「厳しい残暑もそろそろ終わりです」というニュースが聞こえてくるなか、楽しかった夏休みが随分と昔のよう。次の長期休暇が待ち遠しくなりますが、そんなときに、再び長期休暇に突入する人たちがいます。
夏休みが明けた「小学校4年生の教室」に唖然
9月も後半。夏休みの雰囲気が抜けず、どこかふわふわしていた子どもたちも落ち着いたころ。一方で、休み明けに長期休みに突入した人も。
林明日香さん(仮名・28歳)。小学校教師になって6年目。今年度から4年生の担任をしていましたが、先日から休職が決まったといいます。その引き金になったのが、学級崩壊。
同僚かつ副担任の先輩教師いわく、林さんは夏休みが終わるのが近づくにつれて「動悸がする」といっていたとか。そして夏休みが明けて、初めて教室の扉を開けたとき、衝撃的な光景が飛び込んできたといいます。
机の上に飛び乗り、なにやら踊る男児。教室の隅で何やら喧嘩になっている女児グループ。そのなかでひっそり本を読む落ち着いた児童も。始業前とはいえ、その先が思いやられる光景だったといいます。案の定、授業が始まった後も、立ち歩く児童、大声でおしゃべりをする児童、しまいには大喧嘩が勃発。まったく授業にならなかったといいます。
学級崩壊は、夏休み前、6月ごろから顕著になってきたとか。授業中に立ち歩く児童が現れ、その児童のケアをしていると、おざなりになっている児童のなかで問題行動を起こす児童が現れ、その児童のケアをしていると、また違う児童が……まさにイタチごっこの状態。
――なんとか夏休みまで頑張ったんです、林先生も私も。夏休みを挟んで、少し落ち着くかなと期待していましたが……
文部科学省『令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果』によると、小学校での暴力行為の発生件数は6万1,455件。前年度4万8,138件から大きく増えました。また加害児童生徒は4万5,539人で、前年度から25%ほど増加しています。さらに小学校におけるいじめの認知件数は55万1,944件で10%ほど増加しています。
コロナ禍の規制が解除されたことで、前年よりも児童間のコミュニケーションが増えたことも増加の要因と考えられ、また問題行動は暴力やいじめだけに限りませんが、荒れる学級が増えていることは、これらだけでも想像に容易いでしょう。
心が病む「小学校教師」が増加…復職は2割だけの現実
学級崩壊の要因は、学級担任の指導力不足や学校の対応の問題、家庭や地域社会の教育力の低下などが考えられますが、何かひとつだけが要因ということはなく、さまざまな要因が複合的に混ざりあい、学級崩壊を引き起こします。
決して林先生だけが責任を感じる必要はないのですが、夏休み明け、ますますヒドクなるクラスの状況をみて「さすがに心が折れました」とポツリ。次の日から登校ができなくなり、そのまま休職となったといいます。
文部科学省『令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査』によると、小学校における病気休職者は4,230人。そのうち精神疾患は3,202人で在職者の0.77%にあたります。
年齢別にみていくと、「20代」が1,288人で在職者の0.84%、「30代」が1,867人で在職者の0.84%、「40代」が1,598人で在職者の0.85%、「50代以上」が1,598人で在職者の0.60%。そして精神疾患を理由に休職をした教師のその後については、復職が39.9%、引き続き休職をしているのが19.4%、退職をしたのは19.4%でした。
精神疾患による病気休職者と1ヵ月以上の病気休暇取得者の過去5年間の推移をみていくと、2018年4,290人、2019年4,729人、2020年4,691人、2021年5,532人、2022年6,098人と確実に増加傾向。この状況に対して、いまのところ有効な改善策はないようです。
総務省『令和5年 地方公務員給与実態調査結果』によると、小学校教師の平均月収は地域手当や扶養手当を合わせて38万7,324円。それに対し、会社員(正社員)の平均月収は諸手当込みで36万6,900円。平均給与は民間企業を上回ります。
しかし、教員人気は下降線で危機的状況。その要因のひとつが、どんなに働いても残業代が出ない(正確には教職調整額として基本給に4%がプラスされている)ことだとして、教職調整額を13%にする改善案が進められています。
しかし、林さんのように休職する教師の姿をみていくと、残業代が増えたところで、と思わずにはいられません。
[参考資料]
文部科学省『令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果』
文部科学省『令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査』
総務省『令和5年地方公務員給与実態調査結果』
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』