アニメーション監督・長井龍雪さん、脚本家・岡田麿里さん、アニメーター・田中将賀さんという日本のアニメ業界のトップランナー3人で構成された「超平和バスターズ」。そんな彼らの最新作『空の青さを知る人よ(以下、空青)』が、ついに2019年10月11日に公開となります。
一斉を風靡した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、声が出せないという難しい題材に挑んだ『心が叫びたがってるんだ。』。
数々の感動を巻き起こした超平和バスターズは『空青』でどんな世界を見せてくれるのでしょうか。
今回は、超平和バスターズから長井さん、新人ながら主人公の相生あおい役を見事に射止めた若山詩音さんのお二人にお話をお聞きしました。
思春期ならではのツンツンした雰囲気を見せながらも嫌われない不思議な魅力があるあおい。彼女の秘密について掘り下げていきます。
不器用を芝居で見せるのは難しい
ーー若山さんは、アニメイトタイムズ初登場ということで、まずは自己紹介をお願いできますか?
若山詩音さん(以下、若山):はい。若山詩音です。歳は21で、血液型はO型です。そんなことは知りたくないよってことだとは思うんですけど……(笑)。
ーー全然! そういうのが聞きたかったので!
若山:(笑)。得意なことや好きなことは、音楽がすごく好きです。歌ったり、あおいと同じでベースを弾いたり、ギターを弾きながら歌ったりとか、そういったことがすごく好きで。
あとは、小さい頃から美術に興味があって、大学では教育系の美術の方向に進みました。
『空青』に出演するまでは、こういった取材の経験もなくて、最近は初めてのことばかりです。いろんな不慣れがあると思うんですけど……。
どうか私のことはいいので、私を通してあおいちゃんのことと、映画をいいなと思っていただければなって思っています。
……まとまらなくてすみません。
ーーいいえ! 100点の回答だと思います!
長井龍雪 監督(以下、長井):120点ですね。
若山:ありがとうございます。なんかすみません。申し訳ない気持ちになりますね(笑)。
ーー若山さんがあおい役に決まったのはオーディションだったのですか?
長井:オーディションです。でも、あおいに関しては、すごい数の方にオーディションをしていただいて。
若山:そうなんですよね。
長井:その中で、声質と雰囲気を大事に聞かせてもらいました。もちろん、あかねとあおいの姉妹の関係性は大切なんですけど、それよりもあおいというキャラクターに合う声質、雰囲気の若山さんを選ばせていただきましたね。
ーーなるほど。オーディションもやはり厳しく?
長井:難しいキャラクターだったので、オーディションする側も正解を探しながらでした。
いろいろと聞かせてもらう中で、「なるほど、こういった形もあるのか」「なるほど、こういう感じもあるのか」って思いながら、本当にいっぱいやりました。
若山:そうだったんですね。
ーー若山さんはオーディションで思い出に残っていることなどはありますか?
若山:まずオーディションの時に、監督が一人一人に顔をあわせて挨拶してくださったのが印象的でした。
その中でも、「等身大の高校生を描きたい」っておっしゃっているのが印象に残っていて。じゃああまり作り込んだりするよりは、あの高校生特有の素に近いものを演技で出していくのが必要なのかなって思ったことが記憶に残っています。
オーディションの現場で、あおいの絵をちょっとだけ見せていただいて、「オーディションの段階でこんな良いものを見せてもらえるんだ〜!」とファン目線で喜んだ覚えもありますね(笑)。
一同:(笑)。
長井:いくつかのカットだけですけどね。シチュエーションがわかるように絵コンテの抜粋を見ていただいたかと。
若山:こんないいものを見せてもらっちゃっていいんだ〜とか思いながら(笑)。
長井:全然大したものじゃないですよ(笑)。
ーーそういった経緯もありつつ、役を射止めたわけですね。あおいは改めてどんなキャラクターだと思いましたか?
若山:不器用なところもいっぱいあるんですけど、とにかくまっすぐな女の子だなと強く感じました。不器用なりにいろんなことに直面して、悩んで、ぶつかって、いろんな行動をします。
なんでも体当たりなあおいなので、とにかく愛しいなぁ、可愛いなぁって感じます。裏表がない純粋な、だけどちょっと不器用な可愛い女の子だと思います!
ーー不器用でまっすぐというところは監督も意識した部分だったんですか?
