオ・ブスケッツ、イバン・ラキティッチ、アルトゥーロ・ビダルと30代が並ぶ中盤には、21歳のフレンキー・デ・ヨングをアヤックスから獲得している。
10/11シーズン以来となるリーグ3連覇を目指すシーズンは、開幕戦でビルバオに、5節でもグラナダに敗れる波乱のスタートなった。しかし、レアル・マドリードやアトレティコ・マドリードもつまずいたため、首位争いは混戦に。10月に予定されていたエル・クラシコはカタルーニャ州のデモにより延期となり、12月18日に開催。伝統の一戦はスコアレスドローに終わり、2ポイント差で首位に立つバルセロナが首位を保持した。
バルセロナは首位で前半戦を折り返したが、年明け早々に風雲急を告げる出来事が起きる。エルネスト・バルベルデの守備的なサッカーには、監督就任以来批判が絶えなかったが、1月9日のスーペル・コパ準決勝に敗れたバルセロナは指揮官を解任。ポゼッション信奉者のキケ・セティエンを後任に据えた。さらにこの試合で負傷したルイス・スアレスは右膝外側半月板の手術を行い、4カ月の戦線離脱となっている。
監督交代とスアレスの離脱に揺れるバルセロナは、1月25日のバレンシア戦に敗れて首位陥落。さらに、ハムストリングの負傷から復帰を目指すウスマンヌ・デンベレが練習中に同じ箇所を負傷し、全治6か月の長期離脱を強いられることに。バルセロナは特別ルールを活用し、レガネスからマルティン・ブライスワイトを獲得する緊急事態となった。
故障者続出の中でもバルセロナは4連勝で首位に浮上し、シーズン2度目のエル・クラシコに臨んだ。しかし、スコアレスのまま終盤に突入した試合は、ヴィニシウス・ジュニオールとマリアーノ・ディアスの2人の伏兵にゴールを許して敗れ、首位の座を宿敵に譲った。そして、最後までマドリーを上回ることはできなかった。
チャンピオンズリーグ(CL)では準々決勝まで進むも、バイエルン・ミュンヘンに2-8と歴史的な大敗。12年ぶりの無冠が確定した。その後、絶対的エースのメッシに退団の噂が流れるなど、クラブは大きく揺れたままシーズンオフを過ごすことになった。
▽GK
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
▽DF
ネウソン・セメド
ジェラール・ピケ
クレマン・ラングレ
ジョルディ・アルバ
▽MF
セルジ・ロベルト
セルヒオ・ブスケッツ
フレンキー・デヨング
▽FW
リオネル・メッシ
ルイス・スアレス
アントワーヌ・グリーズマン
賛否両論の一年に(20/21シーズン)
【シーズン成績】
UEFAチャンピオンズリーグ:ベスト16
リーガ・エスパニョーラ:3位(24勝7分7敗)
コパ・デル・レイ(スペイン国王杯):優勝
チャンピオンズリーグ(CL)でバイエルン・ミュンヘンに2-8と大敗してポゼッションの限界を露呈したバルセロナはキケ・セティエン監督を解任し、2020/21シーズンより新指揮官としてクラブOBでもあるロナルド・クーマンを招聘。新時代への一歩を踏み出した。
退団が噂されたリオネル・メッシは結局残留したが、ルイス・スアレス、アルトゥーロ・ビダル、イバン・ラキティッチといったベテラン選手が揃って退団。一方で補強したのはペドリ、フランシスコ・トリンコン、セルジーニョ・デストなど若手が主体となっていた。
クーマン監督はシーズン当初4-2-3-1を採用していたが、リーグ戦でいきなり4試合未勝利を味わうなど戦いぶりは安定しなかった。その後、オランダ人指揮官はバルセロナにはお馴染みの4-3-3に移行。そこからはまずまずの成績を残したが、2月に行われたコパ・デル・レイ準決勝1stレグでセビージャに0-2完敗、チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16の1stレグでパリ・サンジェルマン(PSG)に1-4と大敗するなど、絶対的な満足感を得ることはできていなかった。
風向きが変わったのはリーガ・エスパニョーラ第25節セビージャ戦だったか。クーマン監督はこの試合で3-1-4-2を採用すると、これがハマり難敵を2-0で撃破。さらに、その後のコパ・デル・レイ準決勝2ndレグでも3バックを採用し、ここでも3-0で快勝を収め逆転で決勝へと駒を進めている。
以降、クーマン・バルセロナの基本フォーメーションは3バックとなった。CLではPSGに敗れ早々に姿を消したものの、リーグ戦では好調を維持。一時は首位アトレティコ・マドリードを逆転できる勢いもあった。前半戦はプレスがハマらず、とくにCLに出場するような強豪相手に簡単に押し込まれるケースが多かったが、3バック移行後は多少のリスクがありながらも積極的に前に人数をかけ、敵陣内でプレーする時間を増やせていた。その中でメッシやジョルディ・アルバも調子を取り戻していた。
しかし、クーマン監督率いるバルセロナは終盤にまさかの失速。結局、リーグ戦ではアトレティコ、レアル・マドリードに次ぐ3位フィニッシュとなってしまった。得点数はリーグトップ、失点数はトップ4の中でワーストというのが、このシーズンのバルセロナをよく表していると言える。
激動のオフを経て迎えた難しいシーズンながら、試行錯誤を繰り返し一つタイトルを獲得することができた。さらにペドリ、オスカル・ミンゲサ、ロナルド・アラウホ、イライシ・モリバ、デストら若手を積極的に使い、彼らはしっかりと成長を果たしている。これは、バルセロナにとって間違いなくポジティブなことだった。
一方でクーマン監督の采配に疑問の声が多く挙がったのも事実。とくに失速した終盤は、選手起用やゲーム中のシステム変更でサポーターをガッカリさせることも多かった。また、マドリーとアトレティコには結局1勝もできず、CLでもユベントスやPSGに大敗するなど、力のあるチームとの戦いでも弱さを露呈してしまった。
賛否両論あるシーズンになったと言えるだろう。
▽GK
マルク=アンドレ・テア・シュテーゲン
▽DF
オスカル・ミンゲサ
ジェラール・ピケ
クレマン・ラングレ
▽MF
セルヒオ・ブスケッツ
セルジーニョ・デスト
フレンキー・デ・ヨング
ペドリ
ジョルディ・アルバ
▽FW
リオネル・メッシ
アントワーヌ・グリーズマン