『キングオブコント』決勝のハープ演奏が凄いことになっていた。ザ・ギース高佐一慈が立てた「ハープの誓い」
昨年の『キングオブコント2020』(TBS/9月26日放送)。決勝進出10組に選出されたザ・ギースのコント内で高佐一慈が披露したハープ演奏は、ハープ業界を揺らした。衝撃はお笑いの垣根を越え、創業147年の老舗ハープ専門店・銀座十字屋からランチタイムコンサートに招待され、さらに今年8月2日の「ハープの日」にも特別ゲストとして演奏することに。そもそも、たったひとつのコントのためにハープを習得するってどういうことなのか。なぜそんな扱いにくそうな楽器を? 「笑いのための労力を厭わない男」高佐一慈に話を聞いた。
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自分で言うのもなんですけど、合っているような気がして
ザ・ギース高佐一慈のハープ演奏つきインタビューです
高佐一慈(たかさ・くにやす)
1980年、北海道函館市生まれ。函館ラ・サール高校在学中、校内でお笑いの試験「高佐共通一次」を実施したことも。早稲田大学では早稲田寄席演芸研究会に所属。特技にはハープ、パントマイムやピアノのほか、卓球も。YouTubeチャンネル『タカサ大喜利倶楽部』では毎回ゲストを招き、さまざまなスタイルの大喜利を試している。2004年、尾関高文と結成したお笑いコンビ、ザ・ギースで活躍中。
──高佐さんといえば『キングオブコント』決勝でのハープ披露が印象的ですが、あのコントが初めて披露された単独ライブ『スプリングボンボン』(2019年開催)前、ザ・ギースのおふたりは「ハープを探しています!」と呼びかけをされていましたよね?
高佐 してました、してました。
──ということは、ハープのコントをやろうという構想がまずあって、それを叶えるためにハープを手に入れようと?
高佐 単独ライブのネタ作りをしているときに「楽器を使ったコントができないかな」という話になって。ピアノはやってたので弾けるんですけど、それだと普通だし、何かおもしろい楽器がないかと考えたんですよ。バグパイプとかテルミンとか、いろいろ候補が出た中で「ハープじゃね?」と。ハープをネタに使ってる人って観たことないし、形もおもしろいし、自分で言うのもなんですけど、合っているような気がして。
「アポロン高佐」としてハープを携え『R-1ぐらんぷり2020』に出場、準決勝まで進出した
これは「ハープ芸人」としてやっていけるんじゃないか
──たしかに、似合ってます。
高佐 このコントの一番のハードルはハープを手に入れることで。調べたら中古でも3~40万するんですよ。さすがにひとつのコントに30万円かけるのはスベったときの代償がでかいなと。ツイッターで呼びかけたりまわりに聞いて回っていたら、ラバーガールのマネージャーさんのお友達の、お母様が持ってらっしゃるとわかりまして。
──おお!
高佐 連絡を取って、その方の豪邸にマネージャーと一緒に受け取りに行って。最初は単独のためだけだったので、1週間いくらというかたちでレンタルをお願いしたんです。
──そこから単独に向けてコントを作られた?
高佐 はい。「ハープが手に入るぞ! じゃあコントを作ろう」と。お借りしてから単独まで2週間くらいしかなかったんですけど、見よう見まねで独学で練習して披露したら、まあまあ反応がよくて。僕自身、やっていくうちにどんどんハープに愛着が湧いてきたんですよ。これは「ハープ芸人」としてやっていけるんじゃないかと。相方(尾関高文)は広島カープファンの「カープ芸人」なので、カープ芸人とハープ芸人のコンビとしてやれるんじゃないかと。
「最初のころ、夜に弾いていたら下に住む大家さんから苦情が来て、以来朝練習するようになりました。ハーピストは普通一軒家か1階に住むらしいんですけど、うちエレベーターのない4階なんですよね。運ぶのも大変で」
──語呂もよく(笑)。
高佐 貸してくれた方も、ライブを観てすごく喜んでくださって。「もしよければ今後もやりたいと考えています」とお伝えしたんです。そしたら「本当にハープを愛していますか?」と、誓いのようなことを聞かれまして。
──ハープの誓い。
高佐 でもう、「誓います、ハープを愛しています、一生添い遂げます」と。その熱意が伝わって、追加でお支払いをすることもなく、そのまま譲っていただいたんです。
──そこから見事にあのコントが持ちネタになって、決勝にも行かれたわけですね。ネタではないですが、おかずクラブのゆいPさんがプライベートでハープをやられていますよね?