長井:あおいは、ハードル走があったら全部のハードルにちゃんと当たって、全部なぎ倒していく感じですよね。
一同:(笑)。
長井:全部当たる。でも、全部倒しながらでも進むんですよね。だから、あおいは主人公らしい主人公だと思います。
一個一個のぶつかったことに対して全部真剣に悩む。ある意味王道なキャラクターなんですけど、だからこそちょっと難しいんです。
あと、まぁ、わりと言葉が悪いキャラクターなので……。
若山:(笑)。
長井:僕たちは、あおいはただ口が悪いだけじゃなくて、ちゃんと根は良い子って思いながら作っているんですけど、それをちゃんと声で表現していただけるのかが課題でした。
若山さんの上品な声で、そういう部分がちゃんと見えてるんじゃないのかなと思います。
若山:ありがとうございます。ちょっと気恥ずかしいですね(笑)。恥ずかしい〜!
ーー若山さんが良かったポイントは、何だったのでしょうか?
長井:あおいって投げっぱなしの言葉が多いんですよ。「えーやだー」みたいに語尾を投げっぱなす。そこを気持ちよく投げっぱなせるか、という感じでしょうか。
汚い言葉を汚いまま言って、聞いてる人に嫌な気持ちにさせてもしょうがないですよね。
そこに下手な作意とかはなくて、さらっと投げだしても嫌みがない印象を与える声。そういう部分は、やっぱり人間性の部分になってくるのかなと思います。作品を見ている方にあおいの人となりが耳でわかるっていうのが一番大事で。
若山さんには、そういったところをちゃんとやっていただけて、あおいは本当にいいキャラクターになったなと思います。
若山:ありがとうございます。
ーーあおいは確かに口が悪いですけど、どこか応援したくなっちゃう性格をしていると思います。
長井:不器用って一言で言うと簡単ですけど、それをちゃんと芝居として見せるのは難しいと思うんです。
そういう風に伝わっているのであれば成功したなって思いますね。
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絵描きも声優の演技に負けられない
ーー若山さんの実際のアフレコ現場では、どういうアドバイスをされていたのですか?
長井:最初はどんな感じなのかなって、こちらも構えていたんですけど、一発目のアフレコをやってからは他の声優さんと同じ接し方を普通にしてましたね。
……なんかもう全然上手かった。
ーー(笑)。
若山:なんて言ったらいいかわかんないですね。恥ずかしいです(笑)。
長井:これはね、褒め殺し。
ーー褒め殺し(笑)。片や、若山さんはドキドキだったんじゃないですか?
若山:いや、ほんとにドキドキでした。「役が決まりました」ってご連絡いただいてから収録の日まで、「これ間違えてんじゃないの……?」って、実は思っていて。
長井:(笑)。
若山:名前は同じだけど、実は違う人と間違えてたり、取り間違えとかあるかもしれないって思って(笑)。
長井:そこまで不安だったんですか!?
若山:そこまで不安でした! もしくは当日行って「なんか違うな……」って思われたらどうしようって思って……。
もう収録までも不安で不安で。いろんなことに手を付けて、いろんなことにしがみついて、必死に当日アフレコ現場に行った感じがありますね。本当にいろんなものに頼って、勉強したり、練習したりしていました。
長井:ちゃんとそれが出ていたのがよかったですね。本当に上手でした。
若山:ありがとうございます。よかったです。無事に終わってよかったです。
ーー若山さんは、アフレコはどうでしたか?
若山:実際のアフレコも、自分の経験不足や力不足を補うのに必死だったんですけど、私とあおいちゃんがリンクする部分が多かったので、すごく難しいなと感じながらも、楽しんでできました。
スタッフさんやキャストのみなさんと一緒に作り上げている感じも楽しかったですし、あおいちゃんがどんどん動いていくのを追っていくのも、すごいな、楽しいなって感じましたね。
ーーリンクする部分もあったとおっしゃいましたが、あおいのどんなところが好きですか?
若山:あおいってだけで好きなんですが……しいていうなら、我が子のように好きなんです!
姉のあかねからすると、かなり歳が離れているので、自分の子供みたいな感覚が若干あるのかなって思うんですけど、でもあおいから見るとあかねは姉なんですよね。お母さんではなく姉。
お姉ちゃんなのに、なんでそんなに心配するだよって思っているところが多分あって、そういうときの反応がいかにも高校生の娘らしくて、本当に愛しいなって思います。
でも成長した物語の最後のほうのあおいも、ちょっと背伸びして大人っぽくしているあおいも、あとは最後に気持ちがあふれ出して走っていくシーンのあおいも好きですね。
……つまり全部(笑)。
一同:(笑)。
若山:細かく言っただけでしたね(笑)。
長井:ありがとうございます(笑)。
若山:本当に全部大好きです。言い表せない……。
ーー監督は、あおいのどんなところが好きですか?
