水島先生お疲れさまでした
2020年12月1日、マンガ家の水島新司先生が引退を発表した。水島先生といえば、『ドカベン』、『大甲子園』、『あぶさん』、『野球狂の詩』といった、数多くの野球漫画を世に送り出したマンガ家。この発表には、マンガファンのみならず、野球ファン、野球選手からも惜しむ声が多くあがった。
ところで、その水島新司キャラクターたちが総勢35名登場する野球ゲームがあるのをご存知だろうか。
それは、2003年にセガから発売された『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』。アーケードゲームが稼動し、同年、ニンテンドーゲームキューブとプレイステーション2向けとしても発売された。
本作には、以下の水島新司キャラクターが総登場する。
登場キャラクター
- 青空晴太 (『新・野球狂の詩』)
- 中二美夫 (『ドカベン』)
- 新木新太郎 (『ダントツ』)
- 櫟朝子 (『朝子の野球日記』)
- 犬飼小次郎 (『ドカベン』)
- 犬飼武蔵 (『ドカベン』)
- 犬飼知三郎 (『ドカベン』)
- 犬神了 (『ドカベン』)
- 岩鬼正美 (『ドカベン』)
- 岩田武司 (『野球狂の詩』)
- 岩田鉄五郎 (『野球狂の詩』)
- 王島大介 (『野球狂の詩』)
- 岡本慶司郎 (『おはようKジロー』)
- 景浦景虎 (『あぶさん』)
- 景浦安武 (『あぶさん』)
- 影丸隼人 (『ドカベン』)
- 国立珠美 (『野球狂の詩 平成編』)
- 蔵獅子丸 (『ドカベン プロ野球編』)
- 坂田三吉 (『ドカベン』)
- 里中智 (『ドカベン』)
- 真田一球 (『一球さん』)
- 不知火守 (『ドカベン』)
- 土井垣将 (『ドカベン』)
- 殿馬一人 (『ドカベン』)
- 土門剛介 (『ドカベン』)
- 中西球道 (『球道くん』)
- 新田小次郎 (『光の小次郎』)
- 火浦健 (『野球狂の詩』)
- 瓢箪駒吉 (『ドカベン プロ野球編』)
- 不吉霊三郎 (『ドカベン プロ野球編』)
- 藤村甲子園 (『男どアホウ甲子園』)
- 微笑三太郎 (『ドカベン』)
- 水原勇気 (『野球狂の詩』)
- 三原心平 (『ストッパー』)
- 山田太郎 (『ドカベン』)
()内はおもな登場作品。あいうえお順。
……多いな!
35人のキャラクターを書き出してみて、改めてその多さ、豪華さに驚く。そのラインアップも、代表作『ドカベン』を始め、アニメ化もされた『男どアホウ甲子園』、アニメのほか映画(実写)もあった『野球狂の詩』など掲載誌、出版社の壁を超え選出されており、まさに“オールスターズ”の名に恥じないメンバーだ。
しかし、これでも水島新司ユニバースのごくごく一部。2003年以降に登場した新キャラクターは当然収録されていないし、これ以外にも「こいつもゲームで見たかったなあ」というサブキャラクターは数多く存在する。たとえば『ドカベン』いわき東高校のフォーク使い緒方や、ふだんから鉄球を引きずって鍛えている俊足の足利、明訓高校のメンバーでは“壁際の魔術師”キャプテン山岡なども登場していない。マンガの中では本作以上にもっともっと数え切れないほど多くのキャラクターが活躍している。
そう思うと、これまでの執筆活動の偉大さ、水島新司ベースボールワールドの巨大さを改めて強く感じるのだ。
どんなゲームかと言うと
再びゲームの話に戻る。本作がどんなゲームかというと、“現実のプロ野球選手と水島新司キャラクターたちが入り乱れて対戦する野球ゲーム”となる。
選手・球場は2003年開幕時のデータが使用されており、現ソフトバンクホークスは当時福岡ダイエーホークスで、大阪ドームは大阪近鉄バファローズの本拠地であり、広島カープは広島市民球場を使用している。
選手でいうとヤクルトには古田敦也がいて巨人の中軸には高橋由伸やペタジーニが、西武のショートは松井稼頭央、日ハムの外国人はエチェバリア。そんな時代だ。現在では監督やコーチを務める選手たちが現役で活躍したり、今はもう取り壊されている球場があったりと、ところどころ時代を感じるものの、実在の選手と架空の水島キャラクターたちが同じ画面上で戦うというのは、いまでもロマンを感じずにはいられない。
ちなみに、3DCGと化した実在の選手たちはフォトリアルな質感、水島キャラクターたちはトゥーンシェイドで描かれて差別化されている。中日・岩瀬が山田太郎をスライダーで打ち取ったり、日ハム・不知火が阪神・金本を“ハエが止まる”超スローボールで空振り三振に抑えるなんていう夢の対決も実現して、とてもワクワクする。
キャラクターの再現度が魅力
本作はなんと言っても水島キャラクターの再現度がすばらしく、岩鬼はバットを何本も持って振り回しすべて投げ捨てて打席に入るモーションが再現されていたり、空振りひとつ取っても、全身全力でフルスイングをして最後は倒れ込んだりと、水島マンガからそのまま飛び出してきたような動きは見ているだけでも楽しい。