高佐 僕のはアイリッシュハープですが、ゆいPはもっと大きいグランドハープですね。単独ライブの初日を終えて、ハープもウケて機嫌よく帰宅したら、ちょうど『ダウンタウンDX』(日本テレビ)でゆいPがハープを弾いている映像が流れて。スタジオは爆笑でしたけど、僕はひとりテレビの前で頭を抱えていました(笑)。ゆいPとはいつかハープ共演したいですね。
「湿度が高いと弦が切れやすくなるので、銀座十字屋さんは梅雨時期が書き入れ時だと言っていました」
「著名なハープ演奏者」に名前が
──ザ・ギースのコントはシュールと言われがちですが、私はそれよりも驚きの要素が強い、びっくりすることが多いなと思っていて。
高佐 それはありがたいです。驚かせたいというのはあるので。
──どういうふうにネタを考えているんでしょう?
高佐 みんなそうだと思うんですけど、ほかの人がやっていないことをやりたいので、できるできないはいったん置いて考えますね。スタッフさんが優秀なので、できそうもないことを実現させてくれるんですよ。
──『キングオブコント2018』で披露したサイコメトラーのコントでは、その場で動画を流したり。
高佐 あれも本当にスタッフさんみんなの力で作り上げたものです。舞台監督さんに出演してもらって、準決勝の日に会場外の駐車場で規定に収まるスクリーンをその場で作って搬入し、本番では動画を大竹(涼太)マネージャーが裏から流してくれて。
高佐一慈(ザ・ギース)ハープ演奏「宝箱を開ける音」
──『キングオブコント2015』のビフォーアフターのコントには小道具がたくさん出てきますよね? あの年の準決勝でMCのあべこうじさんが「ギースのリハーサルが長かった」と話していたのを覚えています。
高佐 いや本当にね、ご迷惑をおかけしてるんですよ。ただ、そういうキャラクターになっちゃったから、映像持ち込みとか小道具が大量にあるとか、多少のことは「ギースだからしょうがない」という空気になっていて、しめしめと思ってはいます(笑)。
──そして昨年はハープ。決勝後、ハープ業界からのラブコールが届いたんですよね。ハープ専門店から「ランチタイムコンサート」に呼ばれたり……。
高佐 やっぱりピアノとかと違って、音楽と関係のない場でハープが演奏されることってほとんどないみたいで、スターのように扱っていただいて、なんだか申し訳ないです。ウィキペディアでハープのことを調べていたら「現代の著名なハープ奏者」という欄に僕の名前が入ってて、「さすがに待ってくれ、これは荒らしだぞ」と思いましたけど、それを見たら責任感が増してきちゃって。もっとハープがんばらないと、って……。
──最初のレパートリーは決勝のコント内で披露された「糸」だと思いますが、その後YouTube(ザ・ギース Official YouTube Channel)の配信で、毎週違う曲を披露されていますよね?
高佐 はい。あれは1週間練習して。
──1週間でできるものですか?
高佐 ピアノをやってたので、耳コピでなんとなくできるんですよ。聴きたい曲あります?
グリッサンド(流れるように低音から高音を行き来する演奏法)のバリエーションを披露する高佐
──えっ……YOASOBIとか?
高佐 (ハープでYOASOBI「夜に駆ける」を弾く)
──すごいです! 今後、ハープにはどう取り組んでいくつもりですか?
高佐 とりあえず今は、8月2日の「ハープの日」に久石譲さんの「Summer」を披露すべく練習しています。
──プロのハープ奏者の方に習う動画も更新されていますが、独学とはやはり違うものですか?
高佐 全然違いますね。独学でやっていたころは手首が浮くクセがあって、ハープ奏者が見ると気になるらしいんですよね。もうそこは言わせないぞと、今弾き方を矯正しているところです。今は毎朝3~40分くらい、基礎練からやってます。
毎日100個、大喜利に答えるという訓練
──結果、今はピンネタや別のコントにも広がっていますが、最初はたったひとつのコントのためにハープを始めたわけですよね? そのために新しく何かの技能を身につけるって、あまり聞いたことがないです。
高佐 だって労力かかりますもん。無駄ですもんね。僕にはそのへんの損得勘定が欠落しているのかもしれない。練習する労力とかコントにそういうものが乗っかる負荷の心配より、「実際に弾けたほうがおもしろいだろうな」のほうが強いんです。
高佐一慈(ザ・ギース)ハープ演奏『暴れん坊将軍』のテーマ
──高佐さんは練習が苦にならない人ですか?