長井:感情が隠せないところ、隠そうとして隠せてないところがやっぱりバカっぽくて可愛いなと。
大人っぽく頑張ろうとしているんだけど、やりきれていない不完全なところがやっぱ魅力なのかなって思いながら描いていました。
シーンによっては、若山さんの演技に合わせて田中さんが動きをかなり直したところもあるんですよ。
田中さんが若山さんからインスパイアされて、おもしろいフィルムになったなと思います。
ーーなかなかそういった作業は行われないと思うのですが。
長井:スケジュールのこともあるので、あまりやれることではありません。もちろんコンテである程度想定して、みんなが同じものを目指して作っていますし、役者さんもそれで成立するように芝居をしてくれています。
でも、そこを超えた芝居を見せられたら、絵描きも負けられないって思っちゃうことがあるんですよね。
スケジュール的に直せちゃう時期のシーンだったからっていうのもあるんですけど、良い才能がお互いに高め合いながら作れたのかなと思います。
若山:そう言っていただけると、すごくうれしいですね。アフレコの段階でかなり絵が出来ているところとかもあって、あの画のクオリティをみたら、「私が頑張らなくちゃ。そのままだと絶対にダメだな」って思ったんです。
長井:戦い負けないように。
若山:そうです。私には拙いところもいっぱいあったのに、何か影響を受けていただけたのは、すごくうれしいなって思います。
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若山さんの歌に「わーうまー」
ーー作品を見て感じたのですが、意外と幅広い年齢層のキャラクターたちが登場して、作品を見る世代によって、共感するキャラクターが違うのかもと思いました。お二人は、誰が一番共感できましたか?
長井:僕は、全員共感しているし、全員突き放してある程度見ないと、逆に描けなかったりするんです。
そのキャラクターだけを描いている最中は、そのキャラクターになりきったくらいのつもりで描きますけど、ちょっと離れると、こいつバカなこと言ってんなって思ったり(笑)。
一同:(笑)。
長井:バカも、良いバカだなって思う。そういう意味だと、どれが特別っていうキャラクターはいないんですけど、今回の作品で言えば、一番超然としたキャラが正嗣ですね。
アニメ的なヒーローポジションで、「こいつ本当に良いこと言うな!」って自分で描いておいて思いました(笑)。岡田さんのセリフもあるんですけど、共感うんぬんっていうよりも描いていて面白かったですね。
ーー正嗣はスーパーキッズでしたね。
長井:そう、スーパーキッズ。あいつがいなかったら物語がまとまらないみたいな。
ーー若山さんはどうでしょう?
若山:私はやっぱりあおいちゃんですね。私はあおいちゃんと境遇が似ていて、6歳上の姉がいて、やっぱり私の姉も物心がついたときに私が生まれているので、ちょっと親みたいな感覚があったりしたみたいなんです。しかも姉が「ガンダーラ(※)」が好きで。
※ガンダーラ
劇中であおいが歌う1978年にリリースされたゴダイゴの楽曲。
長井:へー!
若山:姉もゴダイゴが好きで、その中でも特に「ガンダーラ」が好きなんです。
私もベースが好きだし、ベースを持ちながら歌ったりとかもすごく好きで、そういうところで繋がる部分があって。
特に姉に対する気持ちとか、気持ちをぶつけるときの「あーやっちゃった」っていう気持ちは、あおいに共感できるなと思います。
ーーそれはすごい。あのガンダーラ、よかったです。
若山:ありがとうございます!
ーーサントラとかに収録されたらいいのにと願っています……!
長井:録りなおしとかしてないんですか?
若山:してないですね。
長井:あれ、アフレコ現場で歌ってもらったんですよ。
ーーそうなんですね!
長井:だから最初は、「若山さん歌えるのかなって」思ってたんですけど、歌いだしたら「わーうまー」みたいになって。
一同:(笑)。
長井:いい意味でなんかこうビックリしちゃって。
若山:本当ですか!?
長井:もちろんですよ!
若山:ありがとうございます!
長井:ちゃんと場を作って歌っていただいたわけではなく、アフレコが終わってそのままの流れでって感じだったので、歌録りとしては特殊な環境でしたね。
若山:でも、すごく楽しかったですね。ベースとドラムしか鳴ってない中で歌うなんて、超ワイルドじゃないですか。最高だなって思いながら歌いました!
長井:ありがとうございました(笑)。
若山:いや、こちらこそありがとうございます。ベースとドラムっていう、言葉が汚いんですが……クソかっこいい!
一同:(笑)。
<次ページ:不思議な要素は岡田さんの言葉がきっかけ?>
不思議な要素は岡田さんの言葉がきっかけ?
ーー本作は「思い出」みたいなものもキーワードになっているのかなと思うんですが、お二人の忘れられない青春の思い出みたいなものはありますか?