バットを何本もぶるんぶるんと振り回す岩鬼。
空振ると……
フレームアウトする勢いで全力の三振。野球の“動き”でキャラクター性をとてもよく表現している。
原作の再現と、そのゲーム性への反映が特徴的な本作。下の2枚の画像では、犬飼武蔵と殿馬一人のストライクゾーンがこんなにも違うのかと、驚くべき差が見て取れる。体格差というマンガ的表現をマンガにとどまらせず再現することで、ゲームとしても独特の味わいが生まれている。
3倍くらい違うストライクゾーン。殿馬はゾーンのほとんどが打撃カーソルで埋まっている。
水島ファン必見の秘打・秘投システム
その再現度をさらに際立たせているのが水島キャラクターに設定された“秘打・秘投”システムで、青いゲージの“SP”が溜まっている場合、各キャラクター特有のいわば必殺技を使用できる。
岩鬼であれば、ボールゾーンの球のほうが強く打てる“悪球打ち”だったり(ボールゾーンには打撃カーソルが広く大きくなるがど真ん中やストライクゾーンではゴマみたいに小さい)、殿馬は“白鳥の湖”で長打を放ったり、水原勇気のドリームボールであったり。キャラクターの特色が、きちんとゲームにも反映されているのだ。その秘打・秘投使用時には、特別なエフェクトが掛かるものもあり、眺めているだけでも楽しい。
殿馬の秘打・白鳥の湖が決まるとカットインが挿入される。特有の打球音“ズラキン”。そうそう、この音! 当然、岩鬼がホームランを放つと“グワラゴワガキーン”!
“プロ球界初の女性選手”水原勇気。彼女の投げる魔球ドリームボールは、いったん体が沈み込み……
伸び上がり……
さらに跳び上がりながら投げることで、ボールはホップした後に落ちていく。画面上には光の渦のようなエフェクトも激しく現れる。打てるかこんなもん。
対戦前のマンガ風演出も見逃せない
さらにゲームを盛り上げるのが、各水島キャラクターがバッテリーを組んだりバッターボックスとマウンドで対峙する際に挿入されるマンガ風カットイン。格闘ゲームで、因縁のあるキャラクターどうしを対戦させると、試合開始前に特別なやり取りが行われるような感じで、キャラクターが会話を交わす。同じ作品に登場し、すでに面識があるキャラクターもあれば、原作ではあまりやり取りがないキャラクターどうしのifの会話もおもしろい(ときに、ぜんぜん噛み合わなかったりもするけど、それはそれ)。
まさに、水島新司作品がクロスオーバーする『大甲子園』的というか、『ドカベン ドリームトーナメント編』的なおもしろさが味わえるのだ。
こういうやり取りの後に……
ホームランを打ったりすると気持ちはいっそう盛り上がる。やっぱり山田はすごい。
現在はダウンロード版の販売も行われておらず、本作を遊ぶにはパッケージソフトの実物を手に入れるか、稼動しているアーケードゲーム版を探すしかない。ライセンスモノなので難しいよなと思いつつ、現行機でも遊べるようになるか、いっそ2018年6月に連載終了した『ドカベン ドリームトーナメント編』のゲーム化を願いつつ本稿を終える。
オマケ:ファミコンにもあった。『水島新司の大甲子園』
さらにときを遡ること13年、ファミリーコンピュータ用ソフトとして『水島新司の大甲子園』というソフトも存在していた。
1990年発売。メーカーはカプコン。こちらは明訓高校を操作しながら大甲子園優勝を目指す、コマンド選択式野球ゲーム。テクモ(当時)の『キャプテン翼』のようなシステムになっている。投手が投球コース・球種を選び、打者はコースにヤマを張ってスイングのタイミングを選択。うまく合致するとヒットになるという進みかたで、アクション要素はほぼなし。本作にも多くの高校と水島キャラクターが登場している。明訓高校なので北さんや石毛なども出てくるのがうれしい。
これがいま遊んでもハマってしまうくらいに、メチャクチャよくできてる。守備時は投手のリードや投球の組み立て、攻撃時はとにかく配球の読みが重要になるゲーム性は、キャッチャーが主人公の『ドカベン』ならではと思うと納得感が深まる。比較的年代が新しい『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』よりもなお手に入れづらいプレミアカセットになっているけど、機会があればぜひ遊んでみて。Nintendo Onlineで遊べるようにならないかな……ならないよな……。
(社)日本野球機構 プロ野球12球団公認 フランチャイズ11球場+札幌ドーム公認
(C)水島新司
(C)SEGA / WOW ENTERTAINMENT.,2003
(C)1983 S.MIZUSHIMA
(C)1990 CAPCOM,ステイタス