高佐 そうかもしれないです。コツコツやって、徐々に自分の身についていくことが好きなんでしょうね。
──かなり前ですが、配信番組でダンスを1週間で完コピするというチャレンジもされていましたね。
高佐 今はなきUstreamの配信番組(『ICEMAN SHOW 公開処刑』)ですね。
──コントでもダンスを踊られることがありますが、もともとダンスを?
高佐 21、2歳ごろ、2年くらいダンススタジオに通ってたんです。何か目的があったわけじゃなく、当時組んでいた相方がダンスをやってたんで、ただそのまねをして。
──これもコントの中で吹きこなしていますが、オカリナはなぜ吹けるんですか?
高佐 あれは基本縦笛と一緒なので、縦笛が吹ければ吹けます。
──幕間などでさらっと披露されるパントマイムは?
高佐 大学にパントマイムサークルがあって、そこで。
──ピアノは子供のころから?
高佐 小学校1年から中学校3年くらいまで習ってました。
──マジックはいつごろからですか?
高佐 マジックは子供のころから好きで。親戚をびっくりさせてやろうと思って、簡単なトランプマジックをやっていたんです。ひとりでコツコツやるのが好きなんですよね。だから大人になってからも、マジックの本を買って、誰に見せるでもなく「こういうのがあるんだ」とか、「これできたらいいな」とか黙々と練習してて。あとマジックバーでウェイターのバイトをして、そこに来るマジシャンの方に教えてもらったりしました。
絵が苦手だったが、大喜利で絵の回答ができるようになるため、ペガサスだけは訓練して描けるようになった。「偶然ですけど、ハープといいペガサスといい、どこかしらギリシャ感が入っちゃってますね」
──そうやって一つひとつ、獲得してきたんですね。高佐さんが習得した技能の中で一番驚いたのが、大喜利で。失礼ながら以前は高佐さんにそれほど大喜利好き、得意というイメージがなかったのですが。
高佐 いやあ、コンプレックスだったんですよ。
──練習を積み重ねて、今ではいろんな大喜利ライブに出られたり、YouTubeで大喜利のチャンネル(タカサ大喜利倶楽部)を持っていたりして。
高佐 「努力して大喜利ができるようになる」ってめちゃくちゃ恥ずかしいですけど、本当のことなのでしょうがないですね(笑)。高校時代から大喜利は好きだったんですよ。でも芸人になってすぐ、コーナーでやった大喜利で全然ウケなくて、落ち込みまして。あと2004年ごろかな、『ダイナマイト関西』(バッファロー吾郎主催の大喜利ライブ)のDVDを観たときに、いろんな人のいろんなタイプの回答があって衝撃を受けたんです。そこからどうやったらおもしろい回答が出せるのかなと思って、芸人さんごとにお題と回答を文字起こしして。
──文字起こし!?
高佐 その人の考え方とか筋道を知りたいじゃないですか。で自分なりに法則をまとめていくうちにのめり込んで、それが今もつづいている感じです。
──法則というのは?
高佐 これはね、身も蓋もない結論ですけど、結局人それぞれなんですよ。自分の法則を見つけるしかないですね。最近はあまりやっていませんけど、3カ月間、ひとりで毎日100個大喜利に答えるトレーニングをしていたこともあります。ひとつのお題につき最低10個は答えを出す。その10個も全部切り口の違うものにする。すると100個達成するのにだいたい7、8題答える感じになります。
──毎日100個。
高佐 最初のころは、100個答えるのに4時間半かかってたんですけど、最終的には2時間半くらいでできるようになりました。
ギャグで知った「危険な場所に飛び込む」生き方
──さまざまな技能を学んで習得していく高佐さんは、まわりの芸人さんの習慣とか、ネタの作り方を学んで参考にすることもあるんでしょうか?