長井:僕はだいぶ遠くなりましたからね。
若山:ちょっと待ってくださいね。
ーーゆっくりで構いません。
長井:そうですね……。僕、高校を卒業した後、専門学校に行ったんですけど、行くのが早々に決まったんですよ。頭が悪かったので大学という選択肢がそもそもなかったんですけど(笑)。
平々凡々あとは高校3年やり切るだけだと思ったら、なぜか親に呼ばれて。なんかいきなり怒られて。「えっなんで俺急に怒られてるの?」って思ったら「先生から電話あって、お前が厳しい道から全部逃げて楽な道を選んだ」って言われて。
しかも僕の担任でもない先生からですよ。いったいなんの恨みがあったんだ……みたいな苦い思い出があります(笑)。
ーーなんかあったんしょうね(笑)。
若山:私はそれに比べると平凡な生活を送ってきたなぁと、今しみじみ感じました(笑)。
高校3年間ずっと美術部だったんですけど、文化祭のポスターを毎年作ることになってたんです。シルクスクリーンに手刷りで焼き付けて、何百枚も手でやるんです。
しかも、夏休みの間、クーラーのない美術室の作業で。本当に暑くて、足とかに絵具をつけながら、アイスを食べたりしてやっていましたね。なんか今思うとすごくいい思い出だなって思います。
長井:青春っぽい。
ーー青春ですね。
若山:そうですね、青春してたなっていうのを思いましたね。それぐらいかな、すみません(笑)。平凡な感じでした。
長井:確かに。僕もこうやってネタとして消化できれば、なかなかオイシイものを貰ったなと今にして思います。
ーー(笑)。話は変わるのですが、超平和バスターズの作品は毎回、少し不思議な要素が盛り込まれていますが、あれは何か理由があるのでしょうか?
長井:あれは、岡田麿里さんがポッといきなり言った一言から始まっていることが多いですね。僕らも最初は「えっ、ちょっと待って。今なんて言った?」っていうところから始まっていて。
実はあそこに理屈というものはそんなになくて、いわゆる設定的な部分を組み込んでいった結果と、作品としてのわかりやすさを盛り込んだ結果です。
今回で言うと、慎之介としんのが同一人物であるっていうのも、物語的なわかりやすさがありますよね。
不思議なものを欲しいわけではあまりなく、ほとんどが岡田さんの天啓ですね。岡田さんの天啓が下りてくるのを僕らはひたすら待っている感じですよ。
ーーなるほど。
長井:高校生の時の悩みと30歳の時の悩みを同じ瞬間に見られる。そういうギミックとしてのものでもあったりするんですけど、狙って不思議にしようと思っているわけではなく、気が付いたら不思議な話になっているっていうのが多いですね。
<次ページ:キーワードは新渡戸団吉!?>
キーワードは新渡戸団吉!?
ーー若山さんは、超平和バスターズの作品全体を通して、どのような印象がありましたか?
若山:私は、作品全体を通して、人間の感情や動きが繊細に描かれているなと感じました。
例えば、キャラクターが口に出した言葉と感じている気持ちが違うことってありますよね。切なくないよって言っているのに、気持ちでは切ないみたいな。
超平和バスターズの作品は、そういう痛みがわかるし、すべての物語が続いて感情が生まれていく流れもあって、見ている私たちの気持ちも乗っかって、同じ気持ちになれるんです。
実際にその痛みとか喜びを経験しているような感じがするので、すごく共感できるなって思います。
あと、特に痛みがリアル。“散る”ところって私すごく綺麗で好きなんですけど、痛みや散るって人間の儚いところで、すごく綺麗じゃないですか。
それが「嘘じゃないよ。本当の痛みだよ」ってちゃんと言われているような気がして、そういう作品は他にあんまり見たことがないなって思います。
長井:ありがとうございます。
若山:変なこと言っていなかったらいんですけど(笑)。
ーーでは最後に『空青』を楽しむためのヒントやキーワードを教えて下さい。
長井:キーワード、そうですね……。新渡戸団吉(CV:松平健さん)!
ーーまた意外なところですね(笑)。
長井:それが、意外とちゃんと映画らしい良い脇キャラになってくれたなって思っていて。あの人がいることによって、僕らが作った作品がより映画になった雰囲気があるんです。
今までは、やっぱりどうしてもTVシリーズの延長って感じで作ってきて、ずっと「映画ってなんだろう」と考えていたんです。
今回は、映画としては2作目ですけど、より映画になったと思えた一つのキーワードは、やっぱり新渡戸団吉かなと。
ーーでは若山さんお願いします。
若山:うーん、私は「ガンダーラ」ですかね。物語の最初から最後まで出てきて、メインキャラクターのそれぞれ4人の間を繋ぐものなんです。
「ガンダーラ」に注目して見ていただけると、繋がりが見えてくるんじゃないかなって思います。
ーー映画見る前は聴いておくといいですね。
若山:あ、そうですね!「ガンダーラ」ぜひ聴きましょう!
一同:(笑)。
[インタビュー/石橋悠 写真/相澤宏諒]