高佐 一度試してみますけど、やっぱりその人に合ったやり方というのがあるんでしょうね、結局できないですね。バッファロー吾郎A先生のギャグで、「♪平愛梨が保険証なくす~」というのがあるんですよ。そのギャグが、『すいているのに相席』(ザ・ギースも参加するユニットライブ)で、「松平健さんがマツケンサンバの振りの練習中に保険証をなくす」という長尺コントに変わったんです。それを目の当たりにしたときは、「ギャグからコントが生まれることがあるの!?」ってすごい衝撃で。あれは自分ではできないです。
行き止まりに見えない行き止まりの道を探すのが趣味。『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)出演の際、タモリにプレゼンし、一緒に歩いた「東京のベスト行き止まり」の場所で撮影
──そういえば高佐さんは、ギャグもけっこうやられていますよね。
高佐 隠れギャガーです(笑)。それも『ギャグラリー』というイベントになぜか呼んでいただいて。やるからにはガーッとやっちゃう性格なんで、どんどんハマっていって、ギャグの奥深さを知って……。芸人はみんな、ギャグをやったほうがいいと思うんですよね。
──ギャグをすることによってしか発揮されない何かがある?
高佐 特に『ギャグラリー』はしりとりでギャグを披露していくので、用意したものを出せるとは限らない。だから基本、ウケるかスベるかわからないものをとにかくパッとその場で出す。まあ、だいたいスベるんですよ。でもその“危険な場所に飛び込んでいく”姿勢はお笑いにすごく大切だなって思うんです。こんな大風呂敷広げていいかわからないですけど、これは生き方にもつながってくるなと。
──常に危険なほうを選ぶという生き方。
高佐 そうです。そのほうがヒリヒリしておもしろいですし、人生も豊かになりますし。……何を言ってるんだろう(笑)。でも僕自身、そういう芸人さんのほうが好きだったりしますし。
──ギャグについてもほかの芸人さんたちを分析して練習を?
高佐 そうですね。CMのフレーズを替え歌にするとか、すでにあるものをずらすというのが多いんですけど、サバンナの八木(真澄)さんとかは分析できないです、本当にすごい。「カアカアカア」と手を羽ばたかせて、ロックオンした人の肩に止まって「肩もみカラスだよ」って、どういう発想で思いつくんだろう? でもこれ、僕がそのままやっても絶対おもしろくないんですよ。大喜利の法則もギャグの作り方も、結局自分に合ったものを見つけるしかないんですよね。
後輩にナメられている今が心地いい
──先日『あちこちオードリー』(テレビ東京)で、ザ・ギースがライブシーンで最年長になりつつあるという話をされていましたが。
高佐 最近はけっこう下の世代の子たちとライブで一緒になるんですけど、僕らはわりとみんなと話すほうだと思うんですよ。僕は同世代の人たちとライブに出ていたころ、そこまでがっつり仲ができ上がっているわけでもなかったので、むしろ今のほうが居心地がいいですね。
──下の世代とのほうが。
高佐 ハープもみんなからいじってもらえるし、いい感じでナメられるのがすごくやりやすい。僕らって見た目とか雰囲気、ネタの傾向からなかなかいじられない芸人人生を歩んできて、それがコンプレックスでもあったんですよね。でも、それがちょっとずつなくなってきて。
──同世代ですが、GAG福井(俊太郎)さんにも……。
高佐 私服のダサさをいじられてますね。ありがたいです。
──福井さんとの配信トークライブ(『GAG福井に聞く』。配信は終了)で『キングオブコント』の話になったとき、福井さんが「次ももちろん出ますよね。高佐さん、約束したじゃないですか」と言っていましたね。共に4回決勝に行っているふた組が、挑戦しつづける約束をしていらっしゃる。
高佐 はい。今年ももちろん出ます。今年の『キングオブコント』はユニットも解禁されましたし、マヂカルラブリーも出ると言ってるし、お祭りみたいになって、盛り上がりそうですよね。と言いつつ、僕ら6月末には漫才の単独ライブをやるんですが。
──本来、恒例のコントの単独ライブをやってネタを作る時期に。
高佐 そうなんですよ。今は漫才に首を締められてしまって、コントに手が回らないんです。『M-1』にももう出られないのに……。
──なぜ、漫才ライブをやろうと?
高佐 思いつきです。やっぱり、観る人をびっくりさせたいので(笑)。コントでハープ弾くとか、芸歴20年近いコント師が漫才の単独ライブをやるとか。誰もやってないこともですけど、自分たちがやってないこと、新しいことにどんどんチャレンジしたいなと思います。
「ハーピストは海外でコンサートをやるとき、弾き終わったらそこでハープを売っちゃうこともあるらしいです」。ハープを極めることで「ハープあるある」も獲得しつつある高佐